交通事故での右胸鎖関節脱臼骨折による変形障害で逸失利益を得た事例
※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。
受傷部位 | 右鎖骨(右胸鎖関節脱臼骨折) |
等級 | 12級5号 |
ご依頼後取得した金額 |
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約1230万円 |
損害項目 | 弁護士によるサポート結果 |
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傷害慰謝料 | 約176万円(裁判基準) |
後遺障害慰謝料 | 290万円(裁判基準) |
後遺障害逸失利益 | 約801万円(賃セ男性平均、固定後10年間は14%の喪失、それ以降の23年間は5%の喪失) |
結果 | 約1230万円(過失相殺5%あり) |
自転車で左折車に巻き込まれ、右胸鎖関節脱臼骨折したTさん
Tさんは、自転車で横断歩道のそばを横断中に左折してきた車両に巻き込まれ転倒するという交通事故に遭いました。
Tさんは、事故後すぐに緊急搬送され検査をしたところ、右胸鎖関節脱臼骨折と診断されました。
その後、Tさんは、約2か月入院した後、約5ヶ月通院したところで、医師から症状固定と判断されたため、後遺障害等級認定の申請をしました。
結果は、後遺障害等級12級5号「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」に認定されました。
この等級に基づき、自ら保険会社と交渉しようと考えましたが、妥当な賠償額の見通しが立たなかったため、弁護士に相談することにされました。
弁護士の交渉によって、要望とおり裁判基準の100%で解決
まず、弁護士において、後遺障害診断書及び後遺障害の認定票を確認しました。
傷病名が右胸鎖関節脱臼骨折であったため、右肩に可動域制限がかかっており、別に後遺障害12級6号「1上肢の3代関節中の1関節の機能に障害を残すもの」に該当する可能性が考えられました。
そこで、Tさんに可動域の状態について弁護士において確認したところ、12級6号に該当する程度の制限はかかっていませんでした。
そこで、弁護士において、Tさんの入通院状況や後遺障害認定を前提として、賠償額を算定しました。
逸失利益の算定にあたっては、基礎収入、喪失期間、喪失率を確定しなければなりません。
まず、基礎収入は、原則として事故前年の年収額を基礎とすることになります。
Tさんの前年の年収額は、概算で約360万円でした。
しかし、Tさんの年齢や職種などから、将来において、収入が増額する蓋然性があったことから、弁護士は、賃金センサスの男性全年齢平均の金額である536万400円を基礎収入としました。
労働能力の喪失に関しては、Tさんの後遺障害は12級5号で、いわゆる変形障害であったことから、保険会社から、そもそも労働能力を喪失していないという主張が考えられました。
しかし、Tさんの仕事は体を使う仕事であり、骨折部分の痛みも残存しており、実際に仕事に支障が出ているとのことでした。
そこで、弁護士は、こうした事情を保険会社に説明した上で、12級相当の14%の労働能力喪失を前提として、逸失利益を計算しました。
また、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料については、裁判基準にて賠償請求をしました。
こうした提案に対して、保険会社は、逸失利益の基礎収入について、現実収入とすること、喪失期間について期間を限定すること、また、慰謝料については、訴訟外のため80%にすることなどを主張してきました。
これに対して弁護士は、労働能力の喪失期間については、裁判例においても変形障害のケースでは、期間を限定的に考慮する傾向があるため、保険会社の主張を飲むことにしました。
しかし、弁護士は、基礎収入については、Tさんの今後の増収の見込みが十分あることを説明し、また、慰謝料については、Tさんが本件事故によって、生活面や仕事面で相当な苦痛を与えられたことを具体的に説明しました。
その結果、基礎収入は、こちらの要望とおり賃金センサス男性全年齢平均を基礎とすることができ、また、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料ともに裁判基準の100%で解決することができました。
示談交渉での解決となりましたが、金額の内容としては裁判基準には達した合意内容になっているかと思います。
解説
胸鎖関節脱臼の後遺障害
胸鎖関節脱臼は、胸部中央の胸骨と鎖骨の交わる関節部の脱臼です。
主に前胸部に痛みが出る症状です。
該当しうる後遺障害等級は、残存した障害の内容・程度によって、以下のように分類されます。
障害の内容・程度 | 後遺障害等級 |
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変形障害(変形したまま固まる) | 12級5号 |
運動障害(可動域制限) | 8級6号、10級10号、12級6号 |
神経症状(痛みの残存) | 12級13号、14級9号 |
また、胸鎖関節脱臼の類似の怪我として、肩鎖関節脱臼というものがあります。
後遺障害逸失利益の基礎収入
逸失利益の計算方法は、基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数となります。
その中でも、基礎収入に関しては、上記のとおり、事故前年の年収です。
例えば、会社員の場合は、事故前年の源泉徴収票に記載されている金額が基礎収入となります。
もっとも、被害者の年齢や職業から、将来において平均賃金程度の収入が得られる蓋然性が立証できれば、賃金センサスの金額を基礎収入とできる可能性があります。
賃金センサスの中には、男女学歴計、男性学歴計、女性学歴計・・・といったように様々な種類があり、どの賃金センサスを用いるかは事案によって異なります。
過失割合
本件のような、同一方向の直進自転車と左折四輪車との事故(いわゆる巻き込み事故)の基本過失割合は、0〜10(自転車):90〜100(四輪車)となります。
その上で個別の事情を考慮し、上記の基本過失割合が修正され、最終的な過失割合が決められます。
弁護士が介入した場合は、実況見分調書等の刑事記録を取り寄せ、適切な主張を構成できないか検討するなどの活動を行います。
まとめ
保険会社は、変形障害の後遺障害の場合には、そもそも労働能力の喪失がないから逸失利益の賠償は認めないというスタンスで交渉に臨んでくることが多々あります。
確かに、骨に変形の所見は認められるものの、痛みを全く伴わないようなケースであれば、実際に労働能力は喪失していないと考えられるため、逸失利益が発生しないケースもあるかと思います。
しかし、変形障害の後遺障害の場合には、変形障害の認定に疼痛の存在を含めて評価して認定されている場合があります。
こうした場合には、労働能力の喪失が認められるべきであり、保険会社の変形障害では逸失利益は認められないという主張を鵜呑みにしてはいけません。
適切な主張をして逸失利益の適切な補償を受けるべきです。