自営業者の休業損害は認められるか?【弁護士が解説】
休業損害は、交通事故による収入減少を補填するものです。
そのため、自営業の方でも、収入減少が認められれば、休業損害の請求をすることが可能です。
自営業者の休業損害
休業損害は、交通事故によって、働くことができなくなったり、就労が制限されることによって、収入が減少した場合に、その減少分を補填するものです。
サラリーマンの場合、交通事故により会社を欠勤して、その分の給料を減らされたとなれば、その減額分が休業損害となり、相手方や保険会社に請求することになります。
しかし、自営業者の場合、繁忙期や閑散期といった季節的な事情や、事業の性質などによって、減収が必ずしも明確でない場合があります。
こうした場合には、仕事への支障を具体的に主張するとともに、確定申告等の資料を基に減収していることを主張立証していく必要があります。
自営業者については、休業損害の他にも逸失利益も問題になることが多いです。
逸失利益については、詳しくはこちらをご確認ください。
休業損害の算定
休業損害は、1日当たりの基礎収入に休業日数を乗じることで計算します。
休業損害額の計算式
休業損害額 = 1日あたりの基礎収入 × 休業日数
つまり、1日当たりの基礎収入が1万円で、休業日数が5日の場合には、1万円 × 5日 = 5万円が休業損害となります。
自営業者の基礎収入は、確定申告書の所得金額により計算されます。
所得金額は、前年度の確定申告書類に記載している売上から必要経費を差し引いた金額です。
売上額がベースになるとお考えの方もいらっしゃいますが、事業を行う上で経費がかかるのは当然で、その部分は生活のために自由に利用することができませんので、休業損害を算出する際には基準にできないのが実情です。
もっとも、経費の中でも、固定費については、売上額から控除せずに休業損害を計算します。
固定費とは、交通事故による休業の間も事業を維持するために必要となる支出のことです。
固定費として、過去の裁判例で認められたものは、家賃、従業員の給与、減価償却費、電気、ガス、水道などの公共料金、公租公課などです。
例えば、テナントの家賃については、事業を休んでいる間、賃借物件を明け渡して、再開するときに改めて敷金などを支払って契約し直すわけにはいかないため、固定費と位置づけられています。
原材料費や仕入原価、販売手数料などは流動経費となるため、所得金額に加えることはできません。
したがって、1日当たりの基礎収入の算定式は、以下のようになります。
基礎収入の計算式
1日当たりの基礎収入 =(所得金額 + 固定費)÷ 365日
確定申告の所得を超える金額を基礎収入にできるか
上記したとおり、自営業の休業損害の算定にあたっては、確定申告書の記載を前提に計算することになります。
確定申告記載の所得は、節税している結果であるとして、確定申告書に記載のある所得金額を超えた金額を請求したいという相談があります。
しかし、確定申告は、当然のことながら真実の所得を申告することを前提に行うものなので、それと異なる主張を認定してもらうことは容易ではありません。
確定申告書の記載以上の収入があることを客観的な資料により証明できるような場合には、その実収入額を基礎として請求することも考えられますが、裁判所も厳しい目で判断する傾向にあります。
確定申告をしておらず、所得額が不明な場合
確定申告を全くしていない場合には、売上表や金銭出納帳、銀行口座の通帳の履歴のような書類を基に、収入があったことを証明しなければなりません。
資料により証明できなければ、賃金センサスを基準に休業損害を算出する裁判例もあります(千葉地判H6.5.26)が、収入があったことについては明確に証明しなければなりません。
実務上は確定申告書といった公的書類がないと休業損害の証明が困難になるケースが多く、裁判所からも厳しい判断をされる可能性があります。
事業が赤字であった場合
休業損害は、交通事故により減収したことに対する賠償です。
赤字の場合、そもそも所得がマイナスなので、マイナスに休業日数を乗じてもマイナスとなり、休業損害は算出できないと思われます。
そこで、事故前年の確定申告所得額が赤字であった場合、休業損害をどのように算定するか問題になります。
事業が赤字の場合の休業損害の計算方法としては、以下の方法が考えられます。
自営業者は交通事故で休業したとしても、固定費の支払いを免れることはできません。
ですので、固定費の補償を請求するという余地が出てきます。
固定経費は、事故前年の確定申告書添付資料である収支内訳書で調べます。
そして、実際の支出を裏付ける資料を提出することで、固定費の請求を保険会社へ行います。
交通事故により、休業した結果、赤字が大きくなったことを損害と捉えて、赤字の増大部分を休業損害として請求する方法が考えられます。
この方法の場合、実態に即した損害を請求することができます。
もっとも、相手方からは、交通事故以外の事情により赤字が増大しているのではないかといった反論が考えられます。
したがって、交通事故により赤字が増大したことを明確に主張立証しなければなりません。