「広辞苑」といえば、日本人であれば知らない人はいないとすらいえる国語辞典であり、岩波書店が、1955年に発刊してから、すでに60年以上経つ歴史ある国語辞典です。
その由緒正しき広辞苑の第7版が、2018年1月に出版されました。
10年ぶりに改訂された第7版は、新しく約1万項目の追加をしているそうで、その中に「LGBT」という語も含まれたという報道がなされております。
一方、この広辞苑第7版の解説が一部誤っているということがニュースにとなっており、収録された「LGBT」という言葉の解説も誤っていたそうです。
もちろん、人間が編集したものですから、その内容に誤りや誤植があることは一定程度やむを得ないものともいえるでしょう。
しかし、「LGBT」の解説の誤りは単なる人為的なミスと割り切れない、社会的な背景があると思われます。
今回は、広辞苑の誤りから、LGBTに対する知識・認識を考察していきたいと思っております。
広辞苑にはどのように記載があったのか
ニュース等によると、広辞苑には、LGBTの説明として、
「多数派とは異なる性的指向をもつ人々。」
と説明されていたそうです。
私も実際に見てみましたが、それ以上の説明はありませんでした。
さて、この説明を見て、みなさんはどう思いましたか?
おそらく、ほとんどの方が、「何が違うの?」と思ったのではないでしょうか。このような認識を持ってしまうのは、LGBTのそれぞれの意味を分かっていない、というよりも分からないように刷り込まれているからです。
分からなかった方のために、一から丁寧に説明をしていきたいと思います。もしここで答えが分かっている方は、最後まで読み飛ばしてください。
LGBTとは
LGBTとは、なんでしょうか。
L=レズビアン
G=ゲイ
B=バイセクシュアル
T=トランスジェンダー
これらの頭文字をまとめたものがLGBTであり、現在では、性的少数者を総称するような用語としても使われているように思います。
さて、ここまでの説明で、広辞苑の誤りに気付いたでしょうか。おそらく、認識を誤っている方からすれば、まだ分からないはずです。
次にレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーとはなんでしょうか。
レズビアンとは、性自認が女性で、好きになる対象も女性の人をいいます。
ゲイとは、性自認が男性で、好きになる対象も男性の人をいいます。
バイセクシュアルとは、性自認は関係なく、好きになる対象が男女問わない人をいいます。
トランスジェンダーとは、性自認と生物学的な性別が異なる人のことをいいます。トランスジェンダーの中には、MtF(身体は男性、心は女性の方)、FtM(身体は女性、心は男性の方)、MtX(身体は男性、心は男女いずれでもない方)、FtX(身体は女性、心は男女いずれでもない方)の人がいます。
さて、ここまでの説明で、広辞苑の誤りに気付いたでしょうか。
おそらく、理解できた方もいるでしょうし、分からない上に、そもそもレズビアンやゲイなどの説明で、「性自認って何?」と疑問が増えてしまった方もいらっしゃるでしょう。
そこで、もう少し説明します。
「性」と呼ばれるものには、以下のとおり少なくとも3種類のものがあります。
① 生物学的性(身体の性)
② 性自認(心の性)
③ 性的指向(好きになる対象の性)
多くの人が、①と②が一致し、③は異性を好きになる人であり、「ヘテロセクシュアル」と呼ばれます。これらがどこに位置するかで、LGBTというのが区別されているのです。
まず、②が女性で、③も女性の場合には、レズビアンと呼ばれます。①はレズビアンの定義とは無関係です。
次に、②が男性で、③も男性の場合には、ゲイと呼ばれます。①はゲイの定義とは無関係です。
最後に、①が女性で、②が男性の場合には、トランスジェンダーと呼ばれます。③はトランスジェンダーの定義とは無関係です。
答え合わせ
ここまできて、やっと広辞苑の誤りが理解できたのではないでしょうか。再度、誤りとされている部分を見ていきましょう。
「多数派とは異なる性的指向をもつ人々。」
この広辞苑の説明は、明らかに上記の③による区別を念頭に置いています。
しかし、先ほど説明したように、トランスジェンダーは、③とは全くの無関係です。
そのため、トランスジェンダーを「多数派と異なる性的指向をもつ人々」とすることは誤りであることに気づきます。
なお、LGBの説明としては、説明不足感はありますが、間違っているとまではいえないでしょう。
岩波を責めるべきなのか
岩波書店としては、これらの誤りについては認め、重版で変更すると約束をしているそうです。
このような誤りをされたことで不快に思われる方も少なからずいるのかと思います。
では、このような誤りをした岩波書店を無知だと切り捨てることができるでしょうか。
もちろん岩波書店は今後対応していく必要はありますが、私は、LGBTという言葉が広まってきた中、その一方で正しい認識をされていないという社会の実体を端的に表した事件であり、そのこと自体が広まった良い機会だったと思っています。
まとめ
現在は、半数程度の人が「LGBTという言葉を聞いたことがある」という民間企業の統計があるようです。
しかし、聞いたことがあるというだけで、LGBTの意味を正しく理解している人はそれほど多くなく、まだまだどこか別世界の話のように捉えている人が少なくないと思います。
一方で、最近の統計では、LGBTなどの性的少数者は、7%程度はいると言われ、13人に1人とも言われており、クラスや会社の同じ部署に1人はいる計算になりますから、別世界のことではないはずなのです。
数年前まで「LGBT」という言葉すら知られていなかったにも関わらず、テレビで露出の一部の方の露出の機会が増え、急速に認知が広まったことは大変喜ばしい事だと思っています。
しかし、現状、LGBTの方々に対し、正しい理解をしようとするのではなく、テレビやメディアの「ネタ」として消費されている現実があり、それが間違った理解を促進しているのではないかと思っております。
今回のコラムでは、便宜的にLGBTという括りで説明をしてきましたが、実際にはLGBT以外のセクシュアルマイノリティの方もいますし、LGBT自体も本来は一緒くたにできないものですので、安易なカテゴライズをするのは適切ではないことに留意してください。
現状は、ただ「LGBT」という存在が認識されてきたという段階でありますが、今後の社会としては、「LGBT」という意味も含め、その実態を知って「理解」をしている社会に進んでいただきたいなと思います。
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