交通事故により退職。休業損害は請求できる?【弁護士が解説】
交通事故が原因で退職した場合、加害者に対して、働けなくなったことによる損害(休業損害)を請求できる場合があります。
休業損害が認められるのは、交通事故がなければ退職せずに仕事を続けて収入を得ていたであろうという関係が認められる場合です。
交通事故で退職せざるを得なくなったとき、休業損害が認められるかどうかは重大な影響を及ぼします。
ここでは、交通事故に注力する弁護士が休業損害が認められる条件や注意点について解説していきます。
交通事故で退職せざるを得ない状況の方はぜひ参考になさってください。
休業損害とは
交通事故によりけがをすると、けがの治療のために仕事を休まざるをえないことがあります。
典型的な場合としては、入院です。
このとき、会社員の方であれば、仕事を休んでいる以上、有給休暇を使用しなければ給与を受け取ることはできません。
有給休暇を使用したとしても、日数に限りがあるものを事故で使用することを余儀なくされてしまいます。
このときの減収や有給休暇の補償を休業損害といいます。
休業損害は、会社員だけでなく自営業や主婦の場合でも認められる可能性があります。
退職と休業損害
交通事故が業務災害であれば別ですが、プライベートでの事故や通勤災害の場合、会社としては、けがの治療により働けない期間が長くなってしまうと貴重な労働力を活かすことができないわけですので、従業員に対して、早く仕事復帰するように促したり、時には復帰ができないなら退職するように求めたりということも出てきます。
交通事故にあった被害者としては、会社に迷惑をかけているという気持ちもあり、復職にプレッシャーを感じるケースもあるでしょう。
それでは、こうしたケースで、実際に交通事故が原因で退職した場合、休業損害はどうなるのでしょうか?
退職の必要性が客観的には明らかになれば休業損害を請求することは可能
先ほど解説した休業損害の定義からすれば、交通事故が原因で仕事ができず、給料が受け取れないという関係が認められれば、補償の対象となります。
したがって、交通事故がなければ、退職せずに仕事を続けて収入を得ていたであろうという関係が認められれば、休業損害を請求することは可能です。
しかしながら、この因果関係は第三者が客観的に認識できるだけのものでなければなりません。
具体的には、事故にあった → 体がきつい → 会社を自分から辞める という場合、被害者の主観としては、交通事故が原因で退職したという形ですが、これでは保険会社に補償をしてもらうには不十分です。
なぜなら、主観だけでは、退職の必要性が客観的には明らかではないからです。
このように、交通事故が原因で退職したとして休業損害を請求するためには、
- けがの内容や程度
(長期間の入院が必要かどうか) - 退職までの休業状況
(退職まで実際にどのくらい休んでいたか) - 仕事内容
- 医師の意見
(職場復帰はできないとの意見がでているかどうか) - 退職に至る経緯
(会社からのアプローチ) - 退職理由
(自己都合退職か会社都合退職か)
といった事情を考慮して、交通事故がなければ、退職せずに仕事を続けて収入を得ていたであろうという関係をきちんと証明していくことが必要です。
退職をめぐる裁判例
このように、交通事故後に退職した場合の休業損害については、そもそも補償が認められるかが争いになることが多いだけでなく、補償の期間、補償額が問題となってきます。
この点について、以下2つの裁判例にて、休業損害が認められております。
判例 ① 東京地判 平成17年12月21日
コンピュータシステム監視業務に従事していた男性が事故から2か月後に退職した事案につき、退職の理由が交通事故による受傷のためであると判断。
この男性は、7歯の歯牙補綴が必要となり、11級の後遺障害が認定されています。
前歯の治療のため、事故から400日間にわたって休業損害が認められました。
判例 ② 大阪高判 平成20年11月5日
派遣社員の男性が交通事故による休業で契約期間を満了したため、離職したという事案です。
過去に別の派遣先で4年間勤務していたことも踏まえると、事故がなければ契約更新されていた可能性が高いとして、契約期間満了後も一定期間、休業損害を認められました。
どちらの事案も後遺障害が認定されている事案ですので、後遺障害が認められるほどのけがであったかどうかという点も考慮されていることがわかります。
また、補償の期間については、治療の期間や実際に再就職までに要した期間、一般的に再就職までに必要となるであろう期間を考慮して決定されます。
退職による休業損害を請求する場合のポイント
交通事故にあった被害者としても、それまで勤めていた会社を簡単にやめたいとは考えてはいませんが、会社への思いが強いと、「会社にこれ以上迷惑をかけることはできない」と自ら退職の選択をすることもあります。
しかしながら、これまで説明してきたように、交通事故での退職にあたっては、以後の休業損害の補償のことも十分に考えておく必要があります。
医師の意見を確認する
まずは、自分のけがの状況をきちんと医師に伝え、担当している仕事を続けることができるかどうか、医師の意見を確認しましょう。
医師が業務に支障はないと判断しているのに、退職した場合には、休業損害を受け取ることはできなくなってしまう可能性があります。
休職制度を利用する
退職はできる限り回避するに越したことはありません。
したがって、会社に休職制度がある場合には、この制度を利用して休職することを検討しましょう。
そうすることで、休職期間中に治療にしっかり専念することもできますし、この制度を利用しても復帰できなかった場合には、退職後の休業損害を請求するに当たってもプラスの事情として評価されることになってきます。
会社都合による退職で処理してもらう
同じ退職でも、自己都合ではなく会社都合の場合には、退職がやむを得ないものであったという評価につながります。
したがって、会社から退職勧奨を受けての退職の場合などは、会社都合での退職処理をお願いし、離職票を交付してもらうことで保険会社への証明資料にもなります。
専門家のサポートを受ける
保険会社としては、退職と交通事故の関係が明確でなければ、休業損害を積極的に支払うことはないでしょう。
そこで、適切な補償を受けるためには、専門家である弁護士に依頼して、どのような資料が必要であるか、どのような事実を伝えるのかを判断してもらい、弁護士に代わりに交渉してもらうことも必要になってきます。