養育費の減額|条件・解決方法・適正金額を解説【計算機付】
養育費を取り決めた後、取り決め当時に前提としていた事情に変更があった場合は、養育費を減額できることがあります。
もっとも、いかなる事情の変更でも減額が認められるわけではなく、一定の条件に従いつつケースバイケースで判断されることになります。
そこで、ここでは具体的にどのような場合に養育費の減額がされるかについて解説し、減額後の適正金額や、減額に関する争いの解決方法についてもご紹介していきます。
養育費が減額され得る典型的なケース
養育費が減額され得る典型的なケースには、以下のようなものがあります。
養育費を支払う側の事情 | 養育費をもらう側の事情 | |
---|---|---|
|
|
養育費が減額されるのはどのような場合か(減額の条件)
養育費の金額は、通常、その当時の父母の年収、子どもの年齢・人数等を前提として取り決められます。
そして、取り決め後にこのような事情に変更が生じた場合には、養育費の変更ができると考えられています。
ただし、一度された取り決めは尊重されるべきであり、ささいな事情の変更でも減額ができるとするのは望ましくありません。
また、従来の取り決めの際に予測できた(取り決めの前提としていた)変更や、減額を求める側の責任で生じた変更である場合も、それを理由に減額を認めるのは不当といえるでしょう。
そこで、裁判実務においては、養育費の減額が認められる「事情変更」があったかどうかは、
- 従前の取り決め内容を維持するのが相当でないといえる程度の重要な変更か
- 従前の取り決めの際に予測できなかった変更か
- その変更が当事者の責任により生じたわけではないか
などの諸事情に基づき判断されています。
先にご紹介した典型的なケースは、通常は減額が認められる「事情変更」といえますが、あくまで個別的に判断されることになります。
養育費を支払う側の事情
収入が大幅に減少した
どの程度の減少を「大幅な」減少というかについて、明確な基準はありませんが、裁判例では2割程度減少した場合に事情変更を認めるケースが多い傾向にあります。
ただし、減少した理由(会社の都合上やむを得ない減少か、自身の意思による転職などで減少したかなど)等も含めて総合的に判断されることになります。
また、収入が減少したとしても、それが従前の取り決めの際に予測できた場合は事情変更には当たらないとされます。
たとえば、会社員の方の残業手当やボーナスなどが減少することは予測できますし、自営業の方の場合も、ある程度の業績の悪化とそれによる収入の減少は予測できますので、事情変更には当たらないとされる可能性が高いと考えられます。
再婚して扶養家族が増えた
再婚すると、
- ① 再婚相手
- ② 再婚相手との間に実子が生まれた場合はその子ども
- ③ 再婚相手の連れ子と養子縁組した場合はその子ども
に対し、扶養義務を負うことになります。
再婚やそれに伴う養子縁組は本人の自由な意思に基づくものではありますが、通常は養育費の減額が認められる「事情変更」と考えられています。
ただし、従前の養育費の取り決め時に既に再婚相手と交際していた場合などは、再婚して扶養家族(再婚相手・養子)が増えることは予測の範囲内といえるでしょう。
その場合、事情変更に当たらず、養育費の減額が認められない可能性があると考えられます。
一方、再婚相手との間に実子が生まれたときは、従前の養育費の取り決め時に再婚が予測できた場合であっても、実子が生まれることは予測できない(抽象的な可能性にとどまる)変更として、養育費の減額が認められる例が多い傾向にあります。
養育費をもらう側の事情
再婚して子どもを養子縁組した
養育費をもらう側が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組した場合、養親(再婚相手)が第一次的な扶養義務を負うことになるため、通常は減額が認められます。
ただし、養親が病気で働くことができないなど、子どもを扶養する力がない場合は、減額は認められないでしょう。
収入が大幅に増えた
減額が認められるためには、養育費を減額しなければ不公平であるといえる程度に「大幅に」収入が増えている必要があるでしょう。
また、以前は専業主婦だった方が離婚や子どもの成長をきっかけにパートなどを始めることは、通常は予測の範囲内といえるため、これを事情変更として養育費の減額をすることはできない場合が多いでしょう。
さらに、養育費をもらう側の収入が増えたものの、子どもの成長・進学などにより多くのお金がかかるようになった(増額する事情も併存している)という場合も、減額が認められない場合があります。
減額後の適正金額はいくら?シミュレーターで簡単に計算!
変更後の事情を前提に、一般的な算定方法に基づき養育費を算定し直してみると、減額後の養育費の適正金額の目安を確認することができます。
一般的な算定方法とは、家庭裁判所で用いられている「養育費算定表」に基づいて算定するものです。
【 養育費算定表はこちら ⇒ 養育費算定表(PDF) 】
引用元:養育費・婚姻費用算定表 |裁判所
算定表の詳しい見方については、こちらのページをご覧ください。
当事務所では、養育費の目安を素早く確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動計算できるサービスをご提供しています。
なお、シミュレーションの結果はあくまで参考程度にとどめていただき、具体的には専門の弁護士にご相談されるようにしてください。
特に以下のような場合は、算定表では考慮されていない事情を考慮する必要があり、シミュレーション結果とは大きく異なる可能性があるのでご注意ください。
- 従前の取り決め内容に特別支出(私立学校の費用、塾代など算定表で考慮されていない費用)が考慮されている場合
- 財産分与や慰謝料との調整として算定表よりも高額又は低額の養育費を支払う合意がされている場合
- 養育費を支払う側が再婚して扶養家族が増えた場合(考慮に入れる扶養家族の範囲や、再婚相手の収入を考慮するか否かなどにより算定方法が異なります。)
養育費の減額に争いがある場合
養育費の減額を相手(もらう側)が拒否する場合
ご自身が養育費を支払う側であり、相手に養育費の減額請求をしたものの、相手に減額を拒否された場合は、減額について争いになるといえます。
この場合、勝手に養育費を減額してしまうことはできません。
減額についての合意や決定がないのに勝手に減額してしまうと、相手から強制執行等(強制的に養育費を回収する手続き)をされるリスクもあります。
そのため、主体的に争いを解決するための手段を講じていく必要があります。
養育費の減額をさせたくない場合
ご自身が養育費をもらう側であり、相手(支払う側)から減額請求されたものの、減額させたくない場合も争いになるといえます。
この場合、相手が主張する減額の理由に納得できない場合と、減額の理由があることは認めるが減額に応じたくない場合があると考えられます。
いずれの場合も、減額されたくないからと相手に取り合わないでいると、最終的には裁判官に減額についての判断(ご自身に有利な判断とは限らない)がされてしまうことになります。
そのため、減額しないこと(又は減額する金額を小さくすること)について相手と交渉したり、裁判所の手続で対応したりして解決していく必要があります。
争いを解決する方法とは?
養育費の減額に関する争いを解決する方法としては、
- 当事者同士で協議する
- 弁護士に交渉してもらう
- 養育費の減額調停
があります。
当事者同士で協議する
当事者同士で話し合い、減額することや、いくら減額するかについて合意がまとまれば、特段費用もかからず、早期に解決することができます。
ただし、当事者同士では感情的な対立が生じやすく、そもそも話し合いを始めることすら難しい場合もあるでしょう。
話し合いを始められたとしても、冷静に話し合いを進められなかったり、お互いに譲り合えずに膠着状態になってしまうことも多いでしょう。
また、お互いに法律の考え方を前提とした上で、対等に話し合えればよいですが、そうでない場合は一方に不利な条件で合意が成立してしまうなど、適切でない解決となってしまうおそれもあります。
弁護士に交渉してもらう
裁判所を利用せず、弁護士に代理人として相手と交渉してもらい解決を目指す方法を「代理交渉」といいます。
法律の専門家であり、交渉のノウハウにも精通した弁護士に代理交渉してもらうことにより、本人同士で協議する場合よりもスムーズに話し合いを進め、適切な解決につなげることができます。
また、裁判所を利用せずに弁護士が直接相手と交渉するので、裁判所のペースに合わせる必要がなく、早期解決につながります。
さらに、裁判所を利用した手続きに比べ、弁護士費用も安く抑えられる場合が多いです。
ただし、あくまでも話し合いによる解決を目指すものですので、相手が話し合い自体に応じない場合や、全く譲り合う気がない場合などは、裁判所を利用した手続き(調停・審判)に進まざるを得なくなります。
養育費の減額調停
調停とは、裁判所において、裁判所(調停委員会)に仲介してもらいながら話し合いをし、合意による解決を目指す手続きです。
裁判所での手続きなので、当事者本人同士で話し合うよりも冷静に話し合いやすくなることが多いでしょう。
ただし、調停は裁判所のペース(話し合いの時間は月1回、1回当たり2時間程度)で進められるので、解決までに時間がかかります。
また、話し合いの日(調停期日)の度に裁判所に出向く必要があるので、労力もかかります。
さらに、話し合いの仲介をしてくれる調停委員のほとんどは法律の専門家ではなく、立場上も一方の当事者に有利になる助言などはできません。
そのため、ご自身でしっかりと状況を把握し、解決案の検討をしなければ、不利な条件で合意がまとまってしまうおそれもあります。
これを回避するためには、調停の対応を弁護士に依頼するのがおすすめですが、調停は時間・労力がかかる手続きであるため、代理交渉の場合よりも弁護士費用が割高になることがほとんどです。
養育費の減額審判
調停で話し合っても解決ができなかった場合、調停は「不成立」として終了し、引き続いて自動的に「審判」という手続きに移行します。
「審判」とは、裁判官が当事者双方の言い分や提出資料を検討して一定の結論を出す手続きです。
これまでご紹介した話し合いによる方法で解決できない場合は、最終的に審判で裁判官の結論をもらって解決することになります。
裁判官が結論を決めるので、柔軟な解決(法律上は認められないような条件でも当事者双方に利益がある場合はその条件で合意する等の解決)は困難になります。
解決方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
当事者同士で協議する |
|
|
弁護士に交渉してもらう |
|
|
養育費の減額調停 |
|
|
以上の各解決方法のメリット・デメリットを踏まえると、弁護士による代理交渉がおすすめです。
代理交渉で解決できない場合に、次善の策として調停の申立てを検討されるとよいでしょう。
弁護士に依頼する場合の費用の目安
現在は弁護士費用は自由化されており、各法律事務所が独自に定めているため、依頼する弁護士により費用は異なります。
ただ、以前は弁護士費用に関して弁護士会としての基準があり(旧弁護士報酬基準)、現在においてもこの基準を踏襲している事務所も多いかと思います。
旧弁護士報酬基準を参考にすると、養育費の減額について弁護士に依頼する場合の費用の目安は以下のようになります。
項目 | 内容 | 目安 |
---|---|---|
着手金 | 弁護士に依頼したときに最初に支払うお金 | 20万円〜50万円(交渉又は調停の費用。ただし交渉の方が割安になっている場合が多い。) |
報酬金 | 事件が終了したときに支払うお金 | 減額できた(または減額を阻止できた)養育費の2年〜5年分の10%〜16% |
根拠:旧弁護士報酬基準
まとめ
以上、養育費が減額される条件、減額され得る典型的なケース、減額後の適正金額、争いがある場合の解決方法などについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
養育費は原則として子どもが成長するまで継続的に支払うものですので、減額できるかどうかは、支払う側にとっても、もらう側にとっても重大な問題となります。
減額できるかどうかや、どのくらい減額できるかは、具体的事情に沿って検討する必要があり、専門家でないと見通しを立てるのが難しいものです。
そのため、養育費の問題に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
当事務所では、離婚問題を専門に扱うチームがあり、養育費の減額について強力にサポートしています。
LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており、全国対応が可能です。
養育費の減額については、当事務所の離婚事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、養育費の減額についてお悩みの方にとってお役に立てれば幸いです。
関連動画はこちら
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?