休業損害|適切な額を獲得するために知っておくべきこと【弁護士が徹底解説】
休業損害とは、交通事故によって仕事を休まざるを得なくなり、収入が減ってしまう損害です。
休業損害は、給与所得者、個人事業主、家事従事者などの立場によって計算方法が異なります。
保険会社や加害者に適切な休業損害を補償してもらうには、休業損害の正確な計算方法を知っておくことが大切です。
この記事では、被害者の立場に応じた休業損害の計算方法や必要書類等について、具体的に解説していますので、参考にされて下さい。
休業損害とは?
休業損害とは、事故にあったことが原因で収入が減ってしまったことに対する補償です。
交通事故以外の暴力事案、労働災害、医療事故などでも休業損害は生じます。
休業損害とは?慰謝料や休業補償とは異なる
休業損害は、事故による収入の減少に対する補償です。
他方で慰謝料は、事故による精神的苦痛に対する補償です。
このように休業損害と慰謝料はそれぞれ補償の対象が違います。
被害者の方によっては、慰謝料と休業損害をひとまとめに考えられていることもありますが、全く別物であり、それぞれ個別に請求できるものになります。
休業損害、慰謝料は賠償金の中の一つの項目
事故でケガをすると、休業損害以外にも様々な損害が発生します。
例えば、治療費や車の修理代などの支出があります。
また、後遺症を負った場合の逸失利益、精神的苦痛を負ったことによる慰謝料なども損害です。
これらの損害のことをまとめて「賠償金」といいます。
したがって、休業損害は、賠償金の中の一つということになります。
休業損害と休業補償との違い
休業損害と休業補償は、言葉の意味合いとしては、収入が減ってしまったことに対する補償という意味で共通しています。
特段、言葉を使い分ける意味はありませんが、労働災害のケースで労基署からの減収の補償を休業補償給付と呼びます。
そのため、労働災害のケースで休業補償、交通事故等の場合に休業損害と呼ぶことが多いです。
休業損害はいくらもらえる?計算ツール
休業損害は、日々の生活に直結する損害です。
事故により仕事を休まざるを得なくなった場合に、どの程度の休業損害が補償されるのか確認することは大切です。
下記の休業損害計算ツールでは、収入額や休業日数を入力することで休業損害として補償される金額の概算を計算することができます。
休業損害の補償額を取り急ぎ計算されたい方は、ご活用ください。
休業損害の計算方法とは?
休業損害は「日額 × 休業日数 」で計算
休業損害は、次の計算式で計算されます。
被害者の方の職業によって、どのように「日額」や「休業日数」をカウントするかという問題があります。
この点について、①弁護士基準(裁判基準)、②任意保険基準、③自賠責基準の3つの基準があります。
弁護士基準は、弁護士が示談交渉の際に使用する基準であり、最も高い基準です。
裁判になった場合に裁判官も使用する基準なので裁判基準ともいわれています。
任意保険基準は、任意保険会社が内部的に設定している基準であり、公開されていませんが、自賠責基準よりは少し高い基準になっています。
自賠責基準は、自賠責保険が賠償の計算に用いる基準であり、法令により決まっています。
自賠責保険は、交通事故被害者に最低限の補償をするという目的があるため、賠償の水準は最も低い水準となっています。
この3つの基準を理解しておくことは、適正な休業損害を請求する上で重要となるため、くわしく解説します。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
自賠責基準 |
|
最低補償であり、支払われる金額は最も低くなる可能性がある |
任意保険基準 | 被害者が応じれば裁判をせずに 早期に解決できる |
|
弁護士基準 (裁判基準) |
|
保険会社が応じない場合裁判を起こす必要があり、解決まで長期間を要する |
上記のとおり、3つの基準にはメリットとデメリットがあります。
しかし、被害者としては、まずは最も高額な賠償金を得ることができる可能性がある弁護士基準(裁判基準)を請求すべきでしょう。
保険会社が弁護士基準の支払に応じない場合は、裁判となって長期化する可能性もありますが、まずは弁護士基準で請求し、保険会社の回答を見るという方法があります。
専門の弁護士が保険会社と交渉して、それでも納得できる賠償金を支払わない場合に、裁判を起こすか、それとも、譲歩して早期解決を選択するかの判断を行うのがベストだと思われます。
日額の出し方とは?
休業損害の計算にあたって使用する「日額」は、各基準によって異なりますので、それぞれ説明します。
弁護士基準の日額の出し方
弁護士基準の場合、「事故前直近3ヶ月の給与」の総額を「稼働日数」で割って1日単価を出し、その金額に休業日数を乗じて計算します。
事故直近3ヶ月の給与は、基本給に加えて残業代等の手当も加えた額面の金額です。
手取り金額ではないので注意しましょう。
稼働日数とは、実際に仕事をした日数のことをいいます。
事故直近3ヶ月の給与が90万円で稼働日数が合計60日のケースでは、日額1万5000円となります。【計算式】
90万円 ÷ 60日 = 1万5000円
ここでは、給与所得者を前提として説明しましたが、主婦(家事従事者)や個人事業主については、後ほど解説します。
任意保険基準の日額の出し方
任意保険基準は、明確には公表されていません。
しかし、多くのケースで任意保険会社は、日額を「事故前直近3ヶ月の給与」の総額を「90日」で割って算出しています。
事故直近3ヶ月の給与が90万円であれば、日額は1万円ということになります。【計算式】
90万円 ÷ 90日 = 1万円
自賠責保険基準の日額の出し方
自賠責基準では、1日あたりの金額が原則として6100円となっています。
ただし、6100円を超えることが明らかな証明資料(※)があれば、上限額が1万9000円と定められています。
※例えば、給与明細、源泉徴収票などが考えられます。
このルールは、法令によって決まっています。
引用元:自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
休業日数の数え方とは?
休業日数とは、事故によって仕事を休まざるを得なくなった日数です。
会社員の場合、事故が原因で会社を欠勤した日数に加えて、有給休暇を取得した日数も休業日数となります。
通院日数が影響する?
休業日数をカウントするにあたって、通院日数が直接的に影響するのは以下の場合です。
- 自賠責保険基準で主婦の休業損害計算する場合
- 自賠責保険基準で自営業者の休業損害計算する場合
上記の場合、原則として、通院日数を休業日数として計算します。
したがって、通院日数が増えれば、休業日数が増えることになるので、通院日数の増減は休業損害の金額に直接的に影響します。
また、弁護士基準で主婦の休業損害を計算する場合も、通院日数は間接的に影響します。
通院日数が多いということは、それだけ通院に時間を取られており、家事にも支障が出ているといえるからです。
通院日ではないがケガの痛みで休みたい場合
休業損害は、休業の必要性があれば認められます。
つまり、交通事故によるケガが原因で仕事ができない場合には、通院日でなくても休業日数にカウントすることができます。
ただし、軽傷の場合は、休業の必要性が本当にあるのか保険会社から争われることがあります。
また、医師からケガによる就労制限の必要性はないと判断されている場合には、保険会社は休業損害とは認めないので注意しましょう。
職業別の日額の計算方法
給与所得者(会社員・アルバイトなど)のケース
給与所得者の日額の算定は、以下のいずれかの方法で算出します。
- ① 直近90日の収入額を90日で割る
→連続して休んでいて土日などの休日も休業日数としてカウントする場合にこの計算方法をとります。 - ② 直近90日の収入額を稼働日数(実際に働いた日数)で割る
→休みが連続しておらず、飛び飛びで休んでいる場合にこの計算方法をとります。
ここでいう収入額は、いわゆる手取額ではなく、税金や公的保険料などが控除されていない税込み額です。
具体例 6月10日に交通事故に遭い、40日間継続して会社を休んだ場合
事故直近の給料が、5月は37万円、4月は35万円、3月は36万円のケースでは、以下のような計算方法になります。
( 37万円 + 35万円 + 36万円 ) ÷ 90日 × 40日分 = 48万円
上記ケースの場合であれば、48万円が休業損害となります。
具体例 稼働日数62日、飛び飛びで15日休業した場合
事故直近の給料が、5月は37万円、4月は35万円、3月は36万円のケースでは、以下のような計算方法になります。
( 37万円 + 35万円 + 36万円 ) ÷ 62日 × 15日分 = 26万1285円
このケースでは、26万1285円が休業損害となります。
自営業・個人事業主のケース
自営業者、自由業者(開業医、芸能人、弁護士、プロスポーツ選手など)の休業損害の計算の基礎となる収入は、原則として、事故前年の確定申告の所得額によって認定がされます。
具体例 確定申告の所得額が500万円の場合
以下の計算式で日額を算出します。
500万円 ÷ 365日 = 1万3698円
このケースでは、1万3698円が休業損害の日額となります。
休業中に支出を余儀なくされる家賃や従業員給料、公共料金、租税公課、損害保険料、リース料、減価償却費などの固定経費も相当性があれば、基礎収入に加算することが認められる場合もあります。
年度間において所得金額に相当の変動があり、前年度額で算定することが不適切である場合には、数年分の平均額を採用する場合もあります。
確定申告はしているものの、本当は確定申告よりも、もっと収入があるから、その収入を加算して休業損害を請求したいというケースもあります。
この場合、実際に収入があったことを客観的な証拠により証明することができれば、加算した収入で休業損害を計算してもらえることもあります。
しかし、裁判所は、この証明を厳格にみており、容易には認めてくれません。
確定申告において過少申告をしているので、真実の収入が計算できる客観的資料が残っていない場合も多く、証明は困難な場合が多いです。
仮に確定申告を全くしていない場合であったとしても、相当の収入があったと認められるときは、賃金センサスの平均賃金額等を参考に基礎収入額が算定されることもあります。
ただし、確定申告をしていない場合、当然に賃金センサスを用いて算定してもらえるわけではありません。
事業を行うことで、賃金センサス程度の収入があったことを、被害者において明確に証明しなければならないのです。
この場合も過少申告している場合と同様に、裁判所は、厳格な証明を求めており、容易には認めてくれません。
事業による所得に本人の労働のみだけでなく、家族の労働も含まれている場合には、本人の労働部分のみが、休業損害の算定される基礎収入となります。
本人の寄与分は、事故前後の収入状況、事業の業種・業態、本人の技能・能力、家族の関与の程度などを考慮して算定されます。
1000万円の所得の内、本人の寄与分が70%と認定された場合には、700万円が休業損害の基礎収入となります。
休業損害は、収入が減少してしまうことに対する補償なので、最初から赤字であれば、減収する対象がないので休業損害は一切生じないとも思われます。
しかし、固定経費を基礎収入として考える方法や、拡大した損害を休業損害とするなどの考え方があります。
家事従事者(専業主婦・兼業主婦)のケース
主婦(主夫)など、家庭のために家事に従事する人のことを家事従事者といいます。
主婦としては女性がイメージされやすいですが、主夫としての休業損害を認めた裁判例はあります。
算定にあたっては、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均賃金額により、基礎収入を算定することが多いです。
例えば、令和4年の女性の平均賃金は394万3500円なので、日額は、394万3500円÷365日=1万0804円となります。
休業日数は、家事ができなかった度合いにより、割合的認定(例えば、事故日から30日は70%、31日から90日は週間は50%、91日から180日は30%など)を行うことが多いです。
また、示談交渉段階では、通院日数を休業日数として計算することもあります。
無職・失業者のケース
休業損害は、事故によって働くことができず、収入が減ったことに対する補償です。
したがって、失業している場合、すでに収入がない状態なので、原則として休業損害は認められません。
もっとも、具体的に就職予定が決まっていた場合や、具体的な就職予定がない場合であっても、労働能力及び労働意欲があり、諸事情を考慮して、事故がなければ治療期間中に就職していたと認められるような場合には、休業損害が認められることがあります。
裁判例では、失業者に労働能力及び労働意欲があるとき、就労の蓋然性があるときに失業者の休業損害を認めています。
判例① 事故時、無職であっても就職先が決まっていたため、休業損害が認められた例
- 事故直前に就職先が内定していた(大阪地判平17.10.12)
- 前職を定年で退職後、事故前に別会社と雇用契約を結んでいた(名古屋地判平23.5.20)
- 職業訓練を受け、障害者雇用枠で就職予定であった(東京地判平23.2.3)
判例② 労働意欲があり就労の蓋然性があるとして、休業損害が認められた例
- 事故前に就職を申し込んでいた会社から事故後採用通知を受けた(名古屋地判平21.2.27)
- 大工として稼働する意思とその職務能力から稼働先が見つかる可能性がある(札幌地判平13.11.29)
- 離職して積極的に就職先をさがしていた(大阪地判平17.9.8)
- 事故直前まで再就職に向けてハローワークに通い面接に参加していた(さいたま地判平25.12.10)
上記のようなケースで休業損害が認められるケースでは、賃金センサスを使って日額を算出します。
どういった条件の賃金センサスの金額を使用するかは事案によって変わります。
例えば、男性の賃金の平均で計算する場合、日額は、546万4200円÷365日=1万4970円となります(546万4200円は令和4年の男性平均です。)。
学生のケース
未成年就労の実態がないため、原則として休業損害は認められません。
もっとも、アルバイトをして収入を得ていた場合や、事故による受傷の治療期間が長期化して就職時期が遅れた等の場合には、休業損害が認められることがあります。
アルバイトをしていた場合には、給与所得者の場合と同様に、休業損害証明書を勤め先に作成してもらいます。
日額の計算方法も給与所得者と同じですので、「給与所得者(会社員・アルバイトなど)のケース」をご覧下さい。
収入金額の算定は、就職先が内定している場合には就職先で現実に得たであろう給与額を基礎とします。
賃金センサスの初任給で学歴別の平均賃金を基礎に算定されることになるでしょう。
会社役員のケース
社長取締役の報酬には、労働の対価として支払われる労働対価部分と、経営結果による利益配当的部分があります。
利益配当的部分は、その地位にとどまる限り失われるものではありませんから、休業をしても原則として逸失利益の問題とはなりません。
したがって、取締役の報酬額をそのまま基礎収入とするのではなく、取締役報酬の労務対価部分を認定し、その金額を基礎として損害を算定します。
判例 被害者の夫が代表取締役で、被害者自身は専務取締役だが2名のパート従業員と肉体労働に従事していたケース【大阪地版平成15.4.30】
この事案で、裁判所は、被害者が休業中でも人員の増員はなく、売上・利益とも横ばいもしくは増加する一方、他の役員報酬が増加したり、復帰後軽作業であるにもかかわらず、月額報酬が45万円であったことなどを重視し、実質的な利益の配当部分が少なくとも40%であったとして、年収の60%の720万円を基礎に、事故後の6か月間を100%、その後症状固定まで2か月間を50%で合計420万円の損害を認めました。
法人化して会社という形態にはしているものの、社長一人で運営しているような場合で個人事業主のような実態にあるような場合には、上記した個人事業主と同様の処理がなされるべきケースもあるでしょう。
会社役員の給料自体は減額されておらず、役員本人の休業損害が発生していない場合でも、役員が欠勤したことで、会社の業務がまわらず、会社に損害が出るというケースもあります。
しかし、こうした会社の損害は当然には補償されません。
会社役員は、交通事故の被害者として、直接損害を被ります。
会社は、会社役員が被害者となり、休業してしまったことで、損害を受けることになるので、間接損害を被ります。
損害賠償請求をするには、事故と損害の因果関係が認められなければなりませんが、間接損害の場合は、あくまで間接的な損害なので因果関係の立証が難しくなるのです。
判例では、会社と会社経営者(被害者)との間に経済的一体性が認められる場合に因果関係を認めています。
つまり、会社の財布と会社経営者(被害者)の財布が同一であり、会社の損害が会社経営者の損害と実質同一といえるような関係性にあることが必要となります。
休業損害のもらい方
交通事故で必要な手続きの流れ
交通事故による休業損害の請求の流れを説明します。
交通事故発生
交通事故が発生してケガをした場合には、速やかに病院を受診しましょう。
病院の受診にあたって、仕事を休むことになれば、休業損害が発生することになります。
後々、トラブルになるのを防ぐために、保険会社にも仕事を休んでいることを伝えておきましょう。
休業損害の請求に必要な書類を収集
保険会社や加害者に休業損害を請求するための書類を収集します。
必要となる書類は、給与所得者、自営業者、家事従事者などの立場によって異なります。
詳しくは、下記の「休業損害の請求における必要書類一覧」で説明します。
保険会社に請求
必要書類をまとめて保険会社に請求します。
弁護士に依頼している場合には、資料に基づき具体的な損害額を算出したうえで請求することもあります。
ここでの請求は、治療中で慰謝料請求等の前の段階での請求を想定しています。
休業損害の支払い・支払い拒否
保険会社や加害者が請求に応じれば、そのまま休業損害の支払いを受けることができます。
保険会社が請求に応じる場合、多くのケースで1週間以内には振込により支払いを受けることができます。
一方で支払いを拒否されることもあります。
拒否の理由としては主に以下の理由が考えられます。
- 休業の必要性がない
→そもそも仕事を休む必要性がないと保険会社から主張されるパターンです。 - 主婦休損の請求
→主婦の休業損害は、毎月の収入が減るものではないので、治療終了後の示談交渉の段階でないと支払ってもらえないことがあります。 - 有給休暇のみの休業損害請求
→有給休暇のみの請求のケースでは、実際に減収があるわけではないので、治療終了後の示談交渉の段階まで支払われないことがあります。 - 算定が難しい場合
→自営業者などで、休業損害が発生しているかどうか判断が難しい場合も早期に休業損害を支払ってもらうことは難しいです。
示談交渉にて請求
治療中の段階で、休業損害を支払ってもらえなかった場合には、治療終了後、慰謝料等の損害と一緒に休業損害を再度請求して示談交渉することになります。
休業損害の支払い・交渉決裂
示談交渉の結果、保険会社が休業損害を認めれば支払いを受けることができます。
交渉が決裂した場合には、裁判手続を検討することになります。
裁判手続きへ
示談交渉が決裂した場合には、裁判手続を検討することになります。
裁判をするかどうかは、多面的に考えなければなりません。
休業損害のみに着目するのではなく、裁判をした場合、他の損害項目はどのように評価されるのかを検討する必要があります。
裁判をすることで、休業損害が増額されても、治療費や慰謝料が減額され、結果として示談交渉での賠償額よりも低額になってしまっては裁判をする意味がありません。
裁判をするかどうかの判断は、弁護士と相談して判断されることをお勧めします。
休業損害の請求における必要書類一覧
休業損害の請求に必要となる書類は、立場によって異なります。
以下、それぞれの職業の必要書類について説明します。
給与所得者
給与所得者の場合は、会社に作成してもらう休業損害証明書が必要になります。
また、休業損害証明書の裏付けとして事故前年の源泉徴収票も必要となります。
事故前年の源泉徴収票がない場合には、事故前3ヶ月分の賃金台帳の写し、雇用契約書、所得証明書といった書類が必要になる場合もあります。
自営業・個人事業主
自営業者・個人事業主の場合、休業日数と、補償されるべき日額の算出根拠となる証拠を出す必要があります。
休業日数の根拠資料については、以下のような証拠が考えられます。
- 被害者が就労できないことがわかる書類
入院・通院していることが分かる診断書・診療報酬明細書
医師の就労不能の診断書
その他医療記録 - 店舗を閉めていることが分かる資料
ホームページ上の記載
売上帳簿 - 稼働していないことが分かる資料
稼働実態が数値化されているものがあれば、その資料
補償されるべき日額の根拠資料については以下の証拠が考えられます。
- 確定申告書
- 所得証明書
- 決算書類
- 売上帳簿など売上金額が分かる資料
家事従事者
保険会社との交渉の中では、家事従事者であることを主張すれば、家事従事者であること自体について、保険会社が争ってくることは多くありません(虚偽の申告をしてはいけません)。
家事従事者を証明する証拠としては、同居家族の氏名・年齢・職業等を記載した「家事従事者の自認書」や、住民票が考えられます。
また、事案によっては、住民票に加えて、被害者本人と家族の収入資料の提出を求められることがあります。
家族の収入より、被害者本人の収入の方が多い場合には、家事従事者とはいえないと主張される可能性はあります。
【 家事従事者であることを示す書類 】
- 家事従事者の自認書
- 住民票
- 被害者の収入資料
- 家族の収入資料
学生
学生でアルバイトをしている場合、必要となる書類は休業損害証明書と事故前年の源泉徴収票です。
源泉徴収票がない場合には、給与所得者と同様に事故前3ヶ月分の賃金台帳の写し、雇用契約書、所得証明書といった書類が必要になる場合もあります。
休業損害証明書の入手方法
加害者が任意保険に加入している場合、保険会社に郵送するよう依頼すれば、返信用封筒も入れてすぐに送ってくれます。
加害者が任意保険に加入していない場合には、自賠責保険に連絡すれば、自賠責保険への請求書類一式を送ってくれます。
その中に休業損害証明書も入っています。
保険会社への送付依頼が難しければ、各保険会社のホームページから様式をダウンロードすることもできます。
休業損害証明書の雛形のダウンロード
休業損害証明書の雛形については、下記ページでダウンロード先を紹介しておりますので参考にされて下さい。
休業損害証明書はいつ提出すべき?
休業損害証明書をいつ保険会社に提出するかは被害者の自由です。
ただし、何ヶ月分もまとめて提出すると保険会社が休業損害を争われた場合に大変です。
事故が軽微の場合や軽症の場合で休業損害が認められるか不透明な場合には、1ヶ月おきに休業損害証明書を提出して保険会社と協議したほうがいいでしょう。
休業損害はいつもらえる?
休業の必要性があり、給与所得者が欠勤して減収した場合には、休業損害証明書を任意保険会社に提出すれば、1週間程度で振り込まれます。
しかし、以下の場合には、すぐには支払いはされず最終的な示談交渉をして示談しないと支払ってもらえない可能性が高いです。
- 休業の必要性に争いがあるケース
- 有給休暇のみの休業損害の請求のケース
- 主婦休損の請求のケース
- 自営業者・個人事業主で金額の算定が難しいケース
休業損害は毎月もらうことも可能
仕事を休んでいる場合で、休業の必要性に保険会社と争いがなければ、毎月休業損害の補償を受けることができます。
給与所得者であれば、毎月、会社に休業損害証明書を作成してもらい保険会社に送付すれば、保険会社から支払いを受けることができます。
自営業者の場合には、日額の計算などが難しいため、毎月の支払いを受けることができるとしても、事故前の所得よりも少ない金額しか支払いを受けることができない可能性があります。
不足分に関しては、示談交渉の際に保険会社に請求することになります。
休業損害はいつまでもらえる?
休業損害は、症状固定するまで請求することができます。
症状固定とは、痛みなどの症状はあるものの治療をしても一進一退で、すぐには治せない状態のことをいいます。
症状固定の時期は、基本的に医師が判断しますが、保険会社が一方的に症状固定に至ったと主張してくることもあります。
なお、症状固定前であっても休業する必要性がなくなった場合には、その時点で休業損害は請求できなくなります。
休業損害に請求期限はある?
休業損害には請求期限があります。
休業損害の請求には、消滅時効といって、請求できる期間が存在します。
休業損害を含めて、ケガをした場合の賠償金の消滅時効は、基本的には事故日の翌日から5年となります。
但し、2020年3月31日以前に発生した交通事故は事故日から3年です。
なお、物損の場合の損害賠償請求は3年です。
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
引用元:民法|電子政府の窓口
休業損害の請求期限について、詳しくはこちらをご覧ください。
時効開始の起算点
人身傷害事故の消滅時効が基本的に5年として、次に重要なのは、それがいつから開始するか、という起算点の問題です。
法律上は、「損害及び加害者を知った時から」と規定されていますが、休業損害の場合、事故日と考えられます。
休業損害の注意点
保険会社から提示される金額を鵜呑みにしない
保険会社から休業損害の金額を提示された場合、そのまま鵜呑みにしてはいけません。
適正な金額であるかを見極める必要があります。
弁護士基準(裁判基準)が適正な金額
慰謝料等に比べれば、休業損害は、比較的保険会社から適正な金額が支払われていることもありますが、不十分な金額の支払いになっていることも多々あります。
適正な金額は、弁護士基準(裁判基準)で計算した金額です。
保険会社からの提示で不十分な提示の例としては、日額の算出方法について、稼働日数で割るべきところを、90日で割って算出していることが挙げられます。
連続してではなく、飛び飛びで休業している場合には、稼働日数(実際に働いた日数)で割って日額を算出すべきですが、保険会社は90日で割って計算して日額を低額に抑えて計算していることがあるのです。
金額の妥当性について不安があれば、弁護士に相談して金額の妥当性をみてもらましょう。
自賠責の休業損害
自賠責の休業損害は、1日6100円が基本ですが、6100円以上の収入があることを証明できる場合には、その証明額の支払いを受けることができます。
ただし、最大1万9000円の限度額があります。
有給休暇を使っても休業損害をもらうことができる
休業損害は、交通事故によって仕事を休まざるを得なくなり、その結果収入が減った場合に請求できるものです。
したがって、交通事故が原因で有給休暇を取得せざるを得なくなったとしても、収入は減らないので、休業損害は認められないとも思えます。
しかし、有給は、仕事は休むけど給料は支払ってもらえるというものであり、財産的価値が認められるものです。
こうした財産的価値があるものを交通事故によって、取得することを強いられた場合には、補償されるべきと考えられています。
したがって、有給休暇を取得した日は休業日数としてカウントされ休業損害として補償されます。
全額支給された判例
判例 大阪地裁平成30年6月22日判決
被害者が原動付自転車で走行していたところ加害者の自動車に衝突され、左手を負傷し、14級9号が認定された事案です。
この事故により、被害者は12日間の有給休暇を取得せざるを得なくなりました。
裁判所は、被害者の直近3ヶ月分の給料を稼働日数(実際に働いた日数)で割った金額を1日単価として、その12日分の満額を認めました。
無理をせずに休養を!休業期間は請求する
交通事故に遭った方の中には、会社や仕事が休みにくく、無理をして働き続けるしいという方もいらっしゃるかと思います。
しかし、休業損害は、上述のとおり、基本的には休業日数している期間が長くなれば、その期間分の損害賠償が認められます。
したがって、体に痛みがある場合や治療のために通院する場合などは、無理をせずに休養されたほうがよいでしょう。
もっとも、サラリーマンの方の場合、長期の休業になると、会社を解雇される危険もあるかと思います。
どの程度の休業が許されるかは、会社の就業規則や雇用契約の内容しだいとなりますので、内容を確認し、かつ、会社の担当者の方に相談しながら、休養を取られるとよいでしょう。
なお、休業が業務上の事故による場合は、法律上、休業期間中とその後30日間は原則として、解雇が認められません。
したがって、業務上の事故なのに、不当に解雇されそうな場合、又は、解雇された場合は、労働基準監督署や労働問題に強い弁護士等に相談されるとよいでしょう。
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
引用元:労働基準法|電子政府の窓口
休業損害証明書を発行してもらう
休業損害を主張するために、会社員やアルバイトの方は、職場から証明書を発行してもらいましょう。
休業損害証明書がなければ、保険会社も休業損害の対応をしてくれませんので、休業損害が生じた場合には、必ず会社に休業損害証明書を作成してもらいましょう。
保険会社から送られてくる休業損害証明書の様式には、記載例・作成方法もついているので、それを会社の担当者に渡しておくとよいでしょう。
示談書サインは慎重に!休業損害の正しい相場を知ろう
休業損害は、基本的には上述した裁判基準の額が適切といえます。
また、交通事故で請求できる賠償金は休業損害だけではありません。
治療費などの積極損害の他、慰謝料、逸失利益なども請求できる可能性があります。
これらの賠償金について、適切な額を知ることが重要です。
被害者の方の中には、早期解決のために、保険会社の提示額に応じるという方もいらっしゃいます。
しかし、前提として「本来もらえるべき金額」がどの程度かを知ることは、意思決定を行うための重要なプロセスです。
一度示談書にサインをすると、後から撤回することはとても難しいため、示談を成立させる前に、適正額を知ることをお勧めいたします。
交通事故に強い弁護士に相談する
休業損害の適切な額を知るために、最も重要なことは交通事故に強い弁護士に相談することです。
現在は、インターネットで専門的な情報も入手可能です。
しかし、インターネットの情報は、信用性という点で疑わしい場合があります。
そのため、インターネットで専門的な情報を閲覧される場合は、まず、その記事の執筆者を確認すべきです。
執筆者が交通事故専門の弁護士であれば、基本的には信用性が高いと考えられます。
しかし、専門家の記事でも、不特定多数の方向けに作成されたものであり、個別具体的な状況を前提としていません。
したがって、インターネットの情報は、参考程度にとどめ、専門家に直接相談されることをお勧めいたします。
交通事故専門の弁護士であれば、具体的な状況をヒアリングし、事案に応じて休業損害の適切な額を教えてくれるでしょう。
弁護士費用特約に加入している場合には、多くのケースで弁護士費用を負担せずに弁護士に依頼することができます。
弁護士費用特約は契約者だけでなく、契約者の同居の家族なども使用することができるので、事故に遭った場合には、家族の乗っている車に弁護士費用特約がついていないか確認してみましょう。
なお、多くの保険会社で、弁護士費用特約の限度額は300万円とされていますが、弁護士報酬が300万円を超えるのは少なくとも12級以上の後遺障害が残った場合に限られますので、多くの場合、手出しなしに弁護士に依頼することができます。
休業損害についてのQ&A
休業日数は1日いくらですか?
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- ① 事故直近3ヶ月の給与 ÷ 直近3ヶ月の稼働日数
- ② 事故直近3ヶ月の給与 ÷ 90日
休みが飛び飛びの場合には①の方法で計算します。
休みが連続している場合は②の方法で計算します。
休みが連続しているとは、3月1日から31日までの31日間を休業日数とするような場合です。
例えば、事故直近3ヶ月の給与が96万円で、直近3ヶ月の稼働日数が61日の被害者が10日休んだ場合は、以下の計算式により、日額は1万5737円となります。
【計算式】
96万円 ÷ 61日 = 1万5737円
休業損害は土日も含まれますか?
休業損害は、仕事を休んだことで収入が減ってしまった場合に補償されるものです。
したがって、土日休んだとしても収入に影響がない場合には、休業日数に土日は含まれません。
例えば、週休2日で土日は会社の公休日である場合、土日は休業日数としてカウントしません。
休業損害に税金はかかりますか?
原則、休業損害に税金はかかりません。
慰謝料などを含めた交通事故の損害賠償金は原則、課税されません。
通常の損害の補償の程度を超えて賠償を受けた場合には、過剰な部分について、課税の可能性はありますが、原則は課税されないと考えて大丈夫です。
事故が原因で退職したら休業損害はどうなりますか?
休業損害は、休業の必要性があり、症状固定に至るまでは請求することができます。
したがって、退職したとしても休業損害の請求は可能です。
ただし、退職した場合には、休業損害証明書の作成を会社に依頼することができなくなります。
日額は退職前と変わりませんが、休業日数については、退職前の状況を踏まえて適切な日数を保険会社に主張していくことになります。
副業していたら休業損害はどうなりますか?
本業と同じように、副業の勤務先に休業損害証明書を作成してもらい保険会社に請求します。
副業が雇用ではなく、個人事業主として稼働していた場合には、確定申告書等を根拠に保険会社に請求することになります。
賞与の減額や昇進の遅れによる損害はどうなる?
休業したことで、賞与が減額されたり、昇給・昇格遅延などによる減収も損害として認められます。
但し、事故が原因で損害を受けていることは明確に証明しなければなりません。
賞与が減額された場合には、賞与減額証明書といった書面を会社に出してもらうことが考えられます。
昇給や昇格が遅延したことで減収したという主張をするのであれば、会社規定などを証拠として、本来であれば、どの程度の昇格昇給が見込まれていたのに、事故が原因でそれが達成されなくなったということを具体的事実をもって主張立証しなければなりません。
まとめ
以上、休業損害についての正しい計算方法、請求のポイント等について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
休業損害には、裁判基準、任意保険基準、自賠責基準の3つがあり、被害者の方は、裁判基準によって算出した適切な金額を受け取る法的な権利があります。
そのためには、保険会社の提示を当然の前提とはせず、適切な休業損害の額を知ることが重要です。
また、インターネットの情報は参考程度にとどめて、できるだけ交通事故の専門家に相談することをお勧めいたします。
専門家であれば、休業損害を含めた賠償金全般について、適切な額をアドバイスしてくれるでしょう。
当事務所では、交通事故案件を日常的に取り扱う弁護士が、相談から事件処理も全て対応しております。
ご来所頂いてのご相談はもちろんのこと、電話相談、オンライン相談(LINE、Zoom、Meet、FaceTimeなど)でのご相談もお受けしており、全国対応しております。
この記事が交通事故に遭われた方にとって、お役に立てば幸いです。