症状固定後の治療費や手術費は請求できる?【弁護士が解説】
交通事故による怪我の症状が固定した後の、将来の治療費や手術費は請求することができますか?
症状固定後の治療費や手術費は原則として認められません。
ただし、症状の悪化を防ぐためのリハビリや検査、手術について、医師が必要としているなど、相当の場合には認められこともあります。
症状固定後の治療費等が認められない理由
交通事故による治療は症状固定の時点までを損害の対象とします。
症状固定とは「治療を継続してもそれ以上の症状の改善が望めない時」とされています。
したがって、症状固定以降の治療は必要性のない治療ということになり、加害者側は支払い義務を負わなくなるのです。
症状固定時点において、残っている症状に関しては、後遺障害の問題として取り扱われ、等級が認定された場合に後遺症慰謝料や後遺症の逸失利益として処理されるため、原則として症状固定後の治療費等が認められないのです。
症状固定について、詳しく確認されたい方は、以下ページをご覧ください。
症状固定後の治療費等が認められるとき
もっとも、被害者にとって症状固定後も治療が一切不要になるわけではありません。
したがって、その支出が相当なときには将来の治療費や手術費が補償されています。
「相当なとき」とは、以下のような場合をいいます。
- 植物状態など生命を維持する上で将来も治療費を支払う必要があるとき
- 治療によって症状の悪化を防ぐ必要があるとき
- 症状固定後も強い身体的苦痛が残り、苦痛を軽減するために治療が必要なとき
なお、症状固定後の治療費等への支出の相当性と確実性は、医師の作成する証明書で立証します。
症状固定後の治療費が認められた例
裁判でも、以下の事例等で症状固定後の治療費が認められました。
判例 東京地裁 平成28年9月12日判決(交民 49巻5号1122頁、自保ジャーナル 1988号112頁)
左肘関節の可動域制限で12級6号、左鎖骨の変形障害で12級5号の認定を受けている男性について、「整形外科医が必要性を認めるリハビリが症状固定診断日後にも行われたものであり、治療内容、期間等に照らし、本件事故との相当因果関係が認められる。」として、症状固定日以降の治療費についても賠償を認めています。
判例 大阪地裁 平成28年8月29日判決(交民 49巻6号1570頁、自保ジャーナル 1987号19頁)
四肢麻痺で別表第1の1級1号に認定されている男性の事案について、「後遺障害の内容・程度等からすると、症状固定後の入院治療も必要かつ相当なものであったと認められる。」として、症状固定後の入院費用を認めています。
また、入院中の個室利用についても個室の利用は必要かつ相当なものであったと判断し、個室の利用料金も賠償を認めています。
ただし、入院中の食事負担金については、食費は本件事故とは無関係に発生するものであるとして、賠償は認めませんでした。
このように、症状固定後の治療費を認める裁判例もあります。
症状固定後の治療費を認めてもらうには、少なくとも、医師が症状固定後も治療が必要であると明確に認めていることは必須であると思われます。
将来要する費用の賠償
将来の治療費が認められる場合、将来の通院交通費も認められる可能性があります。
将来の器具・装具等の費用
義手や義足といった器具は耐用年数があり、将来の交換が予想されるため、当該費用についても必要があれば認められます。
器具・装具の内容
認められる器具や装具は、義歯、義眼、義手、義足、メガネ、コンタクトレンズ、歩行補助器具、車いす(手動・電動・入浴用)、盲導犬費用、電動ベッド、介護支援ベッドなどです。
将来の雑費
将来の介護のための雑費や介護用品購入のため費用なども必要があれば認められます。
入院雑費と同じ日額で認めた裁判例(大阪地判 H12.7.24 )もありますが、紙おむつ、防水シーツ、栄養剤の購入費用等具体的な内容を適示し合計金額を認める傾向にあります。
将来介護費用が認められた事例については、以下ページをご覧ください。