無職の場合、休業損害は請求できる?【弁護士が解説】
無職者の方の場合には、原則として休業損害は認められません。
しかし、就業の予定が実際にあった場合や就業の蓋然性がある場合、休業損害が認められることもあります。
無職だと休業損害が認められない理由
休業損害とは、交通事故による傷害のため休業又は不十分な就労を余儀なくされ、収入が減収した場合、その減収額を損害とするものです。
無職の方は、就労をしていないので労働の対価である収入を得ていません。
したがって、交通事故を原因として、休業によって収入がなくなる、収入が減少するということが観念できないので、原則として休業損害は認められないのです。
休業損害について詳しくが以下ページをご覧ください。
無職でも休業損害が認められる場合
もっとも、無職の方の場合でも、例外的に、労働能力及び労働意欲があるときや就労の蓋然性があるとき、休業損害が認められることがあります。
具体的な裁判例は以下のとおりです。
- 事故直前に就職先が内定していた(大阪地判H17・10・12)
- 前職を定年で退職後、事故前に別会社と雇用契約を結んでいた(名古屋地判H23・5・20)
- 職業訓練を受け、障害者雇用枠で就職予定であった(東京地判H23・2・3)
- 事故前に就職を申し込んでいた会社から事故後採用通知を受けた(名古屋地判H21・2・27)
- 大工として稼働する意思とその職務能力から稼働先が見つかる可能性がある(札幌地判H13・11・29)
- 離職して積極的に就職先をさがしていた(大阪地判H17・9・8)
- 事故直前まで再就職に向けてハローワークに通い面接に参加していた(さいたま地判H25・12・10)
休業損害の計算方法
休業損害は、1日あたりの基礎収入に休業日数を乗じることで算出します。
休業損害額 = 1日あたりの基礎収入 × 休業日数
無職者の場合には、収入がないため、1日あたりの基礎収入をどのように設定するかが問題となります。
裁判例では、以下の金額を参考に計算されています。
- 就職したときに得られる見込み給与の金額
- 平均賃金(賃金センサス)の金額
- 前職の収入の金額
裁判例では上記の金額を参考にされていますが、それぞれの金額が100%認められているわけではなく、一定の割合のみを認めるなど制限的に認定する傾向があります。
判例 金額を一定の割合で制限的に認定した例
- 24歳女性につき、会社から支給される予定だった月額21万円を基礎に症状固定まで7か月分を、就労により得た7万円を控除して認めた(名古屋地判H23・5・20)
- スタイリストの女性の休業損害を賃金センサス女性全年齢の8割で算定した(東京地判H7・7・18)
- 45歳男性につき、事故前年の給与を基礎に、症状固定までの232日からの職を得られるまでの相当期間90日を控除した142日分休業損害とした(大阪地判H17・9・8)
休業損害を認めてもらうための証明資料
上記のとおり、事故当時、無職であった場合に、休業損害を認めてもらうには、①就労の意思、②就労の能力、③就労の蓋然性があることを主張立証しなければなりません。
就労の意思を示す資料
就労の意思を示すための資料としては、就職活動をしていたことがわかる資料が考えられます。
例えば、求人募集している会社に送付した履歴書や職務経歴書、エントリーしている会社から届いた書面、就職活動をしていることを具体的に説明した被害者の陳述書などが考えられます。
就労の能力
就労の能力は、基本的に健康であればクリアできると考えられます。
特別な資格を保有している場合には、資格を保有していることを証する書面を提出すべきでしょう。
また、過去に就労の実績がある場合には、就労していた事実が分かる資料(雇用契約書、労働条件通知書など)や、その当時の収入金額が分かる資料(所得証明書、源泉徴収表、給与明細、給与が振り込まれていた通帳など)を提出することも考えられます。
就労の蓋然性
就労の蓋然性は、①と②の事情も踏まえて判断されることになります。
事故当時、内定を受けていたい場合には内定通知書が証明資料となりえます。また、雇用契約締結に向けて会社と話が進んでいるような場合には、会社との間でやりとりがなされた書面があれば証明資料となりえるでしょう。
無職の方が、休業損害を請求する場合には、上記のような資料を収集して、説得的に就労の蓋然性があったことを主張立証する必要があります。
主婦・主夫の休業損害
主婦・主夫については、金銭の対価を得る職には就いていませんが、家事労働は金銭的評価が可能であると考えられており、休業損害が認められています。