離婚の際に婚氏を選択した何年も後に、旧姓に戻ることはできますか?

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

旧姓に戻ることはできますか?

離婚する際に夫婦の姓である「A野」を名乗ることに決めました。

しかし、10年以上経った今、お墓の関係で旧姓に戻りたいと考えています。

今さら旧姓に戻ることは可能なのでしょうか?

 

弁護士の回答

家庭裁判所が「やむを得ない事由がある」と判断した場合に限り、許可がおり、旧姓に戻ることができます

離婚の際、民法上は、旧姓に戻るのが原則です(民法767条)。

しかし、離婚の日から3ヶ月以内に婚姻時の氏を称する届けを出すことによって、婚姻時の姓を名乗り続けることが可能になります。

ご相談の例のような婚姻時の姓を選択してしばらくしてから旧姓に戻す場合、やむを得ない事由が必要となってきます。

以下で、具体的に解説します。

再び旧姓に戻ることは可能?

結論からいうと、一度、婚姻時の姓を名乗り続けることを選択した以上は、自分の判断だけでは旧姓に戻すことは不可能です。

戸籍法107条1項は、「やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」と規定しています。

すなわち、婚姻時の姓を名乗り続けることを選択した後に旧姓に戻すには、「やむを得ない事由」を主張して、家庭裁判所の許可を得ることが必要なのです。

 

 

離婚後に旧姓に戻るために必要な手続き

設例のように、離婚時に夫の姓を選択したものの、その後旧姓に戻りたいと考えた場合、家庭裁判所に対し、「氏の変更許可の申立て」を行わなければなりません。

ここでは、氏の変更のために必要な手続きについて解説します。

 

必要書類

氏の変更許可の申立書

氏の変更をするためには家裁に申立書を提出する必要があります。

当事務所では、氏の変更許可の申立書のサンプルを無料でダウンロード可能です。

PDF形式でダウンロード

 

戸籍謄本

申立人(氏を変更したい人)の戸籍謄本(全部事項証明書)が必要となります。

 

氏の変更の理由を証する資料

氏の変更には「やむを得ない事情」が必要となります。

ケース・バイ・ケースですが、設例のような場合、結婚前の戸籍(除籍,改製原戸籍)から現在の戸籍までのすべての謄本や本人の陳述書等の資料が考えられるでしょう。

 

 

同一戸籍内にある15歳以上の者の同意書

例えば、設例の場合で、同一戸籍内に15歳以上の子供がいたとしましょう。

この場合、この子供の同意書が必要となります。

具体的には、母親(戸籍の筆頭者)の氏が旧姓に変更されることにより、自分の氏も旧姓に変更されることに同意する旨が記載されている書面となります。

同意書のサンプルについては、上に掲載している「氏の変更許可の申立書」にて確認できます。

 

氏の変更許可の申立書の提出先

氏の変更許可の申立書を作成したら、申立人(氏を変更したい人)の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します。

管轄裁判所を調べたい方はこちらをどうぞ

参考:裁判所の管轄区域|裁判所ウェブサイト

 

必要な費用

ご自身で手続きをされる場合は、家裁に収める収入印紙800円と連絡用の郵便切手のみで手続きが可能です。

 

 

どのような場合に家庭裁判所の許可がおりる?

これは、ケースバイケースで、統一した判断がないのが現状ですが、平成15年10月21日の福岡高裁の決定が参考になります。

この決定のなかで、福岡高裁は要旨として、次のように判示しています。

判例 平成15年10月21日の福岡高裁の裁判例

氏は、社会生活をするうえで、個人の同一性を識別するために重要な意義を有しているから、やむを得ない事由がなければ変更できない。

しかし、離婚の際は民法上原則復氏であり、婚氏の継続は例外である。

婚氏の続称については、制度の理解が不十分なものが多く、事後的にも簡単に復氏できると考えている者も少なからずいる。

子どものためやその他の諸事情により、自らの意思を抑えて婚氏を続称する者がいることも社会的事実である。

昨今の姓に対する考え方の変化

これらの事情を考慮すると、婚氏を継続使用した者が婚姻前の氏への変更を求める場合は、一般の氏の変更の場合よりも「やむを得ない事由」の有無の判断は緩やかに解釈するのが相当である。

近時のこの問題についての審判例を考察すると、概ね、上記の判断基準で許否が判断されていると思われます。

その他の要素として、氏の変更(復氏)の目的が消費者金融等からの借金を可能にするため等の不当な目的がないこと、(単に実家のお墓に入るだけにとどまらず)祭祀継承者になるなどの事情があること、(子がいる場合)その子の氏についての意思等が考慮されることが多いようです。

今回の場合、下記の事情があったことを考慮すると、たとえ8年という期間、婚氏を用いていたとしても、裁判所の判断で旧姓に戻す許可が得られる可能性は十分あるといえるでしょう。

氏の変更(復氏)の事情の具体例
  • 本心としては、離婚の際に復氏したかったが、自営の仕事を継続するために婚氏を続称する決意をしたこと
  • 自営の仕事を辞めることになり、復氏に支障はなくなり、また、仕事を辞めることになったことから社会的にも影響がないこと
  • 借金もなく、不当な目的とはいえないこと

氏の変更が認められた事例については、以下をご覧ください。

 

 

氏の変更許可の申立書のサンプル

氏の変更をするためには家裁に申立書を提出する必要があります。

当事務所では、氏の変更許可の申立書のサンプルを無料でダウンロード可能です。

【氏の変更許可の申立書】のひな形をダウンロード

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離婚後のお手続きも含めてサポートさせて頂きます。

弁護士へのご相談は以下からどうぞ。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 

離婚後に旧姓に戻さない場合のメリット・デメリット

旧姓に戻さないメリットについて

設例のように、婚姻時の姓を相当長期間使用している場合、その姓を使い続ける方が面倒ではないと考えられます。

すなわち、旧姓に戻る場合は家裁の許可が必要となります。

このような手続きに慣れていない方が必要書類を集め、申し立てるのは一苦労でしょう。

また、ご友人、職場の同僚、近所の方に対して、婚姻時の姓を称していた場合、旧姓に戻ってそれを説明するのも一手間かかると思われます。

 

ワンポイント:通称名について

もし、周囲の方々に対して旧姓に戻ったことを秘匿しておきたい場合は、婚姻時の姓を通称名として使用するという方法もあります。

すなわち、戸籍上は旧姓に戻り、社会生活においては婚姻時の姓を名乗り続けます。

こうすることで、説明する煩わしさから解放されるでしょう。

 

旧姓に戻さないデメリットについて

離婚しているのに元夫の姓を使い続けることに対して、ストレスを感じる方がいらっしゃいます。

あくまで感情的なものであり、実害はないかもしれませんが、人によってはデメリットと言えるでしょう。

 

 

まとめ

以上、婚姻時の姓を選択した方が旧姓に戻ることができるか、についてくわしく解説しましたが、いかがだったでしょうか。

旧姓に戻る場合、「やむを得ない事情」が必要であり、家庭裁判所の許可が必要となります。

家裁が許可してくれるかは状況によって異なりますが、不当な目的でなければ許可される可能性があります。

旧姓に戻る場合、メリット・デメリットがありますが、この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。

 

 

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