相続分の放棄とは、相続人としての地位がある状態で、相続財産の自己の持分を放棄する意思表示のことをいいます。
相続分の放棄は、相続放棄と違い、債務がなくなるわけではないため注意が必要です。
また、相続放棄は相続の開始を知った時から3か月以内に手続きが必要となるため、相続の開始を知った時から3か月以上が経過している場合には相続分の放棄をするということが考えられます。
このページでは、相続分の放棄について、具体例を用いて解説します。
相続分の放棄とは
相続分の放棄とは、相続人としての地位がある状態で、相続財産の自己の持分を放棄する意思表示のことをいいます。
相続分とは
共同相続人の積極財産(プラスの財産)・消極財産(マイナスの財産)を含む相続財産全体に対する各相続人の持分のことを指します。
相続分の放棄は、相続にあたって自分の取り分はいらないという一方的な意思表示ですが、相続放棄と違い、もともと条文に根拠を有しておりませんので、放棄された相続分が誰に帰属するかは一概には言えません。
相続放棄とは
被相続人の積極財産も消極財産も全く相続しないというもので、相続開始後3か月以内に家庭裁判所に対して申述する必要があります。
相続分の放棄と相続放棄の違い
相続分の放棄は、債務がなくなるわけではなく、その点について相続放棄との違いがあります。
相続放棄は積極財産(プラスの財産)も消極財産(マイナスの財産)も全く相続しないため、相続放棄をすることにより借金を負わなくてもよいことになります。
相続放棄は相続の開始を知った時から3か月以内に手続きが必要となるため、相続の開始を知った時から3か月以上が経過している場合には相続分の放棄をするということが考えられます。
放棄された相続分の考え方
遺産を構成する個々の財産に対する共有持分の放棄が包括された性質をもつと考えて、放棄された相続分は民法255条にしたがって、他の相続人に各人の相続分に応じて帰属するという説が有力です。
もっとも、他の同列グループの相続人に帰属するとの考えもあり、必ずしも取り扱いは一律とはいえません。
具体例
図のような家系の場合、相続人は配偶者A、子B ・C、子Dの孫(代襲者)E・F・Gになります。
子Dの孫(代襲者)Gが、相続放棄をした場合の相続分の考え方と、相続分の放棄をした場合の各相続人の相続分を以下で詳しく説明します。
相続放棄をした場合
相続放棄をした場合には、その相続放棄者は相続人ではなくなるということになりますので、その相続放棄者がいない形での法定相続分を算定することになります。
この場合、相続人は配偶者A、子B ・C、子Dの孫(代襲者)E・Fで、各相続人の相続分は以下のようになります。
・配偶者A:2分の1
・子B・C:6分の1
・孫E・F:12分の1
相続分の放棄をした場合
相続分を民法255条にしたがって帰属すると考える場合
Gが相続分の放棄をした場合には、相続分を民法255条にしたがって帰属すると考えるときには、Gの本来の法定相続分である18分の1が、他の相続人の相続分の割合にしたがって分配されることになります。
すなわち、Gの相続分18分の1が配偶者A:子B:子C:孫E:孫F=9:3:3:1:1の割合で分けられますので各相続人の相続分が以下のようになります。
・配偶者A:17分の9
・子B・C:17分の3
・孫E・F:17分の1
他の同列グループの相続人に帰属すると考える場合
Gが相続分の放棄をした場合には、他の同列グループの相続人に帰属すると考えるときには、同列グループ(例えばE F Gの代襲者のグループというものが考えられます)に帰属することになります。
したがって相続分は、以下のようになります。
・配偶者A:2分の1
・子B・C:6分の1
・孫E・F:12分の1
相続分の譲渡
「相続分」の譲渡とは、相続財産の自己の持分を包括的に譲渡するものです。
「相続分」の譲渡は、譲渡人と譲受人の間の契約ですので、家庭裁判所が用意している書式では、両者の署名捺印を要する様式で行われます。
また、後日譲渡人の気持ちが変わっても、一方的に撤回することはできず、意思表示の瑕疵(意思能力がなかったり、錯誤などの無効事由、詐欺等の取消し事由)があったりする場合のみ無効となります。
「相続分」の譲渡は、共有持分権の譲渡とは異なりますので注意が必要です。
相続人は、相続財産を構成する個別の財産(遺産)について、相続分としての共有持分権を有していますので、その共有持分権のみを譲渡することもできますが、その場合は、ほかの財産(遺産)についての包括的相続分は元の相続人に残っていることになります。
相続分の譲渡については以下よりご覧ください。