交通事故における定期金賠償とは?【弁護士が解説】
定期金賠償とは、将来にわたって、一定の頻度で賠償金を受け取ることをいいます。
交通事故により重度の後遺障害が残った場合に定期金賠償が認められるかどうかについて、令和2年7月9日、最高裁が後遺障害逸失利益での定期金賠償を認めました。
今後は、被害者の年齢や後遺障害の内容を踏まえて、定期金賠償を求めるかどうかについて、検討していくことが重要となります。
この記事では定期金賠償の特徴や、定期金賠償のメリットやデメリットなどについて交通事故に注力する弁護士が解説いたします。
定期金賠償とは
交通事故にあった被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。
定期金賠償とは、将来にわたって、一定の頻度で賠償金を受け取ることをいいます。
通常は、月に1回という形をとります。
定期金賠償については、民事訴訟法117条に規定があります。
口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。
ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
これは、定期金賠償が認められる場合があることを当然の前提としています。
そこで、どのような場合に定期金賠償が認められるかという点が問題となります。
交通事故の賠償の原則
交通事故の損害賠償請求の法的根拠は民法の不法行為あるいは自賠法に基づく損害賠償請求権です。
こうした損害賠償請求の支払方法について、民法をはじめとした実体法には実は明文の規定がありません。
この点、損害賠償請求は、1回の交通事故により生じた損害の補償を求めることになるため、請求した時点で賠償金を受け取る一括受取りが原則です。
つまり、示談が成立したり、判決が確定したりした時点で、損害額全ての賠償を受けるということになります。
これを一時金賠償といいます。
したがって、交通事故による賠償金の受取りは一時金によることが実務上定着しています。
賠償の原則は一時金賠償となっていますが、例外もあります。
それが先ほど説明した、定期金賠償です。
一時金賠償のデメリット
もっとも、一時金賠償の場合、本来であれば将来的に現実化する損害についても前もってお金を受け取るという形になるため、その点を考慮しなければなりません。
この考え方を「中間利息の控除」といいます。
つまり、今の1万円と将来受け取る1万円は、同じ1万円でも価値が違うのです。
この中間利息を控除する方法として、実務では、「ライプニッツ係数」というものを用いています。
2020年3月までに発生した交通事故では民法の法定利率である年5%の利息控除となっていました。
たとえば、30年間のライプニッツ係数は15.3725です。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益の計算方法は、一時金賠償の場合、以下の計算式で算出されます。
後遺障害逸失利益の計算方法
基礎年収 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数
年収500万円で100%の喪失率が30年間継続するというケースを想定すると以下のようになります。
具体例 年収500万円、労働能力喪失率100%、労働能力喪失期間30年の場合
500万円 × 100% × 15.3725 = 7686万2500円
※2020年3月までに発生した交通事故の場合、30年間のライプニッツ係数は15.3725
ここで「500万円 × 100% × 30年」とならないのがポイントです。
定期金賠償はどのような場合に認められるか
将来介護費
これまでは主に将来介護費を請求するケースで定期金賠償が認められることがありました。
将来介護費とは、高次脳機能障害といった重度の後遺障害が残った場合に、被害者が死亡するまでに必要な介護に要する費用のことです。
高次脳機能障害について、詳しくはこちらをご覧ください。
こうした将来的に長く続く補償について、一時金賠償によると、先ほどの中間利息の控除を大きく受けてしまったり、その都度必要な介護の実態に沿わない解決になったりするリスクがあります。
そこで、将来介護費については、定期金賠償を選択することを検討する必要があります。
入院中の費用を請求できるかについて、以下をご覧ください。
後遺障害逸失利益
将来介護費以外にも定期金賠償が選択できないかどうか、具体的には後遺障害逸失利益について、定期金賠償が認められないかがこの度裁判で争われ、初めて最高裁で判断がなされました(最高裁令和2年7月9日)。
この裁判では、高次脳機能障害により自賠責保険で3級の後遺障害が認められた、事故当時4歳のお子さんの事例です。
最高裁は次のように判示し、後遺障害逸失利益についても将来介護費用と同様に定期金賠償の対象になりうると判断しました。
判例 後遺障害逸失利益についても将来介護費用と同様に定期金賠償の対象になりうると判断した裁判例
交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。
【最高裁令和2年7月9日】
最高裁のいう目的とは、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させること、理念とは損害の公平な分担です。
さらに進んで、具体的にどのような場合に定期金賠償が認められるかについて、今回の最高裁では言及されていませんが、最高裁は今回の事例で被害者の年齢と後遺障害の内容について言及しているため、未成年者で、後遺障害の等級が高いもの(3級以上)については、定期金賠償が認められやすいのではと考えられます。
他方で、むちうちや骨折の痛みによる神経症状の後遺障害(14級)については、定期金賠償を認めるほど長期の賠償になることは考えにくいので、引き続き一時金賠償で対応することになるでしょう。
定期金賠償のメリットとデメリット
定期金賠償には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
一時金賠償の場合と異なり、中間利息の控除がされないという点が挙げられます。
そのときの状況によって事情変更があれば、定期金の額を増額することもできるため、より被害者の実態に沿った賠償が可能になります。
定期金賠償は何十年もの年月にわたる可能性があります。
そうすると、保険会社が万が一倒産すると、被害者は賠償金を受け取ることができなくなってしまいます。
将来的に平均賃金が低下してしまうと、定期金の額は減少するリスクもありますし、就労できないとして逸失利益が認められていた場合に将来的に回復して就労した場合も定期金の額が減少する可能性があります。
途中で被害者が死亡してしまった場合
なお、後遺障害逸失利益を定期金賠償で請求した場合に、途中で被害者が死亡してしまった場合にはどうなるのでしょうか?
この点、最高裁は、「後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずる場合においても、その後就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したからといって、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期が被害者の死亡時となるべきものではないと解するべきである」と言及しています。
つまり、一時金賠償と同じく、交通事故の時点で余命宣告を受けていたなど死因となる疾患がすでに存在し、近い将来死亡することが予測されない限り、定期金賠償にも影響はないと明言しました。
まとめ
このように交通事故による後遺症が残った場合に定期金賠償を選択するということが今回の最高裁の判例により可能性が出てきました。
したがって、特に高次脳機能障害といった重度の後遺障害が残る場合には交通事故の専門家である弁護士としっかり相談した上で、選択しなければなりません。