左肩関節の可動域制限で後遺障害10級に認定された事例
※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。
受傷部位 | 左肩 |
等級 | 10級10号 |
ご依頼後取得した金額 |
---|
約1400万円 |
主な損害項目 | 弁護士によるサポート結果 |
---|---|
傷害慰謝料 | 約100万円 |
休業損害 | 約35万円 |
後遺障害慰謝料 | 約500万円 |
後遺障害逸失利益 | 約950万円 |
過失相殺 | 10% |
状況
Sさんは、交差点をバイクで直進していたところ、対向車線から右折してきた車両に衝突され転倒させられる交通事故に遭いました。
Sさんは、すぐに病院に行って検査してもらったところ、左肩関節脱臼骨折の重症を負っていることが判明しました。
その後、Sさんは、ギプス固定され保存治療を継続していましたが、後遺障害のことや、保険会社への対応を負担に感じ、当事務所に相談に来られました。
弁護士の対応
弁護士は、Sさんからご依頼を受けた後、すぐに保険会社に受任通知を発送し、交渉窓口を弁護士として、Sさんには保険会社から連絡がいかないよう手配しました。
Sさんは、事故から半年経過した頃に、医師から症状固定との診断を受けたため、後遺障害申請の手続きに入りました。
後遺障害申請に必要な資料の一式は全て弁護士が収集し、弁護士が被害者請求の方法で後遺障害申請を行いました。
そうしたところ、左肩関節の可動域制限について10級10号の認定を受けることができました。
弁護士は、この認定に基づき、裁判基準で損害を計算し、保険会社に提示しました。
そうしたところ、保険会社は、合計300万円程度で解決するとの回答がありました。
しかし、この金額は裁判基準の相場から考えると相当に低額です。
本件で主に争点となったのは、逸失利益の基礎収入の計算にアパートの賃料収入を含めるかという点であり、保険会社は収入として認めないという見解でした。
この点について、Sさんは、不労所得(労働せずに得る所得)として賃料を得ていたのではなく、アパートの管理業務(清掃、苦情対応、共有設備の保守管理など)を行っていました。
そこで、弁護士は、本件事故による後遺障害によって、アパートの管理業務に支障が出ることや、業者に委託する必要がでる可能性などを指摘し、逸失利益の基礎収入にアパートの賃料収入も含めるべきであるとの主張を行いました。
その結果、保険会社もアパートの賃料収入を含めて逸失利益の計算をすることを了承しました。
慰謝料に関しては、裁判基準の90%程度となりましたが、逸失利益が十分に認められたことや、過失割合がSさんに有利であったことなどから、裁判まではせず、交渉で合意にいたリました。
弁護士のアドバイス
後遺障害10級10号に認定されるには
後遺障害10級10号は、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当する場合に認定される等級です。
「3大関節」とは、肩関節、肘関節、手関節の3つの関節のことを指します。
また、「関節の機能に著しい障害を残す」とは、健側(ケガをしていない方の関節)と比べて、可動域が2分の1以下になった場合を指します。
ただし、10級10号に認定されるには、単に可動域制限が生じているだけでなく、可動域制限が生じている医学的根拠も示す必要があります。
本件では、Sさんは、左肩関節脱臼骨折の傷害を負っており、それが原因で可動域制限が生じていたことから、10級10号に認定されたのです。
可動域制限が生じている医学的根拠を示すのに最も重要なのは、レントゲンやCTなどの画像所見が重要です。
画像をみて、骨がきれいにくっついていない状況が分かれば、認定されやすくなります。
他方で、骨折した部分がきれいに治っているような場合には、認定されない可能性が高いです。
画像上、異常所見があるかどうかについては、医師によって見解が分かれることもありますので、事案によっては、後遺障害申請の前に画像鑑定をしてみるなど検討する必要があるでしょう。
後遺障害10級11号
後遺障害10級10号に似た等級として11号があります。
10号が上肢の関節の可動域制限の等級ですが、11号は下肢の関節(股関節、膝関節、足関節)の可動域制限の等級です。
上記の10号の説明が11号でも同じように当てはまりますので、参考にされてください。
後遺障害10級の慰謝料
後遺障害10級の慰謝料は、裁判基準で550万円、自賠責保険基準で187万円です。
後遺障害10級は1号〜11号までありますが、いずれの号に該当した場合でも、上記の金額が賠償の目安になります。
賃料収入を逸失利益の基礎収入に加算できるか
逸失利益は、以下の計算式で計算します。
後遺障害逸失利益の計算式
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
逸失利益は、後遺障害が生じたことで、将来の収入が減少してしまうかもしれないことに対する補償です。
したがって、基礎収入に加算することができるのは、実際に労働した対価として得ている収入に限定されるのが原則です。
賃料収入の場合には、実際に労働することなく、管理業者に委託して委託料を差し引いた賃料のみを受け取るケースが多いかと思います。
そうした場合、後遺障害が生じたからといって特に賃料収入が減ることは有りません。
したがって、賃料収入は、原則として逸失利益の基礎収入には、加算できないと考えられます。
もっとも、本件では、Sさんは、アパートの管理を業者に任せるのではなく、大部分の管理をSさん自身が行っていました。
そうすると、Sさんの賃料収入は、アパートの管理業務という労働に対する対価であるという考え方ができると考えられます。
本件では、こうした実情を踏まえて、保険会社と交渉したところ、賃料収入を加算して逸失利益を計算してもらえることができました。
このように、賃料収入だから逸失利益には関係ないと諦めるのではなく、実質をみて請求できる可能性をしっかり検討すべきでしょう。