母が亡くなり、自筆で書いた遺言書が出てきたため、検認手続きをしました。その遺言書には、兄に4分の3、私に4分の1の割合で相続させると書いてありました。
しかし、遺言書に記されている日付は、母が認知症の症状が悪化した後なので、母の意思で書いたとは思えません。
兄とそのことを話したところ、「検認手続きを経たのだから遺言は有効だ」と言われてしまいました。
検認手続きをしてしまった後では遺言の有効性を争うことはできないのでしょうか?
遺言の有効性は、検認を経たとしても争うことができます。
検認の手続きは、あくまで遺言書の原状を保全するだけの手続きであって、遺言書の有効無効を判断する手続きではないからです。
遺言の検認とは
遺言は、その方式が厳格に決まっており、公正証書でない場合には、検認と呼ばれる家庭裁判所の手続きを経なければならないとされています。
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
引用:民法|電子政府の窓口
この検認という手続きは、「遺言書の原状を保全する手続」と解されています。
つまり、遺言が偽造や変造される危険性があるため、状態を保存しておくだけの手続きにすぎないのです。
そのため、偽造や変造の危険性がほとんどない公正証書遺言に関しては、検認が不要とされているのです。
以上で説明したとおり、検認は原状の保全手続きにすぎませんので、検認と遺言の効力は全く無関係であり、検認を経ていても、遺言が有効だということにはなりませんし、逆に検認を経ていないからと言って、遺言が無効となるわけでもありません。
そのため、今回のような場合は遺言書が死んだお母さんの意思に基づいて書かれたものではないから、遺言が無効である旨を主張して争うことができるのです。
検認手続の必要性
この検認の手続きを経ていない場合には、5万円以下の過料に処される可能性があります。検認の手続きはしっかり行いましょう。
また、検認を経ていない遺言に基づいては不動産の登記等を申請しても、却下されるのが実務の扱いですので、検認を経ない場合には、不動産の登記等の関係で問題が生じる可能性があります。
加えて、検認を経ていない場合には、偽造や変造が疑われたりして相続人間の争いの火種になることがしばしばあるので、その点でも検認の手続きは経ておくべきと言えます。
検認により遺言書の有効・無効が決まるものではありませんが、遺言が無効だということを主張するのは法的な判断が必要で、大変難しいことです。
遺言が無効となる5つの場合
遺言が無効となるのは、以下の5つとなります。
- ① 遺言の方式に不備があるとき
- ② 遺言の内容に不備があるとき
- ③ 遺言が新たに作成されたとき
- ④ 遺言能力に問題があるとき
- ⑤ 遺言を作成したことが、錯誤・詐欺・強迫によるとき
ご質問の事例は、亡くなったお母様の認知症の症状が悪化していたときに、遺言を作成したという事案です。
このような場合、上記④の遺言能力が問題となります。
遺言者が有効な遺言をするには、遺言の際に、遺言内容及びその法律効果を理解判断するのに必要な能力を備えることが必要とされています。これを遺言能力といいます。
これまでの裁判例を分析すると、遺言能力の有無は、年齢、病状、主治医の判断などが総合的に考慮されて判断されているようです。
そのため、主治医に連絡を取り、ヒアリングを行うとともに、カルテやを取り寄せて病状を調査するなどの対応が必要となると考えられます。