弁護士コラム

交通事故による歯の欠損で慰謝料が請求できる?事例で解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故によって歯が欠損・喪失した場合、被害者は加害者に対して慰謝料を請求できる可能性があります。慰謝料の増額事由として考慮している裁判例も多く存在します。

慰謝料の金額や後遺障害等級の適用があるかは、欠損の程度や治療内容などの具体的な事情によって異なります。

判例を踏まえて、こうした請求がどのように認められるか、弁護士が解説していきます。

事案の概要

被害者(当時15歳)が道路を歩行中、加害者運転の自動車に後方から衝突された事故で、この事故により被害者は、上顎骨折、歯槽骨折、右肩甲骨骨折などの傷害を負いました。

これらの障害により被害者は、後遺障害等級10級4号(歯科補てつ)の認定を受けています。

大阪地裁平成21年1月30日判決

 

主な争点

労働能力の喪失率について

 

 

判示の概要

本件での労働能力の喪失率について

「後遺障害の内容が歯の欠損等であり、歯科補綴によりある程度機能が回復することなどにも照らすと、後遺障害等級一〇級四号に該当するからといってただちに二七%の労働能力喪失があったとみることには疑問があるので(醜状障害におけると同様)、二〇%の限度で労働能力の喪失を認めることとする。」

 

慰謝料について

「被告は、相当な飲酒をしたうえで被告車を運転して本件事故を起こしたこと、常習的な飲酒運転であったこと、救護義務や報告義務に違反したひき逃げであること、逃走後被告車を修理するなどして堙滅工作を図っていること、無車検・無保険車運転であること、過失の内容自体、後方車両にばかり気をとられて全く前方に注意を払っていなかったという重大な過失であることなどの事情が認められる。そうすると、入通院を強いられた苦痛、後遺障害を残した苦痛の双方について、慰謝料の増額要素が認められるところ、それぞれの増額の割合は五割をもって相当と認める。」

 

 

弁護士の解説

歯牙障害について

「歯牙障害」とは、簡単に言えば、事故によって歯を喪失したり、歯の大部分を欠損してしまった場合に認定される障害です。

後遺障害等級としては、以下のように決まっています。

等級 後遺障害
10級4号 14歯以上に歯科補綴を加えた場合
11級4号 10歯以上に歯科補綴を加えた場合
12級3号 7歯以上に歯科補綴を加えた場合
13級5号 5歯以上に歯科補綴を加えた場合
14級2号 3歯以上に歯科補綴を加えた場合

※歯科補綴(しかほてつ)を加えた場合:簡単に言うと、事故によって喪失した歯の本数と歯の大部分(4分の3以上)を欠損した歯の合計数とイメージして頂ければ大丈夫です。

歯牙障害の賠償問題の特徴としては、歯が失われたこと自体では、身体的な不自由や思考応力に直接的に影響することは少ないと考えられるため、労働能力の喪失率や喪失期間が制限されることがあります。

裁判例の中には、逸失利益の賠償自体を否定している裁判例もあります。

他方で、慰謝料の増額事由として考慮している裁判例も多く存在します。

また、歯牙障害が残るような事故の場合、そしゃく機能障害や言語機能障害なども生じている可能性もあります。

そしゃく機能障害、言語機能障害については、以下をご覧ください。

 

本事案について

逸失利益について

本事案では、被害者が歩行していたところに飲酒運転の加害車両が後方から突っ込んだ事故で、被害者は後遺障害等級10級4号に認定されています。

なお、後遺障害別等級表では、10級の労働能力喪失率は27%と定められています。

ただし、上記したように、歯の喪失や欠損で、直接的に身体的に不自由が生じたり、思考能力が減退することは少ないと考えられるため、本事案においても労働能力の喪失率は限定的に判断されています。

具体的には、歯科補綴を行うことである程度の機能の回復が見込まれることから、労働能力の喪失率は20%と限定して判断がされています。

ただし、本事案では、労働能力の喪失期間は限定されておらず、67歳までの喪失期間を認めています。

 

慰謝料について

逸失利益の賠償は限定されたものの、慰謝料に関しては、裁判基準(裁判をした場合の賠償水準)の50%増しの慰謝料を認めています。

ただ、慰謝料が増額された理由としては、加害者が飲酒運転でひき逃げ事故であったことや過失の大きさ等が理由となっており、理由として歯牙障害の残存は挙げられていません。

 

歯牙障害でお困りの方は弁護士にご相談ください

上記のように歯牙障害の場合、賠償実務の中では逸失利益の賠償は限定される傾向にあります。

そのため、保険会社は裁判になる前の示談交渉の段階では、歯牙障害では逸失利益は発生しないと断言するような交渉をしてくる可能性があります。

確かに、裁判例の中には歯牙障害のみでは逸失利益の賠償自体を否定するものもあります。

しかし、歯牙障害が原因で痛みや口内の不快感、見た目の問題などにより労働能力に影響が出ることは十分に考えられますので、各事案において本当に賠償されない事案なのか慎重に検討すべきです。

交通事故による歯牙障害でお悩みの方は、お気軽に弊所までご相談ください。

交通事故案件に注力している弁護士が相談に対応させたいただきます。

ご相談は以下からどうぞ。

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