交通事故で植物状態となった場合の賠償金請求のポイント

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

植物状態とは、交通事故によって脳挫傷などの頭部外傷を負い、意識不明で寝たきりになっている状態です。

遷延性意識障害とも言われます。

家族が交通事故で植物状態(遷延性意識障害)となった場合、症状固定までの治療関係費、入院雑費、付添看護費、交通費、傷害慰謝料、休業損害などを、症状固定後は、後遺障害逸失利益、後遺損害慰謝料、将来の治療費、将来の介護費用などを請求できます。

交通事故で植物状態になった被害者の家族がするべきことや請求できる賠償金、ポイントを交通事故に注力する弁護士がわかりやすく解説していきます。

植物状態(遷延性意識障害)とは

植物状態とは、交通事故によって脳挫傷などの頭部外傷を負い、意識不明で寝たきりになっている状態です。

日本脳神経外科学会の定義によりますと下記の1~6の状態が3か月以上続いている状態であるとされています。

  1. 自力で移動ができない
  2. 自力で食事ができない
  3. 大便、尿失禁がある
  4. 眼球は動いても見たものを認識できない
  5. 簡単な命令に応じても、意思疎通は不可能
  6. 発声をしても意味のある言葉を言えない

この場合、遷延性意識障害として、後遺障害1級が認められる可能性が高くなります。

 

 

賠償金請求のために成年後見人の選任が必要

弁護士に交渉を依頼したり、訴訟提起をする場合には、それを行う有効な意思表示ができなければなりません。

被害者が植物状態となると、被害者自身の意思表示や判断ができなくなります。

そこで、成年後見制度を利用して、被害者に代わって損害賠償請求等の手続を行う成年後見人を選任する必要があります。

成年後見制度は、障害などのため、判断能力が不十分な方々を、法律面や生活面で保護したり、支援したりする制度です。

成年後見人の選任は、家庭裁判所へ申立てをします。

交通事故による成年後見事案の場合、保険会社との交渉を伴うため、弁護士が後見人に選任されるケースもあります。

成年後見制度について、詳しくは以下をご覧ください。

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成年後見

 

 

植物状態の場合の交通事故賠償金請求のポイント

植物状態(遷延性意識障害)となった場合の損害について、症状固定前と後に分けて以下説明します。

 

症状固定前までの損害

固定症状のタイミング

症状固定とは、治療を行っても症状の改善が見られない状態を指します。

症状固定については、以下をご覧ください。

症状固定前の損害としては、治療関係費、入院雑費、付添看護費、傷害慰謝料、交通費、休業損害などが請求できます。

 

治療関係費

症状固定となるまでは、入院費用、外来通院の治療費などが認められます。

被害者の状態によっては、医師による指示等がある場合には、入院中の個室料も認められる場合があります

入院中の個室料について、詳しくは以下をご覧ください。

植物状態(遷延性意識障害)の場合、症状固定の判断が難しい場合がありますので、主治医と十分にコミュニケーションをとりながら、症状固定を見極める必要があります。

 

入院雑費

入院雑費としては、自賠責保険基準で1日1100円、裁判基準で1日1500円が賠償金額となります。

 

付添看護費

付添看護費用は、医師の指示がある場合や、受傷の部位や被害者の年齢などを踏まえて付添いの必要性がある場合に認められます。

付添費の金額は上下することはありますが、プロの付添人の場合は全額実費、近親者には大体1日につき6500円(裁判基準)が目安となります。

入院の付添看護費用については、以下をご覧ください。

また、付添看護費用の賠償が認められる場合には、付添うために病院に行く交通費も賠償として認められます。

 

傷害慰謝料

傷害慰謝料は、入通院していることに対して支払われる慰謝料です。

事故発生から症状固定日までの入通院期間によって算出されます。

 

休業損害

植物状態となった場合には、全く働くことができなくなるため、症状固定日までの休業損害を請求することができます。

症状固定日以降の働けなかったことに対する賠償は、後述する後遺障害逸失利益として賠償を求めることになります。

休業損害に関するQAについては以下をご覧下さい。

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休業損害のよくあるQ&A

 

症状固定後の損害

症状固定後の将来の治療費、将来介護費用、後遺障害逸失利益、後遺損害慰謝料などを請求できます。

将来治療費

治療費は、症状固定時までしか認められないのが原則です。

もっとも、生命維持のために必要な場合などには将来治療費も請求できる場合があります。

将来治療費を請求する場合、医師の見解等をふまえて、症状固定後においても継続して治療が必要であることを主張立証していく必要があります。

 

将来介護費用

将来の介護費用は、職業的な看護・介護者の付添人の場合は実費全額、近親者付添人は1日につき8,000円が目安となりますが、被害者の症状の程度等によって、金額は前後することになります。

将来介護費用は、以下の計算式で計算します。

将来介護費用の計算式

1日当たりの金額 × 365日 × 平均余命の年数に対応するライプニッツ係数

将来介護費用は、将来において必要になるお金を一時金として支払いを受けるため、ライプニッツ係数という中間利息を控除する係数を使用します。

例えば、53歳男性の場合の平均余命は30年(平成30年簡易生命表)となり、30年に対応するライプニッツ係数は、15.3725(2020年4月1日以降の事故の場合は19.6004)となります。

したがって、この場合で1日8000円介護費用を要するケースでは、以下の計算式になります。

計算例 1日8000円介護費用を要するケース

8000円 × 365日 × 15.3725 = 4488万7700円

 

後遺障害逸失利益

植物状態となった場合には、後遺障害1級に認定されることになります。

したがって、逸失利益については、稼働可能年齢(67歳まで)、100%の喪失率を前提に請求することになります。

後遺障害逸失利益について詳しくは以下をご覧ください。

 

後遺障害慰謝料

後遺障害1級の後遺障害慰謝料は裁判基準では2800万円となっていますが、事案に応じて増減がなされます。

 

近親者の慰謝料

裁判例において「植物状態の障害について死亡した場合と対比して勝るとも劣らない」として、植物状態になった被害者の近親者固有の慰謝料請求が認められました(東京地判昭和58年9月26日)。

近親者とは、被害者(植物状態になった人)の父母、配偶者、子どもなどです。

被害者との関係性が近親者と同等と評価することができれば、内縁関係の方や婚約者にも固有の慰謝料が認められる可能性があります。

このように、植物状態(遷延性意識障害)については、請求すべき項目が多数に及びますし、成年後見についても検討が必要になりますので、弁護士に相談すべき事案といえます。

 

 

慰謝料


 
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