浮気が発覚し、暴力を振るわれた。離婚できる?慰謝料は?

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

浮気が発覚して配偶者から暴力を振るわれた場合でも、離婚は認められない可能性が高いです。

浮気が先行している以上、裁判所は浮気をした側を有責配偶者とする可能性が高く、有責配偶者からの離婚請求は厳しいハードルが課されているからです。

また、暴力の有無に関わらず、浮気行為に対する慰謝料を配偶者に支払う必要があります

相談事例と弁護士の回答

離婚についての質問です。
先日、私が浮気しているのがバレてしまい、それに激怒した夫から暴力を振るわれてしまいました。自分が悪いとは思いつつも、かなり程度の強い暴力だったため、釈然としません。

このような場合、夫と離婚できるのでしょうか。その場合、慰謝料は支払わなければならないのでしょうか。


この問題について、離婚問題に詳しい当事務所の弁護士が回答いたします。

結論からいいますと、あなたの有責性の方が重く認められ、あなたからの離婚請求を裁判所はなかなか認めないでしょう。また、あなたは、夫に対して、慰謝料も支払わなければなりません。

この問題に際し、参考になる裁判例があります。それが、東京高裁平成3年7月16日です。

なお、この裁判は、上告されましたが、最判平成5年11月2日は、前記の東京高裁の判断を肯定しました。

有責配偶者からの離婚請求の要件
  1. 長期間の別居
  2. 未成熟子がいないこと
  3. 離婚される側が離婚によって、経済面等で苛酷な状況に追い込まれないこと

具体的には、以上の 3つの要件を満たす場合に限って、有責配偶者からの離婚請求が認められるというのが判例法理です。

この事案で、第一審は、離婚を認めませんでした。というのも、有責配偶者からの離婚請求は、判例において厳しいハードルが課されているからです。

判例 浮気した妻が、暴力夫に対して離婚請求を求めた事案

この事案は、大まかにいえば、浮気した妻が、暴力夫に対して離婚請求を求めたというものです。なお、同居期間は 16年、別居期間は 8年でした。


本件においては、第一審は次のように判示し、離婚請求を棄却したのです。

「原被告の婚姻は原告が家を出て別居を開始した昭和56年9月6日以降破綻したことが認められる。右破綻の一因は被告の原告に対する行きすぎた暴力の行使や陰湿ないやがらせにある。しかし、より大きな破綻の原因として原告の不貞行為を見逃すことができない。原告は破綻につき有責の配偶者ということになる。
そこで、原告からの離婚請求が許されるかについて検討するに、原被告間に未成熟子はおらず、被告が離婚により社会的経済的に特段に不利な状況におかれるものとは考えられないが、当事者の年齢(原告52歳、被告53歳)、同居期間(16年)に対比すると、本件における 8年余の別居期間は、いまだ原告の有責配偶者としての責任と被告の離婚に反対する意向とを考慮の外に置くに足りる相当の長期間とまでは言い得ない。よって、原告の離婚請求は現段階においては認められない。」

【東京高裁平成3年7月16日】

一方で、前述の東京高裁は、第一審の判断を覆し、離婚請求を認めました。

「控訴人と被控訴人との婚姻関係は既に破綻し、回復の見込みがないというべきであるが、その破綻については、A製作所の退職の際及びそれ以後において無責任な態度に終始し、婚姻共同生活における夫の責任をほとんど果たさず、控訴人に対して暴力行為や陰湿ないやがらせをくり返した被控訴人にも相当の責任があることは明らかであるけれども、控訴人の乙山との不貞行為が婚姻関係の破綻を決定的なものとしたというべきであるから、婚姻関係の破綻については控訴人に主として責任があるというべきである。
しかし、当審の口頭弁論終結時現在、控訴人は53歳、被控訴人は54歳で、その婚姻関係は、17年2か月の同居期間に対し、別居期間は 9年8か月に及んでいる上、二人の子は、ともに成年に達していて未成熟子ではなく、離婚には反対しておらず、婚姻関係の破綻については被控訴人にも少なからず責任があり、控訴人と乙山との不貞行為は約2年間で終わっていること、被控訴人は、現在実母らと同居していて、控訴人との離婚を拒否はしているものの、被控訴人に婚姻共同生活を回復するについての積極的な意欲はうかがえず、全証拠によっても、離婚によって、被控訴人が精神的・社会的・経済的に苛酷な状態におかれるとは認められないことに照らすと、控訴人の本件離婚請求は信義誠実の原則に反して許されないとはいえないというべきである。」

【最判平成5年11月2日】

弁護士じっくりと読まれるとお気づきになられたと思いますが、本件で、第一審と東京高裁とで結論に違いが生じた理由は、専ら、別居期間の 8年を、前述の 3要件の(1.長期間の別居)を満たすと評価するか否かにあります。

第一審は、満たさないと判断し、東京高裁は満たすと判断しました。

いずれの裁判所も、夫の暴力や嫌がらせがあったことは認定したうえで、それでも先に浮気をした妻の方が悪いでしょう(より重い責任があるでしょう)と判断したのです。

このように、裁判所は、双方に有責性が認められる場合には、どちらが主として破綻の原因をつくったかを認定したうえで、原告(離婚を請求する側)が有責配偶者といえるかを認定します。

ご質問のケースでは、あなたの浮気が先行している以上、裁判所は、あなたを有責配偶者と認定することになります。

そうすると、あなたからの離婚請求は認められず、また、あなたは夫に対して、慰謝料を支払わなければなりません。

 

浮気した側からの離婚請求の問題

浮気した側から「離婚したい」と言って、ご相談に訪れる方もたくさんいらっしゃいます。

数多くの相談実績を誇る離婚弁護士だからこそわかる、浮気した側からの離婚事案の問題点について、解説いたします。

 

裁判では負けてしまう可能性が高い

上記の解説のとおり、浮気が先行していると、「有責配偶者」と認定される可能性が高いです。

そして、有責配偶者からの離婚請求は、原則として認めないというのが訴訟実務です。

例外的に、離婚判決が出る場合もありますが、厳しい要件をクリアーしなければならず、離婚が認められない場合が多い傾向です。

なお、例外的に離婚が認められる場合については以下ページをごらんください。

 

浮気した側の弁護を受けたがらない弁護士が多い

このように、浮気した側からの離婚請求は厳しい事案ですので、裁判を依頼したくても、受けたがらない弁護士が多いと思われます。

なお、当事務所には、他の弁護士から依頼を断られたと言って相談に来られる方もいらっしゃいます。

ご参考までに以下のページをご覧ください。

 

訴訟は長期化する

また、仮に、裁判を受けてくれる弁護士がいたとしても、有責配偶者の裁判となると、長期化することが予想されます。

解決まで数年間を要するケースもあり、当事者双方の負担、弁護士費用の高額化などの問題が懸念されます。

 

 

浮気が発覚した場合の離婚のポイント

上記の問題点を踏まえて、浮気が発覚した事案において、離婚を求めていく場合のポイントについてご紹介いたします。

訴訟はできるだけ回避する

日本では、協議離婚といって、当事者が離婚に同意さえすれば、裁判所を通さずに離婚することが可能です。

上記のとおり、浮気が発覚した場合、訴訟になると敗訴の可能性が濃厚です。

そのためできるだけ訴訟を回避し、協議離婚での解決を目指すことをお勧めいたします。

協議離婚のコツは、有責配偶者の方については、相手方に大幅に譲歩するということです。

例えば、不貞慰謝料の金額として、100万円が妥当な事案だったとします。

「協議離婚に応じてくれるのであれば、早期解決の観点から200万円を提示する」などが考えられます。

相談者の方にとって負担は大きくなりますが、仮に、裁判となれば長期化するだけではなく、敗訴の可能性があります。

裁判となれば、弁護士費用も高額化する傾向にあるため、そこにコストを使うぐらいであれば、相手方に支払う金額を上げた方が相談者の方にとって良いのではないかと考えます。

 

信頼できる弁護士を探す

有責配偶者のケースについては、受任したがらない弁護士もいるかと思います。

しかし、有責配偶者の事案でも、示談交渉や調停などで離婚が成立するケースはたくさんあります。

離婚専門の弁護士であれば、そのような感覚を持っている方もいると思いますので、まずは信頼できる弁護士を探すのが良いのではないかと考えます。

 

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