過失を主張していた相手に、弁護士が交渉で10:0で解決した事例
※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。
受傷部位 | 右手(右中指MP関節側副靭帯断裂)、左手(左手関節打撲) |
等級 | 14級9号 |
ご依頼後取得した金額 |
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820万円 |
損害項目 | 保険会社提示額 | 弁護士介入後 |
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傷害慰謝料 | 120万円 | 135万円 |
休業損害 | 360万円 | 360万円 |
後遺障害慰謝料 | 88万円 | 100万円(裁判基準90%) |
後遺障害逸失利益 | 95万円(年収×5%×15年) | 225万円(年収×5%×15年) |
過失相殺 | 10% | 0% |
結果 | 600万円 | 820万円 |
突然Uターンした車が衝突、高エネルギー外傷と診断
Cさんは、バイク好きで、自分の愛車でドライブをしていました。
片側2車線の右側の車線を直進して、青信号だった交差点に入ろうとしたところ、左側の車線から突然自動車がUターンをしようとCさんが走っていた右側車線に入ってきました。
そのため、Cさんは道を塞がれた形になってしまい、自動車と衝突してしまうという交通事故にあいました。
Cさんは、救急車で緊急搬送され、全身打撲、高エネルギー外傷と診断され、1日入院をしました。
翌日に退院しましたが、痛みが継続していたので整形外科を受診しました。
また、バイクでとっさにブレーキをかけたためか、手が腫れている状態でした。
特に、利き腕である右手の中指が大きく腫れ、曲げ伸ばしができない状態でした。当初は突き指だろうということでしたが、あまりに腫れが引かないため、整形外科から紹介状をもらって、救急指定病院でMRI検査を受けました。
すると、そこで、右手の中指の靭帯(右中指関節側副靭帯)を断裂していると言われました。
医師からは手術もできるがまずは保存療法で治療をしましょうと言われ、固定具で中指と人差し指を固定することになりました。
Cさんは港湾作業を行っていたため、仕事を休業することになりました。
このような状況で、相手方は、Cさんの方が自分にぶつかってきたのだから、Cさんに過失があると主張しており、保険会社とバイクの修理代(最終的には全損)を巡って主張が対立していました。
そこで、Cさんは今後の対応に不安を感じ、交通事故に関して詳しい弁護士を探し、相談に来られました。
5年間と主張された逸失利益を15年間にした事例
弁護士は、Cさんから、事故とけがの状況をうかがいました。
相談の時点で、けがの治療はしばらくかかりそうでしたので、まずは物損の示談交渉の必要があるため、依頼後にすぐに保険会社と交渉を開始しました。
そもそも左車線から反対車線に車線をまたがってUターンをするという加害者の走行態様は極めて危険な状態でした。
したがって、保険会社にはCさんが衝突したのは、加害者がCさんの進路を塞いだからであると主張しました。
しかしながら、相手方もすぐにはこちらの主張に応じなかったため、実況見分調書を取得しました。
そこには、ウインカーも上げずにUターンをしようとした加害者の走行経路がきちんと記録されていたため、この実況見分調書を相手方保険会社に示し、この事故でCさんに過失をとるのはあり得ないと改めて主張しました。
実況見分調書を見たことで、相手方も態度が軟化し、最終的にはCさんには全く過失がないということで、10:0の示談が成立しました。
この交渉と同時並行で、Cさんの休業損害について毎月請求を行っていました。
具体的には、毎月勤務先に休業損害証明書を作成してもらい、弁護士が保険会社に内払いを請求するという形です。
これにより、Cさんには毎月給与に相当する休業損害の補償を受けることができ、生活費の確保を行いました。
保存療法により治療を行っていたのですが、なかなか右の中指の改善が思わしくなかったことから、手術費を相手方保険会社が補償してくれるタイミングで手術をした方がよいと弁護士からCさんにアドバイスをし、手術を受けることになりました。
手術後にリハビリを数ヶ月間行い、可動域はおおむね回復したのですが、痛みが残っている状況でした。
そのため、手術を行った病院で後遺障害診断書を作成してもらい、自賠責保険に被害者請求を行いました。
その結果、手術した右中指の靭帯は縫合されたため問題ないものの、痛みが残っていることに対して、14級9号に該当すると認定されました。
また、反対の左手の打撲についても一貫性が認められるとしてこちらも14級9号が認定されました。
この結果を受け、弁護士は保険会社とけがの示談交渉も開始しました。
当初、保険会社は、14級9号の後遺障害だから逸失利益はせいぜい5年間であると主張していました。
しかしながら、今回のCさんの事案は、靭帯断裂という器質的な損傷を前提とした痛みであり、むちうちなどの器質的な変化の確認できない症状とは性質が異なるため、逸失利益の期間を5年間とするのはあまりに短いとして交渉を行いました。
すると保険会社は、10年間という代案を提案してきましたが、少しでもCさんの補償を得ようと弁護士は考え、15年間であれば早期解決を前提に示談すると主張しました。
その結果、慰謝料については裁判基準より若干減額になりましたが、逸失利益については15年間とする内容で示談が成立しました。
休業中の賞与の減額も含め、休業損害を補償してもらえた金額もあわせると820万円の補償を受けることができました。
弁護士のアドバイス
過失割合について
Cさんの事案のように、交通事故に関する過失に争いがある場合、実況見分調書という書類が極めて重要な書類になります。
この書類は被害者の方が自分で取得することも可能ですが、取得を申請する時期(タイミング)や取得までのプロセスが非常に面倒です。
まず、警察の捜査中の段階や書類送検後に検察官が最終的な刑事処分を決めるまでは、被害者といえども捜査書類を取得することはできません。
そのため、取得するには、刑事処分を待たなければなりません。
そして、取得するためには、通常警察署に送致日と送致罪名、送致番号を確認し、その後に検察庁に23条照会を行って最終処分を確認して、実況見分調書の謄写を申請するという流れになります。
弁護士にご依頼いただければ、被害者の方に代わって実況見分調書を取得することができます。
その他に過失割合の調査方法として、ドライブレコーダー、防犯カメラ、目撃者の証言の確認等があります。
内払いについて
休業損害は、生活に直結するものであるため、被害者の方の生活状況によっては、できるだけ早急に支払ってもらうべきケースがあります。
そのため、Cさんのケースのように保険会社と交渉すれば、先に休業損害の一部を支払ってもらう、いわゆる「内払い」をしてもらえることがあります。
会社員の場合、月毎に休業損害証明書を提出し、月毎に休業損害を支払ってもらえたりします。
労働能力喪失期間について
後遺障害が認定された場合の、逸失利益の計算方法は、基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数となります。
この中で、労働能力喪失期間の始期は症状固定時、終期の原則的な考え方は67歳までです。
なお、症状固定時の年齢が67歳を超える方については、原則として簡易生命表の平均余命の2分の1が労働能力喪失期間となります。
また、症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表の平均余命の2分の1より短くなる方については、原則として平均余命の2分の1が労働能力喪失期間となります。
もっとも、事案によっては、労働能力喪失期間が5年などに制限される場合があります。
保険会社も14級9号の後遺障害等級であれば、労働能力喪失期間の制限を主張してくるケースがあります。
ただ、その保険会社の制限主張が妥当かどうかは、必ず吟味しなければなりません。
Cさんのケースでも、こうした問題意識をもって対応しなければ、最初から5年間という請求をしてしまい、15年もの補償を得ることはできませんでした。