相続放棄をしても、生命保険金については、基本的に受け取ることが可能です。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続財産の一切を放棄することができる制度です。
プラスの財産に比べ明らかに大きな借金があるときや、相続に伴うトラブルに巻き込まれたくないときなどの場合、この制度を利用することで、責任を回避することが可能となります。
相続放棄をしても保険金をもらえる?
受取人が指定されている場合
相続放棄は、プラス、マイナスの両方の相続財産をすべて放棄する手続です。
したがって、生命保険金が相続財産に含まれるのであれば、相続放棄により死亡保険金も放棄されてしまいます。
しかし、生命保険の受取人がなくなった方以外の者に指定されている場合、生命保険契約は、第三者のためにする契約(民法537条)ということになり、生命保険金は指定された者の固有の財産であって、相続財産にはならないと考えられています。
したがって、たとえば、夫が妻を受取人に指定して生命保険金をかけていた場合、夫が死亡した後、妻が相続放棄をしたとしても、妻は生命保険金を受け取ることができます。
なお、当初の受取人が死亡し、被相続人が受取人の再指定をしないままに被相続人が死亡したときは、受取人の相続人が死亡保険金を受け取ることになります(保険法第46条)。
そして、この場合も保険契約に基づく固有の権利として保険金請求権を取得することになります。
受取人を「相続人」としていた場合
相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったものとみなされますので(民法第939条)、相続放棄をした場合は「相続人」には当たらず保険金を受け取ることができないとも思われます。
しかし、このような場合、特段の事情がない限り「保険金請求権発生時点つまり被保険者の死亡時点の相続人である個人」を保険受取人として指定した保険契約と解すべきとされています(最判昭和40年2月2日民集19巻1号1頁)。
参考判例
一 養老保険契約において被保険者死亡の場合の保険金受取人が単に「被保険者死亡の場合はその相続人」と指定されたときは、特段の事情のないかぎり、右契約は、被保険者死亡の時における相続人たるべき者を受取人として特に指定したいわゆる「他人のための保険契約」と解するのが相当である。
二 前項の場合には、当該保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に、右相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱しているものと解すべきである。
引用元:最高裁判所HP
したがって、受取人を「相続人」とのみ指定していた場合は、たとえ相続放棄をしたとしても死亡生命保険金請求権が発生した当時の相続人が、死亡保険金を請求することができるということになります。
そして、相続人が複数いる場合は、特段の事情がない限り、その相続分に従って、請求権を有することになります。
受取人を指定していなかった場合
保険金の受取人を指定していなかった場合、通常、生命保険の約款に「受取人の指定がない場合は、死亡保険金を被保険者の相続人に支払う。」旨の規定があります。
そのため、この場合も保険金受取人を「相続人」としていた場合と同様、相続放棄をしたとしても死亡保険金を請求することが可能です。
受取人を「被相続人」と指定していた場合
保険金受取人を「被相続人」(亡くなった方本人)としていた場合は注意が必要です。
保険金受取人を被相続人自身としていた場合は、相続財産の一部とされてしまいます。
この場合は、相続放棄により死亡生命保険金も放棄されてしまいますので、相続人は生命保険金を受け取ることはできません。
県民共済を受け取ってしまったら相続放棄できない?
県民共済で受け取ることができる金銭には、死亡共済金、出資返戻金、過納掛金の3つがあります。
このうち、死亡共済金については、契約に基づいて支払われるものであるため、上記と同様に、相続財産とはなりません。したがって、受け取っても相続放棄が可能です。
しかし、出資返戻金と過納掛金については、共済の契約者である被相続人に支払われるものであり、相続財産となります。
したがって、これらを受け取ってしまうと、単純承認とみなされて相続放棄できなくなるおそれがあります。
保険金を受け取ると税金がかかる?
上記のとおり、保険金は基本的に、相続財産とはなりません。
しかし、被相続人の死亡に伴い支払われる生命保険金や損害保険契約の保険金で、その被相続人が負担していたものに対応する部分の保険金については、相続財産とみなされます。
したがって、契約者が被相続人であるか否かを問わす、被相続人がその保険料を一部でも負担していた場合には、その負担していた保険料相当分の保険金については、相続財産とみなされることになり、課税対象となります。
保険金の非課税枠
相続人が受ける生命保険金のうち、下記の非課税金額までの金額に該当する部分の金額については、相続税が課税されません。
例えば、相続人が3名いる場合、1500万円まで非課税となります。
相続放棄があった場合はどうなる?
相続放棄をした場合、相続人ではなかったこととなります。
そのため、生命保険の上記非課税規定は適用されないことになるので注意が必要です。
例えば、Aさんが1000万円の生命保険金を受け取り、相続放棄をした場合、当該1000万円すべてが相続税の課税対象となります。
相続人について
相続放棄をした本人は、上記のとおり、非課税の適用を受けることができませんが、他の相続人は影響を受けません。
すなわち、非課税金額を計算する際、相続放棄をした者も含めます。
具体例 相続人がA、B、Cの3名おり、Aのみが相続放棄をした場合
この場合、非課税金額は1500万円となります。
基礎控除は適用される
Aさんが相続放棄を行い、1000万円の生命保険を受け取った場合、上記のとおり、生命保険の非課税金額の適用はありません。
しかし、基礎控除は適用されます。
相続税の基礎控除は次の式で算出します。
相続人が3名の場合は、4800万円が基礎控除の額となります。
したがって、死亡保険金の額が基礎控除の範囲内の場合、相続税はかからないこととなります。
まとめ
以上、相続放棄と保険金の関係について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。
相続放棄をした場合でも、保険金受取人を「被相続人」としていた場合でない限り、生命保険金は相続財産とはならず、死亡保険金を受け取ることが可能です。
しかし、生命保険金は相続税の課税対象となります。
また、相続放棄をした場合、基礎控除の適用はありますが、生命保険の非課税規定は適用されません。
生命保険と相続放棄については、相続法と税法に関する専門知識が必要となるため、弁護士と税理士の資格を持った弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
この記事が相続問題に直面している方にお役に立てれば幸いです。