事故で入院した場合の保険金は財産分与の対象になる?

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

交通事故の損害保険金と財産分与について質問です

結婚期間中に、夫が交通事故にあったことで支払われた損害保険金については、財産分与の対象となるでしょうか。

事故の保険金や示談金は、財産分与の対象となる可能性があります。

ただし、保険金のうち、治療により入通院した場合や後遺障害が残ってしまった場合に請求できる入通院慰謝料や後遺障害慰謝料については、財産分与の対象とならないとされています。

このページでは、事故によって支払われた保険金が財産分与の対象になるかについて弁護士が解説します。

財産分与とは

財産分与とは、離婚する際に、夫婦が結婚生活の中で協力して築き上げた財産を公平に分配することをいいます。

財産分与の対象の典型例としては、通常、預貯金・現金、不動産、生命保険の保険金(解約返戻金)、自動車、株式等があげられます。

財産分与の対象については、例外があります。

特有財産

結婚前から取得していた財産や、結婚後であっても親などから個人的にもらった財産は、財産分与の対象とはならない場合があります。

これを特有財産といいます。

財産分与では、いつの時点(基準時)の財産を対象とするかが問題となることがあります。

この基準時については、離婚前に別居する場合、通常、別居時となることが多いです。

別居せずに離婚をした場合は、離婚時が基準時となることが多いです。

財産分与について、詳しい解説は以下のページを御覧ください。

 

 

保険金はどうなる?

生命保険の保険金(解約返戻金)が財産分与の対象となることは、少なくとも、家裁実務上は争いがないと思われます。

これは、結婚後、生命保険の保険料として定期的に支払っており、金融資産的な側面を有するからです。

また、学資保険についても、同様に考えられます。

これらの保険金については、基準日における解約返戻金相当額を財産分与の対象とすることが一般的です。

 

 

交通事故の損害保険金や示談金はどうなる?

では、交通事故の後の賠償金が加害者の損害保険から支払われた場合はどうなるでしょうか。

これは、事案によるといえます。

判例 保険金全体を財産分与の対象とした裁判例

損害保険金のうち、自賠責保険から支払われた部分について、「実質的に考えれば婚姻中の夫婦の生活の原資となるべきもの」であるとして、保険金全体を財産分与の対象としました。
【大阪地判S58.9.8】

判例 賠償金を財産分与の対象としないとした裁判例

交通事故により高次脳機能障害という重い後遺障害が残った場合に、被害者が得た賠償金を財産分与の対象としないとしました。【東京高判H12.3.9】

また、損害保険金の保険金の項目ごとに、財産分与の対象となるかどうかを判断した裁判例もあります。

保険金のうち、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料とは、交通事故が原因で怪我を負い、入通院治療を受け、後遺障害が残ったことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料です。

そのため、これらの慰謝料については、妻が寄与して獲得したものではなく、財産分与の対象とならないとされています。

もっとも、逸失利益(事故により負った傷害や後遺障害がなければ、得ることができていたはずである収入等)の部分については、夫の労働による対価を算出して現在の額に引きなおして計算されるものです。

判例 逸失利益を財産分与の対象とした裁判例

夫が労働する際には、その期間中の配偶者による寄与が想定されているとして、財産分与の対象となるとしました。【大阪高決H17.6.9】

執筆者の私見ですが、財産分与の制度趣旨を考えると、交通事故の損害保険金については、項目毎に財産分与の対象となるかを個別具体的に判断することが妥当と考えます。

交通事故の損害費目は、大きく分けて、

①積極損害

②休業損害

③後遺障害逸失利益

④慰謝料(入通院慰謝料や後遺障害慰謝料)

に分けられます。

損害費目 内容 財産分与の対象
①積極損害 治療費や通院交通費など、交通事故に遭ったことによって、支出しなければならなくなった金額を損害とするもの
②休業損害 給料が減る交通事故にあったことで会社を休まざるを得なくなったり、家事ができなくなってしまったことを損害とするもの
③後遺障害逸失利益 交通事故に遭ったことで後遺症が残ってしまい、その結果、本来得ることができたであろう利益を失ったことを損害として捉えるもの
④慰謝料(入通院慰謝料や後遺障害慰謝料) 交通事故によって受けた精神的な損害を金銭に換算したもの ×

上記のうち、①積極損害、②休業損害については、夫婦の同居期間中の損害であれば、財産分与の対象と考えてよいかと思われます。

③後遺障害逸失利益については、ケース・バイ・ケースで判断する必要があるでしょう。

例えば、損害金のうち、別居後の逸失利益が大半であれば財産分与の対象とはならないと考えられます。

④慰謝料については、精神的な苦痛に対する損害であるため、財産分与性は否定される可能性が高いと考えます。

財産分与については、以下のページで解説しています。

 

 

まとめ

以上、保険金と財産分与について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

財産分与においては、まず、対象財産をすべて洗い出して確定することが重要です。

また、財産の内容をすべて把握できたとしても、それが特有財産となるのか否か、判断が難しい場合があります。

特に、事故の損害保険金や示談金については、裁判例でも判断が分かれるものであり、その内容を実質的に見て判断していくべきです。

そのため、保険金の財産分与については、離婚問題の専門家に相談されることをお勧めします。

当事務所では、離婚問題に注力した弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、離婚に関する様々な情報やノウハウを共有しており、財産分与を強力にサポートしています。

全国対応しており、遠方の方に対しては、LINEなどを活用したオンライン相談も実施しています。

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