相手方も子どもを監護している場合、養育費をどう算定すべきですか?【新算定表対応】
私と相手方との間には子どもが2人おり、それぞれ1人ずつ子どもを監護している状況です。
相手方と離婚をすることになりましたが、現在の監護状況を変えずに、それぞれが監護している子どもの親権者となった上で離婚をしたいと考えています。
このような場合に養育費はどのように算定するのでしょうか。
養育費を算定するときは、実務上、算定表という簡易的な早見表を使っておよその額を算定します。
算定表による算定方法についてはこちらをごらんください。
この算定表は、夫婦双方の所得を当てはめて養育費の適正額を算出するものですが、早見表であるため、通常の場合を想定されています。
子どもが複数いる場合でも、通常は妻、夫のいずれか一方が全員を監護しているため、算定表はそれを前提にして作成されています。
そのため夫と妻の双方が子どもを監護している場合、どのようにして算定すべきかが問題となります。
この場合、いくつか考え方はありますが、ここでは標準的な生活指標を用いて算出する方法をご紹介します。
具体的には、子供全員を権利者が監護していると仮定した場合の算定結果から、義務者が監護する子に対する配分割合相当額を控除する方法です。
この方法を理解するために、前提として、養育費の標準的な算定方法を解説します。
当事務所では、養育費の目安を素早く確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動計算できるサービスをご提供しています。
養育費の計算シミュレーターは、こちらのページをご覧ください。
養育費の標準的な算定方法
養育費算定の基本的な考え方は、義務者・権利者双方の実際の収入金額を基礎とし、子が義務者と同居していると仮定すれば、子のために費消されていたはずの生活費がいくらであるのかを計算し、これを義務者・権利者の収入の割合で按分し、義務者が支払うべき養育費の額を定めるというものです。
具体的には、子の生活費を義務者・権利者双方の「基礎収入」の割合で按分し、義務者が分担すべき養育費を算出します。
その「基礎収入」、子の生活費、義務者の分担すべき養育費の額を算定する計算式は、次のようになります。
①基礎収入
「基礎収入」とは、総収入から「公租公課」、「職業費」及び「特別経費」を控除した金額であり、「養育費を捻出する基礎となる収入」のことをいいます。
総収入から、 公租公課、職業費および特別経費を控除した基礎収入の割合は、給与所得者と自営業者とで異なります。
給与所得者の基礎収入は、総収入の概ね 38~54%の範囲内となります。
自営業者については、給与所得者と異なり、課税される所得金額を総収入とします。
課税される所得金額に対する割合を、給与所得者と同様に求めた結果、自営業者の基礎収入は、総収入の概ね 48~61%の範囲内となります。
下記の基礎収入の割合表(※新算定表に対応)は、ある裁判官が統計上の平均的数値をもとに作成したものであり、算定表ではなく手作業で基礎収入を算出するときの目安になります。
具体的な事案に応じて修正してください。
給与所得者の場合
基礎収入=総収入×0.38~0.54(割合表は下表を参照)
給与所得者(万円) | 割合(%) |
---|---|
0~75 | 54 |
~100 | 50 |
~125 | 46 |
~175 | 44 |
~275 | 43 |
~525 | 42 |
~725 | 41 |
~1325 | 40 |
~1475 | 39 |
~2000 | 38 |
自営業者の場合
基礎収入=総収入×0.48~0.61(割合表は下表を参照)
自営業者(万円) | 割合(%) |
---|---|
0~66 | 61 |
~82 | 60 |
~98 | 59 |
~256 | 58 |
~349 | 57 |
~392 | 56 |
〜496 | 55 |
〜563 | 54 |
〜784 | 53 |
〜942 | 52 |
〜1046 | 51 |
〜1179 | 50 |
〜1482 | 49 |
〜1567 | 48 |
②子の生活費
成人の必要とする生活費を 100とした場合の子の生活費の割合(指数)を定めます。
生活費の指数化については、生活保護法第8条に基づき厚生労働省によって告示されている生活保護基準のうち「生活扶助基準」中の基準生活費を用いて最低生活費を認定し、これに学校教育費を考慮して算出します。
その結果、子の標準的な生活費の指数(以下「子の指数」という)は、親を 100とした場合、年齢 0歳から 14 歳までの子については 62、年齢 15歳以上の子 については 85となります。
子の生活費=義務者の基礎収入 ×(62+85(子の指数))/(100+62+85(義務者の指数+子の指数))
なお、旧算定表においては,年齢 0歳か14 歳までの子については55、年齢 15歳から 19歳までまでの子については 90であったことに照らすと、0歳から14歳は上昇し、15歳以上は低下していることになります。
これは、0歳から14歳については学校教育費考慮前の生活費の割合が上昇したことによるものであり、15歳以上については国公立高等学校の学費が下がったことが原因となります。
③義務者が分担すべき養育費の額
算出した①基礎収入、②子の生活費を用いて、以下のように計算します。
子の生活費 × 義務者の基礎収入 /(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
子どもを双方とも監護している場合
以上を前提として理解してもらった上で、双方が子どもを監護している場合を考えてみます。
具体例 義務者、権利者が、子どもをそれぞれ監護している場合
以下のように、夫が子どもA(16歳)を、妻が子どもB(10歳)を、それぞれ監護している場合の養育費
【義務者(夫)】
年収(給与所得):800万円
子どもA(16歳)を監護
【権利者(妻)】
年収(給与所得):200万円
子どもB(10歳)を監護
妻が子ども全員を監護していると仮定(擬制)して、養育費を算定すると、夫が支払うべき養育費は月額12万5000円程度となります。
義務者の基礎収入(X):800万円 × 0.4 = 320万円
権利者の基礎収入(Y):200万円 × 0.43 = 86万円
320 ×( 62 + 85 )/( 100 + 62 + 85 )= 190.4万円
190.4万円 × 320万円 /( 320万円 + 86万円 )≒ 150万円
12カ月で割ると
150万円 ÷ 12か月 = 12.5万円
よって、月額12万5000円程度となります。
この標準的算定方式で算出した結果から、義務者が監護する子Aに対する配分割合相当額を控除します。
12.5万円 × 62 /(85+62)≒ 5.3万円
よって、子Bの養育費として夫が支払うべき額は、月額7万2000円程度となります。
12.5万円 − 5.3万円 = 7.2万円
具体的な額については離婚に特化した弁護士へご相談を
上記の計算方法はあくまで一つの例に過ぎません。
養育費の算出においては、双方の収入だけでなく、学費や治療費等の特別の支出や住宅ローンを考慮する場合もあります。
離婚に至った経緯等によっては、養育費について具体的な計算をすることなく金額を決めるケースも少なくありません。
養育費は、子どもが自立するまでの長い間支払いが継続するため、離婚条件の中でも一際重要な問題といえます。
また、具体的に養育費の金額が定まった後に、それをどのような形で残すか(合意書や公正証書等)についても今後を左右する重要な問題となります。
そのため、養育費の問題については、離婚を専門とする弁護士へ相談することを強くおすすめいたします。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?