解決事例
更新日2021年1月19日

高次脳機能障害により1級1号が認定された事例

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)



※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Hさん

受傷部位頭部(高次脳機能障害)、右足(右腸骨骨折)、左足(左恥骨骨折)、(右上腕骨近位部骨折、 右橈骨遠位端骨折など)
等級別表第1第1級1号(既存障害等級:7級4号)
ご依頼後取得した金額
約2350万円

内訳
損害項目 弁護士によるサポート結果
傷害慰謝料 約290万円
後遺傷害慰謝料 約2000万円
その他損害 約60万円
回収額 約2350万円

※その他にも治療費など表には記載していない損害があります。回収額は過失相殺した後の金額です。

 

状況

Hさんは、加害者が運転する自動車に乗車していたところ、加害者が運転操作を誤り、自損事故を起こしました。

その事故により、Hさんは頭部や右腕、両足などを負傷し、右腸骨骨折、左恥骨骨折、右上腕骨近位部骨折、右橈骨遠位端骨折、硬膜下血腫等の重傷を負いました。

Hさんは、緊急搬送され、集中治療室での治療を受けるなどしており、とても事故処理の対応などできるような状況ではありませんでした。

こうした状況で不安になられたご家族が弊所に相談に来られたのです。

 

弁護士の対応

弁護士は、事故状況やHさんの病状などを聞きとった上で、最終的な解決までの流れを説明しました。

また、Hさんにも安心してもらうために、弁護士が直接病院に訪れ、弁護士が受任すること等の説明を行いました。

その後、Hさんは徐々に回復傾向にあったものの、事故前のようには活動することもできなくなりました。

持病の悪化もあって、転院の必要性も出てきたため、弁護士において、相手保険会社と転院の調整をするなどのサポートを行いました。

Hさんは、治療を継続していましたが、最終的に約1年を経過したところで、症状固定となり、後遺障害申請を行うことになりました。

Hさんは、事故により頭部外傷を負っており、症状固定時の症状を見ても高次脳機能障害が残存している可能性が高い状態でした。

弁護士は、症状固定時のHさんの状態を適切に評価してもらうために、Hさんが通所していた施設に聞き取り調査を行い、また、医師面談をするなどして必要な資料を収集しました。

また、Hさんは、事故前から持病があったため、既存障害(事故前にある障害)が認定される可能性がありました。

弁護士は、既存障害が過大に認定されてしまわないように、Hさんが事故前の生活状況などをご家族や施設の方から十分に聴取して、報告書としてまとめて提出しました。

こうした資料をまとめて後遺障害申請を行ったところ、別表第1第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」、既存障害7級4号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」が認定されました。

参考:自賠責保険(共済)における後遺障害の等級と保険金額(一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構)

Hさんの状態を考えると、別表第1第1級1号の認定は妥当であり、既存障害についても、事故前のHさんの状態を踏まえると妥当といえる認定でした。

こうした認定を踏まえて、相手保険会社と示談交渉を行いました。

Hさんは、事故当時、年金で生活されており就労されていませんでした。

したがって、後遺障害逸失利益や休業損害は発生しません。

しかし、Hさんは、事故前には当たり前にできていた日常生活を奪われ、ベッドから起き上がることすら難しい状態になってしまったのです。

弁護士は、こうした事情を踏まえて、慰謝料を可能な限り増額するよう相手方保険会社と交渉を行いました。

そうしたところ、後遺障害慰謝料に関しては、裁判基準よりも約200万円程度増額した金額で合意することができました。
(裁判基準では、1級は2800万円ですが、本件では既存障害7級分の1000万円が差し引かれるので、裁判基準での後遺障害慰謝料は1800万円となります。)

また、傷害慰謝料に関しても、ほぼ裁判基準での金額で合意することができました。

 

 

弁護士のアドバイス

既存障害について

本件では、事故による後遺障害の認定だけでなく、既存障害が何級に認定されるのかも重要なポイントでした。

なぜなら、既存障害がある場合、既存障害の等級に応じて、後遺障害慰謝料が差引かれてしまうのです。

今回は、後遺障害1級1号の認定で、既存障害は7級4号でしたので、1級の後遺障害慰謝料2800万円(裁判基準)から、7級の後遺障害慰謝料1000万円(裁判基準)を差引いた1800万円が裁判基準での後遺障害慰謝料となるのです。

仮に、既存障害が5級になると後遺障害慰謝料が1400万円(裁判基準)差引かれることになるのです。

また、既存障害は後遺障害逸失利益の請求にも影響するので、既存障害の存在はケースによっては、大幅な減額事由となってしまいます。
(今回は、Hさんがすでに年金で生活されていたため、後遺障害逸失利益の問題は出てきませんでした。)

本件のように、被害者に既存障害が認定される可能性がある場合には、過大に認定がされないように、適切な資料を添付して後遺障害申請しなければなりません。

既存障害が認定されるのは、過去に交通事故によって既に後遺障害が認定されている場合や、要支援や要介護認定されている場合、障害者手帳の交付を受けている場合などが考えられます。

 

 

高次脳機能障害の後遺障害申請

本件では、Hさんは、高次脳機能障害として1級1号の等級の認定を受けました。

高次脳機能障害は、通常の後遺障害申請では提出しない書類も提出する必要があります。

主には、日常生活報告書、神経系統の障害に関する医学的意見、頭部外傷後の意識障害についての所見といった書類を提出する必要があります。

日常生活報告書は、同居している家族など、被害者の日常生活をよく知っている人に作成してもらいます。

また、被害者が、子どもの場合には、学校の先生などにも話を聞き、学校での状況を書面などにまとめる作業を行います。

本件では、弁護士は被害者が通所していた施設にも聞き取りに行きました。

高次脳機能障害の後遺障害で適切な認定をしてもらうには、被害者の事故前の生活状況を詳細に伝えることが重要となります。

 

 


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