交通事故が原因で胸椎圧迫骨折。後遺障害になる?【弁護士が解説】

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)

この記事でわかること

  • 圧迫骨折とはどんなけが?
  • 胸椎圧迫骨折がどんなときに生じやすい?
  • 胸椎圧迫骨折の症状
  • 胸椎圧迫骨折の症状固定時期
  • 胸椎圧迫骨折の後遺症
  • 交通事故による胸椎圧迫骨折の後遺障害
  • 後遺障害が残った場合の問題点

圧迫骨折は、胸椎や腰椎などの背骨に多く見られ、脊柱(脊椎)の椎体がつぶれることで起こる骨折です。

交通事故による胸椎圧迫骨折によって、背骨の変形が残った場合、変形の程度によって、後遺障害等級は6級5号や8級、11級7号の後遺障害が認められる可能性があります。

また、変形障害だけでなく、運動障害が残った場合、6級5号や8級2号に認定される可能性があります。

以下で、弁護士が詳しく説明していきます。

圧迫骨折とは?

そもそも圧迫骨折とは、背中側の脊柱(脊椎)の椎体という部分が上下の圧力によって、つぶされて発生する骨折です。

つぶされることで発生する骨折なので、「圧迫骨折」と呼ばれています。

特に体を前に曲げたときに強い力がかかり、骨がつぶれてしまいます。

脊柱は、上から頚椎、胸椎、腰椎とありますが、圧迫骨折が生じやすいのは、主に胸椎から腰椎です。

胸椎圧迫骨折による脊柱の変形障害に認定された事例はこちらをご覧ください。

 

 

胸椎圧迫骨折の発症原因

胸椎圧迫骨折は、交通事故による外傷や転倒、転落で発症することがあります。

具体的に、交通事故の場合、以下のような事故の場合に起こりやすいとされています。

①バイクや自転車の事故

バイクや自転車に乗っていて交通事故にあった場合、事故の衝撃でバイクや自転車から落下してしまうことがあります。

このとき、背中から転倒してしまった場合には、地面で背中側を強く打ち付けてしまうため、その衝撃で胸椎圧迫骨折が生じることがあります。

②追突事故の場合

また、追突事故の場合でも、ノーブレーキでの追突といったような場合、追突の衝撃が強く、被害者の身体が前後に大きく揺さぶられたりするため、その際に胸椎圧迫骨折が発生する可能性があります。

③歩行者、高齢者の事故

さらに、歩行者で車にひかれてしまった場合や高齢者の事故でも胸椎圧迫骨折が生じやすいとされています。

特に、高齢者の場合には、どうしても骨が若い人に比べて弱くなっていたり、骨粗しょう症傾向にある方もいます。

そのため、比較的軽い力でも胸椎圧迫骨折になってしまうこともありますので注意が必要です。

 

 

胸椎圧迫骨折の症状

胸椎圧迫骨折の症状ですが、骨折しているわけですので、骨折部である背中(胸椎)やその周辺である腰(腰椎)に痛みが出ます。

多くの方が背中の広い範囲で強い痛みを感じます。

また、その痛みは体を動かすとより強くなることが多く、長時間立っていたり、座っていたりと同じ姿勢を取り続けることが難しいとおっしゃる方が多いです。

さらに、脊柱の中には、神経が巡っているため、胸椎圧迫骨折により神経にも影響が及んでしまうと、足がしびれたり、感覚がなかったりする麻痺の症状やおしっこや排便などが自分でうまくコントロールできないという症状もみられることがあります。

こうした麻痺や排泄の症状がみられる場合は、胸椎圧迫骨折の合併症として脊髄損傷が疑われます。

早めに医師に相談して検査を受けるべきでしょう。

 

 

胸椎圧迫骨折の症状固定時期

胸椎圧迫骨折の治療は、骨折した場所をコルセットで固定して様子をみる保存療法とボルトを入れてそれ以上骨がつぶれていかないように固定する手術をする方法とがあります。

コルセットで固定して様子をみる保存療法では、順調に骨が再生し、折れた骨がくっついていけば、けがをしてから約6か月くらいが症状固定の一つの目安となります。

他方で、手術をしたケースでは、6か月以上治療が必要となるケースもあります。

胸椎圧迫骨折では、むちうちの場合と異なり、骨折がおさまるまでは患部をできるだけ動かさないという治療になるため、毎日通院をするということはなく、定期的な通院になるのが一般的でしょう。

 

 

胸椎圧迫骨折と後遺症

交通事故で胸椎圧迫骨折のけがを負うと、どうしても後遺症のリスクがあります。

胸椎圧迫骨折の後遺症として考えられる主なものは、以下のとおりです。

①骨が元どおりにならない

胸椎圧迫骨折の場合、他の骨折と異なり、骨が上下につぶれてしまっているため、骨折する前の元どおりの骨の形には戻らない可能性が高いです。

②胸部、腰部の可動域の制限

胸椎や腰椎は、背中から腰の運動に関わっています。

そのため、圧迫骨折のけがをすると、背中や腰の可動域に支障が生じるリスクがあります。

③痛みの後遺症

骨折した胸椎周辺、つまり背中の痛みが治療を行っても治らずに残ってしまうというリスクもあります。

 

 

胸椎圧迫骨折の後遺障害について

交通事故で胸椎圧迫骨折による後遺症が残ってしまった場合には、自賠責保険の後遺障害の認定を受けることが必要になってきます。

この点、胸椎圧迫骨折に関して、自賠責保険では以下の後遺障害の基準が設けられています。

①変形障害

まず、変形障害の基準としては、以下の3つの等級が用意されています。

6級5号 「脊柱に著しい変形を残すもの」

6級5号は、X線写真(レントゲン)等で胸椎圧迫骨折が確認できる場合で、下記2つのいずれかに該当するものの場合に認められます。

  • (1)2個以上の椎体の前方椎体高の合計が、後方椎体高の合計よりも1個以上の椎体高分が減少し、後彎(脊椎の前方への折れ曲がり)があるもの
  • (2)1個以上の椎体の前方椎体高の合計が、後方椎体高の合計よりも50%以上低くなっており、かつ後彎があり、側彎(脊椎の横方向への折れ曲がり)がコブ法で50度以上あるもの

わかりやすくいえば、圧迫の程度が決められた測定法で測定したときに非常に大きいといえるものということです。

8級相当 「脊柱に中程度の変形を残すもの」

8級相当は、X線写真(レントゲン)等で胸椎圧迫骨折が確認できる場合で、下記のいずれかに該当する場合に認められます。

  • (1)側彎がコブ法で50度以上あるもの
  • (2)環椎または軸椎の変形・固定により次のA、B、Cのいずれかに当てはまるもの
    A 60度以上の回旋位となっているもの
    B 50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位になっているもの
    C 側屈位となっており、X線写真等により矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線の交わる角度が30度以上の斜位となっているものが確認できるもの

6級よりも変形の程度はひどくないものの、11級よりも重いものとして中間の等級が設定されています。

11級7号「脊柱に変形を残すもの」

6級や8級に至らない変形でも、変形障害が残っている以上は後遺障害として評価されます。それが11級7号です。

具体的には、11級7号は、下記3つのいずれかに該当するものの場合認められます。

  1. (1)圧迫骨折等を残しており、X線写真等で確認できるもの
  2. (2)脊椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものは除く)
  3. (3)3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けたものこの基準から先ほど紹介したボルトを入れて固定する手術をした場合には、少なくともこの11級7号が認定されるということになります。

この基準から先ほど紹介したボルトを入れて固定する手術をした場合には、少なくともこの11級7号が認定されるということになります。

 

②運動障害

次に、胸椎圧迫骨折による運動障害には、運動障害と荷重機能障害という2つの障害があります。

6級5号「脊柱に著しい運動障害を残すもの」

下記3つのうちいずれかに当てはまり、そのことが原因で脊柱部が強直したものをいいます。

強直とは簡単に説明すると、ほとんど動かすことができないことをいいます。

  1. (1)頚椎、胸腰椎それぞれに圧迫骨折等を残しており、X線写真等で確認できるもの
  2. (2)頚椎、胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
  3. (3)うなじ、背部、腰部の軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
8級2号「脊柱に運動障害を残すもの」

下記3つのうちいずれかに当てはまり、参考可能域の2分の1以下の可動域にとどまっている場合になります。

参考可動域とは、健康体の人がどのくらい動かすことができるのかというあらかじめ設定されている可動域のことです。

  1. (1)頚椎または胸腰椎に圧迫骨折等を残しており、X線写真等で確認できるもの
  2. (2)頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
  3. (3)うなじ、背部、腰部の軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

また、上記に該当しない場合でも、頚椎または胸腰椎のいずれかの可動域が参考可動域の1/2以下に制限されていないものの、頭蓋、上位頚椎間に著しい異常可動性が生じたものと評価できる場合には、8級の運動障害として評価されます。

 

荷重機能障害

運動障害の一つとして、荷重機能障害というものがあります。

背骨(脊柱)は体幹部を構成しているため、体を支える役割も果たしています。最近では、体幹トレーニングという言葉もよく耳にするようになりました。

こうした体幹の機能が交通事故による胸椎圧迫骨折で失われた場合には、後遺障害として評価されます。

具体的には、以下の2つが用意されています。

6級相当「脊柱に著しい荷重障害を残すもの」

頚部及び腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具が必要とする場合です。

8級相当「脊柱に荷重障害を残すもの」

頚部及び腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具が必要とする場合です。

この基準から明らかなとおり、常に硬性補装具という装具をつけておかなければならない状態になってしまった場合には、この後遺障害が認められます。

 

③痛みの後遺障害

胸椎圧迫骨折のけがにより、治療をしても痛みが残ってしまった場合に、交通事故の後遺障害としては、以下のものが考えられます。

12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
14級9号「局部に神経症状を残すもの」

参考:自賠責保険(共済)における後遺障害の等級と保険金額|一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構

 

 

交通事故による胸椎圧迫骨折の賠償のポイント

ここまで解説してきた胸椎圧迫骨折ですが、交通事故によって、このけがを負った場合には、以下の問題点が生じます。

①専門的な知識が必要となる

胸椎圧迫骨折は、手術を行うほどのものであれば、少なくとも11級7号の後遺障害が認定される可能性が高いといえますが、中には、骨折の程度がそれほど大きくないケースもあります。

この場合、自賠責保険は骨折がわずかであることを理由として、胸椎圧迫骨折による後遺障害を認定しないということもあります。

つまり、胸椎圧迫骨折という大きなけがを負ったのに後遺障害が認められないという可能性もあるのです。

被害者の方は、医師から胸椎圧迫骨折と診断されていて、後遺障害が認められると思っていても、いざ、実際に治療を終えて後遺障害の申請をしてみると、該当しない=非該当という可能性があるわけです。

したがって、交通事故による胸椎圧迫骨折で適切な後遺障害の認定を得る上では、専門家である弁護士にできるだけ早い段階でサポートをお願いした方がスムーズに行く可能性が高くなります。

 

②逸失利益の補償を巡って保険会社とトラブルになりやすい

仮に、後遺障害の等級が認められたとしても、胸椎圧迫骨折に関しては、その後の収入にどう影響するかという観点から逸失利益を否定されることが多いけがです。

背骨の変形という障害だけでは、特に日常生活や仕事への支障はないだろうというのが保険会社の主張の主な理由で、実際に裁判で争われているケースも多くあります。

このように胸椎圧迫骨折というけがは保険会社と賠償金を巡ってもトラブルになりやすいけがなのです。

ご自身の負ったけがを適切に補償してもらうため、保険会社とのトラブルを防ぐためには、専門家である弁護士のサポートを受けていくことが大切になってきます。

 

 

まとめ

ここまで以下の内容を解説してきました。

  • 胸椎圧迫骨折について
  • どのような交通事故で起こりやすいか
  • どのような症状が生じるか
  • 症状固定の時期はいつ頃か
  • どのような後遺症が残る可能性があるか
  • 胸椎圧迫骨折と後遺障害
  • 胸椎圧迫骨折の賠償の際のポイント

デイライトでは、交通事故案件を数多く取り扱う人身障害部の弁護士が、相談から事件処理の全てを行います。

初回無料のLINEや電話相談を活用した全国対応も行っていますので、胸椎圧迫骨折のけがでお困りの方は、お気軽にご相談ください。

あわせて読みたい
無料相談の流れ

 

 

後遺障害


なぜ後遺障害を弁護士に依頼すべきか

続きを読む

 
賠償金の計算方法

なぜ交通事故は弁護士選びが重要なのか

続きを読む