養育費に大学の費用分を増額できる?計算方法も解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

夫の承諾を得ていない場合、大学進学に伴う養育費の増額は難しい問題となることが多いですが、場合によっては裁判所が認める場合もあります。

実際、裁判所の判断も分かれているのが現状です。

さらに、奨学金やアルバイト代についても、これを考慮する審判例がある一方で、考慮していない審判例も存在します。

当事務所の離婚専門の弁護士が、この問題について詳しく解説いたします。

大学進学を承諾していた場合の養育費

まず、元夫が、子どもの大学進学を承諾していれば、大学進学費用についても一定の分担義務が生じるというのは実務において、それほど争いがないところだと思います。(とはいえ、「承諾」の認定が争われることは多いです。しかし、それは別の事実認定の問題ですから、ここでは触れません。)

大学進学費用とは、①授業料、②交通費、③テキスト代その他の費用の年間合計額を指すのが一般的です。

その分担割合は協議により定まりますが、親同士に収入がある場合は、2分の1にしたり、収入に応じて按分する方法をとることも多いです。

また、上記の年間合計額と算定表で考慮されているとされる額(15歳以上の子につき年間約33万円)との差額を協議する方法もあります。

 

大学進学を承諾していなかった場合の養育費

この場合、協議は難航することが多いです。

そして、裁判所も、当然にはその費用の分担義務が生じるとは考えていません。

 平成22年7月30日付 東京高裁決定

父親が子の大学進学を承諾していなかった事案です。

この事案において、東京高裁は「一般に、成年に達した子は、その心身の状況に格別の問題がない限り、自助を旨として自活すべきものであり、また、成年に達した子に対する親の扶養義務は、生活扶助義務にとどまるものであって、生活扶助義務としてはもとより生活保持義務としても、親が成年に達した子が受ける大学教育のための費用を負担すべきであるとは直ちにはいいがたい。」と指摘しています。

しかし、現在は、男女を問わず、4年制大学への進学率が高まっており、両親と同程度の教育は子に受けさせるべきという考え方が強いです。

実際、前述の東京高裁も、大学進学費用の協議にあたっては、次の要素を考慮すべきと指摘しています。

①大学進学費用の不足が生じた経緯、その額

②奨学金の種類、額及び受領方法

③子のアルバイトによる収入の有無及び金額

④子が大学教育を受けるについての子自身の意向及び親の意向

⑤双方の親の資力

⑥双方の親の再婚の有無、(再婚している場合には)その家族の状況

⑦その他諸般の事情

そのうえで、東京高裁は、学費の不足分と生活費の不足分に分けて不足分を算出しました。

 

学費、生活費の不足分の算出方法

まず、年間の大学費用から奨学金を控除し大学費用として不足分の月額を算出しました。

次に、生活費の不足分としては、養育費の月額から算定表上学費として考慮されている相当部分及びアルバイト代を控除し、算出しました。

東京高裁の判断では奨学金やアルバイト代も不足分の算定にあたって考慮されています。

大学費用を加算する場合の養育費の計算方法

養育費の加算が認められるとして、具体的にいくらを加算できるのか、養育費の計算方法が問題となります。

 

【問題点1】

具体的には、大学費用を養育費の義務者(通常は父親)が100パーセント負担するのか、それとも義務者と権利者(通常は母親)の収入で按分するのか、という問題があります。

 

【問題点2】

また、加算する額をどうするのか、という問題もあります。

 

問題点1について

筆者の経験上、基本的には義務者と権利者(通常は母親)の収入で按分する傾向です。

ただ、それぞれの収入等を考慮して、状況によっては義務者が100パーセント負担すべきケースもあると考えます。

 

問題点2について

養育費には公立学校相当分の授業料(15歳以上は25万9342円)が考慮されています。

したがって、大学費用から考慮済みの養育費を控除し、残額を加算するのが基本と考えられます。

ただし、当事者の状況によっては、例外的に大学費用をそのまま加算することもあるでしょう。

具体例

権利者の年収:300万円
義務者の年収:700万円
子ども一人・大学費用(年間):100万円

上記の例で、大学費用の負担割合を義務者と権利者(通常は母親)の収入で按分し、かつ、大学費用から考慮済みの養育費を控除し、残額を加算する方法で計算すると、以下の結果となります。


養育費の合計額:月額約119,000円

通常の養育費の部分:月額約76,000円

大学費用の加算額:月額約43,000円なお、大学費用を加算する場合の養育費について、当事務所は自動計算機をウェブサイトに公開しています。

どなたでも、無料でシミュレーションできますので、ぜひご活用ください。

 

 

大学進学時の養育費の問題点

大学進学時の養育費については、以下のように3つの問題があります。

 

大学費用を考慮した養育費の適正額を算定するのが難しい

養育費は、基本的には双方の年収で判断されます。また、簡易迅速に診断するためには算定という早見表もあります。

しかし、この早見表は、公立高校等の授業料程度の金額しか考慮されていません。

上でご紹介したように、当事務所では養育費の自動計算機を公開していますが、あくまで参考程度となります。

大学に進学しているケースでは、当然、公立高校とは比べ物にならないほどの学費等を支払っているため、これらを特別の支出として、早見表上の養育費に、上乗せすることが認められています(これを私学加算といいます。)。

この「特別支出」については、どの程度まで上乗せできるかが実務上、よく問題となります。

個々の事案に応じて判断するしかありませんが、専門家でなければ適切な判断は難しいと考えられます。

 

養育費を取り決めたあとの増額は簡単ではない

養育費を一度取り決めたあと、増額する場合、「事情の変更」という要件を満たすことが必要となります。

これは、一度合意したものを簡単に変更することはできないという考えに基づいて、家裁実務上、必要とされる要件です。

この「事情の変更」の判断は離婚を専門とする弁護士でなければ難しいと考えられます。

 

相手方と協議できない

養育費を取り決めた後に、増額請求すると、通常、相手方は拒否します。

特に、面会交流が行われていない事案では顕著です。

そのため、話し合いでは解決できない傾向にあります。

 

 

大学進学の場合に養育費を増額するコツ

大学進学時の養育費増額の事案では共通した傾向が見られます。

上記の問題点を踏まえて、うまく進めていくためのコツについて、解説するので参考にされてください。

 

大学進学を承認している証拠の準備する

上記のとおり、子どもの大学進学について、相手方が承諾していた場合、家裁は大学進学時の養育費の増加を認める傾向です。

そのため、養育費の増額調停や審判において、相手方が大学進学を了承してくれれば、養育費を増加は問題ないと考えられます。

しかし、実務上、相手方が過去に大学進学を承諾していても、養育費の増額請求をした途端、「大学進学を承諾などしていない」と態度が一変することがあります。

このような場合、言った言わないの世界となります。

そして、大学進学の承諾を立証できない以上、養育費の増額が認められない可能性が高くなります。

そのため、相手方の大学進学の承諾を裏付ける、証拠があった方が安心できます。

証拠となりうるものは様々なものが考えられますが、実務上、次のものが証拠として提出される傾向です。

LINEやメールのやりとり

例えば、

本 人  「◯◯大学に行かせたい」

相手方 「わかった」

などのやり取りがあれば、大学進学には了承していると考えられます。

会話の録音データ

大学進学について、肯定的に話し合っているような録音データが有れば、大学進学の了承があるといえるでしょう。

大学進学コースに通学していることの資料

子どもが塾等の「大学進学コース」に通学している場合、相手方も大学進学について了承していたと認められる可能性があります。

(ただし、同居しておらず、子どもの就学状況がわからないような場合を除きます。)

 

学費等の裏付け資料を提示する

大学進学時に、大学の授業料等を養育費に加算する前提として、いくら加算すべきなのか、具体的な金額を明らかにする必要があります。

具体的には、大学の入学案内書や校納金の振込明細書などが該当します。

養育費を請求する場合、考え方は様々ですが、一例として、算定表上の養育費に、上記の年間の学費等を12月で除した金額を加算した額を主張することが考えられます。

具体例

算定表上の養育費の適正額:月額15万円
年間の学費等の金額:100万円
加算額:100万円 ÷ 12月 = 8万3333円(1円未満切り捨て)
相手方への請求額:15万円 + 8万3000円 = 23万3000円(1000円未満切り捨て)

※ あくまで一例でありこのようにしなければならないというものではありません。
※ 私学加算については、上記のとおり、公立高校の授業料相当分(33万円)を学費から控除すべきとする裁判官もいます。

 

子供のために支出している費用を開示する

相手方と協議がまとまらない場合、養育費の増額調停や審判に移行することとなります。

審判では、最終的には裁判所が適切と考える額が言い渡されるので、ご相談者様の主張が適切であれば、増額が認められる可能性が高いでしょう。

しかし、できれば、相手方にも納得して、気持ちよく支払ってもらった方が、円満に解決できると思われます。

また、調停や審判は長期間を要する傾向があるため、迅速に解決したいのであれば相手方を説得できるにこしたことはありません。

相手方を説得するコツとして、「子どもの養育にどの程度支出しているかを伝える」という方法があります。

子どもを育てるには、思った以上にお金が必要です。

しかし、実際に子育てをしていない方は、そのことに気づいていません。

そのため、養育費の増額を請求すると、子供のためではなく本人が使い込んでしまう、という不信感を持つことが多くあります。

実際に子育てにかかる費用を開示すると、相手方の不信感が薄れて、増額を認めてくれるかもしれません。

養育費について、適正額の調査方法や請求方法を知りたい方は以下もごらんください。

 

 

 

まとめ

以上、養育費に大学費用を加算できるかについて、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

支払義務者が子供の大学進学を承諾している場合、大学費用のうち一定部分を養育費に加算できると考えられます。

他方で、子供の大学進学を承諾していない場合、基本的には養育費の増額は難しいです。

養育費の金額は、権利者、義務者の双方に重大な影響を及ぼします。

どのような場合に大学費用を加算できるかについては、離婚についての専門的な判断が必要となります。

当事務所では、離婚事件チームに所属する弁護士が養育費の問題について親身になってご相談に応じております。

LINE、Zoom等を活用したオンライン相談も行っているので、遠方の方もお気軽にご相談ください。

 

 

 

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