後遺障害診断書はないが高次脳機能障害として7級の認定を得た事例
※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。
受傷部位 | 頭部(びまん性軸索損傷、外傷性くも膜下出血) |
等級 | 7級4号(高次脳機能障害) |
ご依頼後取得した金額 |
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約4000万円(自賠責保険含む) |
損害項目 | 弁護士によるサポート結果 |
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傷害慰謝料 | 170万円 |
休業損害 | 70万円 |
入院雑費 | 8万4000円(1日1500円 裁判基準) |
後遺障害慰謝料 | 900万円(7級、裁判基準90%) |
後遺障害逸失利益 | 2800万円(年収×56%×67歳まで 裁判基準) |
結果 | 約4000万円(自賠責保険含む) |
状況
Vさんは、九州のとある県で、仕事のために一人暮らしをして生活していました。
ある日、夜間に歩道を歩いていたところ、自動車が誤って歩道に乗り上げてきてひかれてしまうという交通事故にあいました。
Vさんは、車にひかれた際に転倒して頭部を打ったため、交通事故の記憶がほとんど残っていない状況でした。
救急車で大学病院に搬送され、CT検査の結果、びまん性軸索損傷、外傷性くも膜下出血として、脳に外傷を負っていると診断され、その日に入院となりました。
2週間ほど大学病院で入院生活を過ごしたのち、実家から遠いリハビリ病院に継続して入院するのは大変だろうと考えたVさんは、実家のある福岡県に戻ってきて、リハビリ病院に1か月ほどさらに入院しました。
そして、リハビリ病院を退院後は、街の脳外科に何度か通院して、状態としては落ち着いたため、Vさんは病院に行くのを終了しました。
そうした状況で、弁護士に相談に来られました。
弁護士の対応
弁護士は、まずVさんからお話をうかがいました。
すると、コミュニケーションは取れるのですが、所々会話が噛み合わないことがあると弁護士は感じました。
交通事故のことをうかがうと、事故のことは頭を打ったのでよく覚えていないということでした。
そのため、高次脳機能障害の可能性があると弁護士は判断して、依頼を受けて検証することとしました。
具体的には、保険会社に受任通知を発送して、Vさんが入院していた大学病院の診断書や明細書を取得しました。
すると、診断書に「びまん性軸索損傷」、「外傷性くも膜下出血」と明記されており、JCS10といった記載もありました。
JCSが2桁ということで、一定の意識障害があったことも判明したため、弁護士はすぐに大学病院のカルテと画像を取り寄せました。
その上で、大学病院に後遺障害診断書を作成できないか依頼をしました。
ところが、大学病院側は、2週間しか経過を見ていないので、後遺障害診断書は作成できないと断られました。
そこで、転院して1か月ほど入院していたリハビリ病院にも後遺障害診断書の作成をお願いしました。
ところが、この病院でも初診を全く見れていないことや街の脳外科に転院していることを理由に後遺障害診断書は作成できないと断られました。
後遺障害診断書を作成してくれる病院がないという状態でしたが、弁護士は諦めずに取り寄せられる資料を集めるだけ集めて、後遺障害の申請をしようと考えました。
そこで、大学病院に、「頭部外傷後の意識障害についての所見」を記載してもらいました。
その際、「退院時には高次脳機能障害の症状があったこと」も記載してもらうことで協力を得ることはできました。
この大学病院の書類に、Vさん家族の日常生活状況報告書を弁護士がサポートして作成しました。
ところが、Vさんは一人暮らしをしていたこともあり、ご家族も詳細にVさんの交通事故前の状況を把握できていませんでした。
そのため、Vさんの友人にも協力してもらって、ご友人の方にも日常生活状況報告書を作成してもらいました。
弁護士は何とか知恵を絞って、診断書と明細書、カルテ、検査画像、「頭部外傷後の意識障害についての所見」、「日常生活状況報告書」を資料として、自賠責保険へ後遺障害の被害者請求を行いました。
自賠責保険の調査事務所としても、後遺障害診断書はないものの、提出した記録から高次脳機能障害の可能性がある事案として取り扱ってもらうこととなり、専門部での審査になりました。
時間は半年ほどかかりましたが、最終的に、高次脳機能障害として7級4号の認定を得ることができました。
判断理由として、画像所見があること、弁護士が作成のサポートをした日常生活状況報告書の記載に、コミュニケーションに難がある、そのことが理由で転職を繰り返しているという事実が挙げられていました。
この認定結果を踏まえて、相手方の保険会社と示談交渉を行いました。
当初、相手方保険会社は、傷害慰謝料を 85万円、後遺障害慰謝料を 400万円とするなど裁判基準の半分程度の慰謝料しか補償できないと主張していました。
しかしながら、裁判じゃないからといって、安易に保険会社の基準による慰謝料の算出で賠償額を算出することには到底応じられないと頑なに主張しました。
他方で、Vさんとしては、裁判まではしたくないし、できるだけ早めに補償を得たいというご意向でしたので、Vさんの意向も踏まえつつ、できるだけ賠償額が多くなるように交渉をしました。
最終的には、傷害慰謝料も当初の提示額の倍額の 170万円、後遺障害慰謝料も裁判基準の90%の 900万円、逸失利益もVさんの年収の7級相当の喪失率56%を67歳まで補償してもらうという内容で示談が成立しました。
Vさんの最終的な受取額は自賠責保険のお金も合わせると約 4000万円になりました。
弁護士のアドバイス
後遺障害の申請を行うためには、原則として後遺障害診断書を医師に作成してもらわなければなりません。
そのため、今回のVさんのように、医師が後遺障害診断書を作成してくれないとなると後遺障害の手続を取ることができなくなる可能性が高いです。
他方で、高次脳機能障害の事案に関しては、医師も見落としやすい性質の障害であるとして、一定の要件を満たせば、審査の対象としてもらえることもあります。
今回のVさんも弁護士が集めた資料から脳外傷を受け、意識障害が一定期間あったことがわかることから審査の対象にしてもらうことができました。