積極損害とは何ですか?【弁護士が解説】

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


積極損害とは、交通事故等の人身障害事故によって、被害者がお金を支払うことになった場合に、その支出を損害として扱うものです。

積極損害として認められるには、その事故や加害行為との間に因果関係の認められる出費であることが必要です。

積極損害にはこのような支出が含まれます。

それぞれの項目について、詳しくご説明いたします。

 

 

①治療関係費

治療関係費には、病院での治療費や整骨院での施術、鍼灸、マッサージ治療、治療器具、温泉治療費などが含まれます。

こうした治療関係費は、事故と相当因果関係が認められる範囲で請求することができます。

相当因果関係は、単に事故と関係性があるということだけでは認められず、事故と関係性を認めることが社会通念に照らして相当である場合に認められるものです。

少し抽象的で分かりにくい概念だと思います。

そこで、以下では、治療関係費が認められるか否かのポイントについて説明します。

治療関係費として認められる場合
  • 医師の指示に従って治療を受けている場合
治療関係費として認められない例外的な場合
  • 医学的にみて必要性や合理性がないような治療をしている場合(過剰診療)
  • 治療の金額が不相当に高額である場合(高額診療)
  • 軽微な事故で本当にケガをしたのか疑わしいような場合 など

治療関係費の請求が認められるにあたって、最も重要なポイントは「医師の指示」があるかどうかです。

病院での治療は、当然、医師の指示に従って治療を受けているので、何か例外的な事情がない限りは、損害として認められることになります。

加えて、事故の相手方が負担すべき治療費の範囲としては、原則、症状固定時までと考えられられています。

症状固定については、こちらをご参照ください。

 

判例 裁判で治療費が否定された裁判例

・起立性頭痛等の症状の変化が認められないこと
・髄液漏出を示す画像所見が認められないこと
・ブラットパッチ療法により症状が顕著に改善されていないこと
等を根拠に、低髄液圧症候群を発症したとは認められないとして、治療費が否定されました。

【東京地判H24.3.13】

 

整骨院での治療費は認められる?

整骨院での施術、鍼灸、マッサージ治療、温泉治療費に関しても、医師の指示がある場合には損害として認められる傾向にあります。

整骨院での施術に関しては、医師の明示的な指示がなくても、正当な施術内容であれば、保険会社は損害として認めてくれる傾向にあります。

もっとも、裁判になった場合には、保険会社側にも弁護士がついて、整骨院での施術は損害として認めないという主張はよくされます。

こうした場合には、やはり医師の指示があるかどうかは極めて重要なポイントとなります。

注意
医師の指示がなく、長期間にわたって整骨院で治療している場合には、一部あるいは全部の施術費用が損害として認められない可能性もありますので、注意しなければなりません。

整骨院の治療費については、こちらのページで詳しく解説していますのでご参考になさってください。

なお、整体やカイロプラクティックなどは、原則として、賠償は認められないと考えておいたほうがよいでしょう。

 

装具・器具などの購入費は認められる?

装具・器具の具体例としては、義足、車椅子、補聴器、入れ歯、義眼、コンタクトレンズ、コルセット、身障者用ワープロなどが認められます。

この他であっても、後遺障害により失われた身体機能を補助し、生活上の困難を軽減するために必要な装具や器具の購入費は損害として認められます。

ただし、医師の指示があるかどうかが重要なポイントで、被害者自身の判断で購入した場合には、その必要性について保険会社から争われる可能性があります。

ご不明な場合はぜひ弁護士に相談してみてください。

 

いつまで治療関係費を請求できるか?

交通事故の治療関係費を請求できるのは、症状固定日までです。

症状固定とは、痛みや体の動かしづらさは残っているものの、医学的見地からみて、これ以上は改善しない状態をいいます。

医師から症状固定と判断された場合、それ以降の治療は医学的にみて必要性のない治療ということになり、加害者や保険会社も症状固定以降の治療費を支払う義務がなくなるのです。

症状固定について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

保険会社に症状固定だから治療を止めて下さいと言われたらどうする?

保険会社は十分な説明なく、もう症状固定だから治療を止めて下さいと言ってくることがあります。
しかし、症状固定の判断は医学的見地からなされるもので、保険会社が決めるものではありません。
本当に症状固定の時期なのかは、主治医や専門の弁護士に相談すべきでしょう。
保険会社から症状固定と言われた場合の対応については、こちらをご覧ください。

症状固定後の治療費は請求できない?

症状固定後の治療費について、症状の悪化を防ぐためのリハビリや、手術といった医師が必要性を認めている場合など、その支出が相当なものについては、例外的に損害として認められることもありますが、基本的には症状固定後の治療費は認められないと考えられていた方がよいでしょう。

 

入院中の個室料は認められる?

入院個室入院して個室に入る場合には、別途費用がかかります。

こうした個室料は認められるでしょうか。

結論から言いますと、損害として認められない場合が多いです。

大部屋であっても治療の効果自体が変わるわけではないので認められないのです。

以下のような場合には、認められる傾向にあります。

入院中の個室料が認められる傾向にある場合
  • 医師の指示があった場合
  • 特別室を利用した方が治療面でよい効果が期待できる場合
  • 特別室を利用しなければ病状が悪化するなどの事情がある場合

 

 

②付添費用

入院付添費

交通事故に遭い入院することになって、付添いが必要になった場合には、入院付添費が認められる場合があります。

病院では24時間看護体制が整っているため、看護師の看護に加えてさらに付添いが必要であると認められる場合でなければ補償されません。

また、ケガが重傷で身体を動かすのに相当の支障があるような場合にも入院付添費用を認める裁判例もあります。

入院付添費として認められる場合
  • 医師から入院中は被害者に付添うように指示があった場合
  • 被害者が幼児や児童である場合 など
入院付添費用の賠償額について

近親者が付添う場合  1日につき6500円

職業的な看護・介護者の付添いの場合  実費全額が請求可能(※1)

近親者が付添うために仕事を休んだ場合  休業損害として請求可能(※2)


入院付添費用が認められる場合でも、常に介護を要せず、部分的な介護・付添いのみ必要と認められる場合には、その評価に応じて減額されることがあります。

※1 自賠責基準では1日4100円
※2 休業損害証明書を作成して請求することになります

 

通院付添費

病院に通院するにあたって、幼児や児童は一人で通院することができませんので通院付添費を請求することができます。

また、負傷した部位や症状の程度によって一人での通院が困難である場合にも通院付添費が認められることがあります。

通院付添費として認められる場合
  • 幼児や児童の通院に付添いが必要な場合
  • 負傷した部位や症状の程度により一人での通院が困難であり、付添いが必要な場合

以下のように、通院付添費用の賠償を認めた判例があります。

判例 右膝関節の機能障害(12級7号)、左足関節痛(12級13号)に認定された男性の裁判例

  • 症状固定時56歳

歩行障害があるため通院について、妻の付添いが必要であったことを認め、通院付添費用の賠償を認めました。

【大阪地判平成27年7月10日】

通院付添費用の賠償額

裁判基準   1日3300円
自賠責基準  1日2050円


裁判基準の3300円というのはあくまで目安であり、被害者の年齢や症状の程度などから金額は増減することがあります。



 

自宅付添費用

入院せずに自宅で療養している場合には自宅付添費用が認められることがあります。

この場合、被害者のケガが重傷で自宅にて付添看護することが必要であることを証明する必要があります。

自宅付添費用として認められる場合
  • 被害者のケガが重症で、入院せずに自宅で療養しており、付添看護が必要という証明ができる場合
自宅付添の償金額

介護の必要性の程度などによって変わりますが、随時の介護で足りる場合には5000円程度を認めるものや、全介助が必要な場合には、日額1万円程度認める裁判例があります。

 

 

③将来介護費用

介護用ベッド次に、将来介護費用について説明します。

交通事故により重い障害が残った場合には、将来にわたって介護が必要になります。

通常は、自賠責後遺障害の別表第1の1級及び2級の場合に認められます。

ただし、具体的な状況次第で3級以下の障害の場合でも認められることがあります。

将来介護費用として認められるのは、以下の場合です。

将来看護費用として認められる場合
  • 自賠責後遺障害の別表第1の1級及び2級の場合
  • 具体的な状況次第で、3級以下の障害の場合でも認められることがあります。

 

金額については、職業的な看護・介護者の付添人の場合は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円です。

ただし、具体的な看護状況により金額は増減します。

将来介護費用の計算式

①日額 × ②365日 × ③平均余命までのライプニッツ係数

ライプニッツ係数とは、中間利息を控除する係数のことです。

将来発生する介護費用を一時金として先に受け取ることになるので中間利息を控除した金額が賠償額となるのです。

平均余命は簡易生命表に基づき計算します。

具体例 日額8000円で平均余命が40年の場合
    40年のライプニッツ係数:17.1591


将来介護費用を算出するためには、以下の計算式になります。
8000円 × 365日 × 17.1591 = 5010万4572円

介護を人に依頼した場合には、その実費が日額となり、家族などの近親者が介護する場合には1日8000円が日額となります。

将来介護費用は、未来の介護費用なので、ずっと家族で介護していくのか、どこかの時点で人の助けを借りるようになるのかは分かりません。

したがって、10年間は家族が介護する前提の費用、そのあと20年間は人に依頼する前提の介護費用といった認定がされることがあります。

 

 

 

④雑費

入院雑費

洗面具

入院時の雑費としては、例えば、寝具、衣類、洗面具、電話代、テレビ賃借料などが認められます。

金額については、1日につき1500円が認められる傾向にあります。

不幸にも重度の後遺障害が残ってしまい、衛生用品などが継続的に必要となる場合には、将来必要となるそれらの費用についても損害として認められる例もあります。

入院雑費の賠償額

1日1500円

 

将来の雑費

重度の後遺障害が残り、衛生用品などが継続的に必要となる場合には、将来の雑費についても損害として認められることもあります。

認められる金額は、被害者の状況によってまちまちです。

したがって、将来において確実に必要となる雑費(おむつ等)については、医師の診断書や家族の陳述書などで具体的に主張立証して請求しなければなりません。

将来の雑費として認められる場合
  • 重度の後遺障害が残り、衛生用品などが継続的に必要となる場合
将来の雑費の賠償額

認められる金額は、被害者の状況によってまちまち

 

 

⑤通院交通費・宿泊費等

通院交通費についてですが、公共交通機関での通院は、その料金額が損害として認められます。

通院交通費として認められる場合
  • 公共交通機関での通院
  • タクシーでの通院(傷害の程度や交通機関の便を考慮し、タクシーが相当である場合
  • 自家用車での通院

ここでよく問題となるのが、タクシーの利用についてです。

基本的に交通費は損害として認められるのですが、通院にあたって相当な交通手段を利用することが必要です。

タクシー利用の場合事故による症状のために、公共交通機関を利用することが難しいような場合でタクシー利用が相当と認められる場合に損害として認められます。

ただ、事故による症状が原因でなくても、公共交通機関を利用しようとすれば、1時間かけて徒歩で駅まで行かなければならないような場合には、タクシー利用もやむを得ないとして、タクシーによる通院費用を損害として認めた裁判例(大阪地判平7・3・22)もあります。

ただし、公共交通機関を利用したとしても、それほど負担が大きくないような場合にタクシーを利用しているときには、損害として認められない場合がありますので注意が必要です。

通院交通費の賠償額

公共交通機関   自宅から病院までの公共交通機関の種類(電車、バスなど)と駅名を示して、運賃を請求する
自家用車     ガソリン代(1km15円)、高速道路代、駐車場料金などの実費相当額


公共交通機関での通院については、その料金額が認められます。
自宅から病院までの公共交通機関の種類(バス、電車など)と駅名を示して、その運賃を請求することになります。
タクシーについては、傷害の程度や交通機関の便などを考慮して相当である場合には認められます。
自家用車を利用した場合には、ガソリン代、高速道路代、駐車場料金などの実費相当額が認められます。

具体例 治療のため通院したいが、足を骨折して松葉杖をつかなければ歩行できないような場合


公共交通機関を利用することが困難なのでタクシーの利用が認められるでしょう。
交通事故により対人恐怖、外出困難等の症状があって人前に出ることが困難となった被害者について、タクシーでの通院を認めた裁判例もあります(神戸地判平成13年12月14日)。

宿泊費として認められる場合
  • 治療や看護のために宿泊する必要がある場合

治療や看護のために宿泊する必要がある場合には、宿泊費も認められる場合があります。

 

 

⑥学生・生徒の学習費用

182274次に、学生・生徒の学習費用について説明します。

事故による入院や傷害の影響で進級や卒業が延びてしまい、余計に費用が掛かってしまうことがありますが、このような費用も損害として認められる場合があります。

具体的には、入通院のため1年休学した場合に、退院後約1年前後にわたる補習費47万円を損害として認めた裁判例(横浜地判昭57・1・28)や、事故により大学の卒業が半年延びた結果、大学に支払うこととなった学費増額分31万円を損害として認めた裁判例(千葉地判平24・8・28)などがあります。

また、小学校の入学金や制服などの費用をすでに支払っている状況で、不幸にも事故によりお子さんが死亡してしまった場合、その入学金や制服費用などの支出も損害として認められた裁判例もあります(東京地判平6・9・29)

このように、事故によって何らかの出費をした場合や、すでに支払った出費で無駄になった費用などがあれば、それも損害として請求できる可能性があります。

なかなかご自分で判断するのは難しいと思いますので、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

 

 

⑦家屋・自動車改造費

事故により身体に障害が残った場合、障害の程度によっては、日常生活を送るにあたって自宅や自家用車のバリアフリー化が必要となる場合があります。

このような場合には、被害者の受傷内容や、後遺症の程度・内容から必要性が認められる限り、バリアフリー化のための費用についても、加害者に請求することができます。

例えば、家の出入口、風呂場、トイレなどの設置・改造費、自動車の改造費などが認められることが多いです。

家屋・自動車改造費として認められる場合
  • 障害の程度によって、バリアフリー化が必要な場合

障害の程度から、具体的にどのような改造が必要となるのかをしっかりと主張立証しなければいけません。

被害者にどのような症状が残っているのか、その症状がある場合にどのような生活上の支障があり、その支障を解消するためにどのような改造が必要となるのかといった点を証拠に基づいて明確に主張立証しなければならないのです。

 

 

⑧葬祭関係費

裁判基準においては、葬祭費用や墓碑建設費、仏壇購入費用などが認められています。

ただし、香典返しなどの費用は認められていません。

以下の場合に、葬儀費用が損害として認められます。

葬祭関係費として認められる場合
  • 交通事故により被害者が死亡してしまった場合
葬祭関係費の賠償額

150万円程度が限度


葬儀費用の目安としては、150万円程度が限度ですが、事案によってそれ以上の金額が認められた裁判例もあります。

その他にも墓碑建設費、仏壇購入費用などが認めた裁判例もあります。

葬祭関係費として認められない場合
  • 香典返しなどの費用

 

 

⑨弁護士費用

交通事故による損害を加害者に賠償請求するために弁護士に依頼することがありますが、その弁護士費用が損害として認められる場合があります。

弁護士費用として認められる場合
  • 訴訟提起した場合
弁護士費用の賠償額

裁判所が認める損害額の約10%


示談交渉段階では、支払いを受けることは困難ですが、訴訟提起した場合には、弁護士費用として認められます。

 

 

⑩遅延損害金

被害者の損害は、症状固定あるいは治癒するまで治療を継続し、事案によっては後遺障害申請を行い、示談交渉あるいは裁判を経て確定することになります。

しかし、加害者は、交通事故を起こした時点から被害者に対して損害を賠償する義務を負っています。

遅延損害金

年5%の遅延損害金が請求可能


事故発生から損害が確定するまでの間、加害者は賠償の支払いを遅滞していることになるので、年5%の遅延損害金を請求することができます。

 

 



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