学生でも逸失利益を請求できる?計算方法を解説

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)

後遺障害逸失利益についての質問です。

小学生(10歳)と大学生(20歳)になる子どもとドライブの最中に交通事故に遭いました。

子どもたちの後遺障害逸失利益はどうなりますか?

弁護士の回答

20歳の大学生については、大学を卒業した人の全年齢平均の区分に基づく平均賃金を基礎収入として、22歳から67歳までを労働能力喪失期間として、後遺症による逸失利益を算定することになります。

10歳の小学生の場合、基礎収入について賃金センサスの全労働者の平均賃金を用い、労働能力喪失期間は高校を卒業する18歳から67歳までとして、後遺症による逸失利益を算定するのが通常です。

逸失利益とは

逸失利益と休業損害の違い

交通事故による後遺症が原因で、本来得ることができた利益が得られなかった場合、その得られなかった利益を逸失利益といいます。

設例のような事案の場合、事故の時点で、大学生や小学生などの年少者は、逸失利益を算定する基礎となる収入がありません。

したがって、逸失利益はその基礎となる収入がない以上、算定不可能となりかねません。

しかし、実務においては、基礎収入を賃金センサスによって定め、就労可能開始時(通常18歳、大学の場合は22歳)から67歳までの労働能力喪失期間の逸失利益を認めています。

後遺症の逸失利益の計算式は、以下の式で計算します。

後遺症による逸失利益

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益について、くわしくは以下ページをご覧ください。

事故による高次脳機能障害で裁判基準100%の逸失利益を獲得した学生の事例は以下をご覧ください。

 

 

20歳大学生の後遺症の逸失利益

基礎収入

大学卒業の全年齢平均の区分に基づく平均賃金を用います。

 

労働能力喪失率

下記の後遺症等級に対応する喪失能力率を使います。

第1級 第2級 第3級 第4級 第5級 第6級 第7級
100% 100% 100% 92% 79% 67% 56%
第8級 第9級 第10級 第11級 第12級 第13級 第14級
45% 35% 27% 20% 14% 9% 5%


 

労働能力喪失期間

大学生の場合は、卒業後の就労が予想されているので、労働能力喪失期間については、22歳から67歳までの45年となるのが原則です。

なお、むちうちについては、裁判基準でも5年ないし10年程度を喪失期間とする場合がほとんどです。

むちうちと後遺症について、詳しくは以下ページをご覧ください。

 

 

10歳小学生の後遺症の逸失利益

基礎収入

基礎収入については、賃金センサスの全労働者の平均賃金を用いて計算を行います。

 

労働能力喪失率

上記後遺症等級に対応する喪失能力率を使います。

 

労働能力喪失期間

労働能力喪失期間は、高校を卒業する18歳から67歳までとなります。

この場合のライプニッツ係数の算出は、67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数で求められます。

ライプニッツ係数の求め方の式

 

 

補足(ライプニッツ係数について)

逸失利益を算定する際に、必ず「ライプニッツ係数」という用語が出てきますが、なぜ、ライプニッツ係数を使用する必要があるのでしょうか。

これは、逸失利益が将来発生する減収分を前倒しで受領するものであることから、中間利息を控除するためです。

具体例 100万円の減収が10年にわたって発生する場合

例えば、100万円の減収が10年にわたって発生する場合、総減収額は、
100万円 × 10年 = 1000万円
となりますが、将来受領する分を先にもらうことによって、運用益を得られるという考えから、利息分を控除するのです。

仮に、利息を5%とすると、10年のライプニッツ係数は7.7217ですから、100万円の減収が10年にわたって発生する場合の逸失利益は、
100万円 × 7.7217 = 772万1700円
となります。このように、かなりの中間利息控除があることがわかります。

今までは、民法で定められた法定利率が5%であったため、ライプニッツ係数も利息5%で算定した数値でした。

しかし、民法改正により、法定利率は当面の間3%とされました。

そのため、令和2年4月1日以降に発生した交通事故については、利息3%で算定したライプニッツ係数を用いることになります。

利息3%の場合、10年のライプニッツ係数は8.5302となります。

したがって、100万円の減収が10年続くという例では、逸失利益が、
100万円 × 8.5302 = 853万200円
となります。

このように、民法改正による法定利率の変更は、逸失利益の算定額に大きな影響を与えることになります。

逸失利益に関しては、法定利率が下がったことにより、控除される利息が少なくなるため、被害者に有利な変更といえるでしょう。

 

 

逸失利益の計算例

具体例 12歳の女子が交通事故で死亡した場合

  • 基礎収入:全労働者の平均賃金497万2000円(平成30年賃金センサス)
  • 生活費控除率:45%(男女差のバランスとるため)
  • 就業可能年数:49年
  • 18歳未満の者に適用する表よりライプニッツ係数:
    • 令和2年3月31日までに発生した事故の場合・・・13.558
    • 令和2年4月1日以降に発生した事故の場合・・・21.357

以下が、12歳女子年少者の逸失利益となります。

令和2年3月31日までに発生した事故の場合

497万2000円 ×( 1 − 0.45 )× 13.558 = 3707万5706円

令和2年4月1日以降に発生した事故の場合

497万2000円 ×( 1 − 0.45 )× 21.357 ¬= 5840万2852円

このように、死亡事故による逸失利益の算定は複雑な計算となるので専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

 

 

裁判例

幼児・年少者の裁判例

判例 幼児の逸失利益についての裁判例

事故により死亡した幼児の得べかりし利益を算定するに際しては、裁判所は、諸種の統計表その他の証拠資料に基づき、経験則と良識を活用して、できるだけ客観性のある額を算定すべきであり、一概に算定不可能として得べかりし利益の喪失による損害賠償請求を否定することは許されない。

【最判:昭和39.6.24】

参考:昭和39年6月24日|最高裁判所第三小法廷判決

今までは、幼児・年少者の基礎収入額に関する資料は、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別の全年齢平均賃金額を用いられることが多かったです。

もっとも、最近では、男女の賃金格差を是正するという観点から、男女計という男女の区別をしない全労働者の平均賃金を用いる裁判例も増えてきています。

 

学生の裁判例

ちなみに、大学生になっていない場合でも、大卒の賃金センサスを基礎収入として認められる場合があります。

大学進学の蓋然性のある高校生の場合に認められています。

判例① 男性大卒全年齢平均の賃金センサスを基礎収入とした裁判例

交通事故により死亡した高校2年生(男・17歳)につき、高校1年時の成績は優れなかったものの、

  • 勉学に対する意欲があったこと
  • 大学へ進学するのを当然とする家庭環境であったこと(両親大学卒、姉2人国立大学卒)
  • 被害者も担任教員に大学進学の意思を明確にしていたこと

などから、賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎収入としました。

【東京高判:平成15.2.13】


判例② 全労働者大卒全年齢平均の賃金センサスを基礎収入とした裁判例

交通事故により死亡した高校生(女・17歳)につき、

  • 在籍していた高校が中高一貫の進学校であったこと
  • 被害者は学業成績が優秀であり、高校2年生の卒業式で在校生を代表して送辞を述べていたこと

などから、賃金センサス全労働者大卒全年齢平均を基礎収入とした。

【京都地判:平成23.3.11】

 

 

まとめ

学生の逸失利益の計算は、通常の場合よりも複雑になる傾向があります。

子どもの将来のためにも適切な補償を受けることが大切です。

当事務所では、学生の交通事故案件も多数扱っている弁護士が在籍しています。

ご相談や事件処理にあたっては、交通事故に精通している弁護士が対応いたします。

電話相談やオンライン相談で全国対応しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

 

 

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