自賠責保険を利用し治療打切後の治療費を回収した事例
※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。
受傷部位 | 首、腰、肩(頸椎捻挫、腰椎捻挫、右肩関節捻挫など) |
等級 | - |
ご依頼後取得した金額 |
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85万円 |
弁護士によるサポート結果 |
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治療打切り後、自賠責保険で約1カ月間通院を継続 |
状況
Sさんは、前方が渋滞していたため停車していたところ、加害車両に追突される事故に遭いました。
この事故により、Sさんは首と腰を痛めました。
事故当日に整形外科を受診したところ、頸椎捻挫、腰椎捻挫と診断され、リハビリのために通院を継続することとなりました。
その後、通院を継続していたSさんは、保険会社との対応に不安が生じたたため、弊所にご相談に来られました。
弁護士の対応
Sさんは、仕事が忙しく保険会社とのやりとりが十分にできないとのことでしたので、弁護士に依頼して、全て交渉窓口を弁護士とすることにされました。
その後、Sさんには仕事と治療に専念してもらっていたのですが、1回目の事故から数カ月経過した頃に、Sさんは再び交通事故に遭ったしまったのです。
2回目の事故についても、Sさんには過失はほとんど認められない事故でした。
この事故により、Sさんは、首と右肩を痛めました。
1回目の事故と2回目の事故は異時共同不法行為とされ、1回目の事故と負傷部位が重なった首については、右肩とともに2回目の事故の保険会社が対応することとなり、負傷部位が重ならなかった腰については、1回目の事故の保険会社が継続して対応することとなりました(「異時共同不法行為」については『弁護士のアドバイス』で解説します)。
1回目の事故発生から、約4カ月が経過した頃に、第1事故と第2事故の保険会社から、治療の打切りの打診がありました。
弁護士は、Sさんに身体の状態を確認したところ、まだ痛みがあるものの、徐々に改善傾向にあるのでもう少し通院したいとのことでした。
そこで、弁護士は、医師の見解も踏まえて、第1事故、第2事故の保険会社に対して、それぞれ治療継続の交渉を行いました。
しかし、いずれの保険会社も治療継続に応じず、治療の打切りを断行してきました。
そこで、弁護士は、Sさんと相談して、一定期間治療を継続した上で、自賠責保険に治療費を請求することにしました。
Sさんは、治療打切り後、1カ月程度通院を継続して、概ね身体の調子も良くなったことから、治療を終了しました。
その後、弁護士において、必要書類の一切を集めて、約1ヶ月分の治療費を自賠責保険に請求しました。
そうしたところ、自賠責保険は、この1カ月分の治療費を認め、任意保険会社が対応してくれなかった治療費分も回収することができました。
自賠責保険の結果を踏まえて、弁護士は裁判基準(裁判をした場合の水準で最も高い水準)で損害を計算し直し、自賠責保険からの賠償金との差額を第1事故と第2事故の保険会社に請求を行いました。
その結果、Sさんは、事故発生から治療終了するまでの期間の慰謝料を獲得することができ、自賠責保険からの賠償金の他に約50万円の支払いを受けることができました。
弁護士のアドバイス
異時共同不法行為について
異時共同不法行為は、法律に規定されているわけではありませんが、実務上用いられている概念です。
事故に遭って、治療継続中に再び事故に遭って同一部位を負傷した場合に、この異時共同不法行為の問題が出てきます。
1回目の事故として治療中の部位について、2回目の事故でさらに悪くなった場合には、1回目と2回目の保険会社のどちらが、今後の治療費を負担するのか問題となるのです。
この点について、異時共同不法行為における保険会社の取り扱いですが、同一部位の負傷については、2回目の保険会社が引き継いで治療費の対応をすることになります。
今回のケースでは、Sさんは、1回目の事故で首と腰、2回目の事故で首と右肩を負傷されました。
したがって、重なっている首については、2回目の事故の保険会社が対応を行うことになりました。
腰については、引き続き1回目の事故の保険会社が対応し、首と右肩については、2回目の事故の保険会社が対応するということになりました。
なお、異時共同不法行為では、1回目と2回目の自賠責保険会社の両方に被害者請求をすることができます。
つまり、自賠責の枠は、通常、120万円(傷害部分)までですが、2つの自賠責があるため2倍の240万円まで枠が広がるのです(請求できる金額が2倍になるわけではありません。請求できる枠が2倍になるのです。)
治療費の自賠責保険への請求について
被害者の過失割合が小さい場合には、加害者の任意保険会社が一括対応(保険会社が直接病院に治療費を支払うこと)をします。
この一括対応は、法律で強制されているわけではなく、任意保険会社は、あくまで任意で行っています。
ですから、一括対応をいつ中止するかは、基本的に保険会社の自由なのです。
したがって、本件のように、治療を継続したくても一括対応を中止された場合、治療を継続するのであれば自費で通院しなければならないのです。
この自費で通院した部分について、後々、任意保険会社に請求するという方法もありえます。
しかし、任意保険会社は、一度、支払わないと決定しているので、それを覆すことは容易ではありません。
そこで、自費で通院した部分について、強制加入保険である自賠責保険に請求をするという手段があります。
自賠責保険の傷害部分(治療費、慰謝料、休業損害、通院交通費など)については、120万円の枠があります。
したがって、その枠を使い切っていなければ、自費で通院した部分の治療費を自賠責保険に請求することができるのです。
もちろん、自賠責保険も全ての治療費を認めてくれるわけではなく、事故と因果関係がある範囲でしか認めてくれません。
本件では、自賠責保険が、治療打切り(一括対応の終了)後の約1カ月分の治療費についても因果関係があると認めたことから、その支払いを受けることができました。
保険会社から治療の打切りにあった場合には、自賠責保険への請求を検討されるのもよいでしょう。
ただし、自賠責保険でも認められない場合もあるので注意しなければなりません。