傷害保険金や労災給付金は損益相殺されますか?【弁護士が解説】
交通事故による怪我で支払いを受けた傷害保険の保険金や労災の給付金は、事故の損害賠償額から差し引かれますか?
傷害保険の保険金は、事故の損害賠償額から控除されません。
労災からの給付金については、控除されるものとされないものがあります。
損益相殺とは
損益相殺(そんえきそうさい)とは、交通事故を原因として何らかの利益を得た場合に、その得た利益が交通事故の損害の補填を目的とするものであることが明らかである場合に、その得た利益分を損害額から差し引くことです。
したがって、交通事故が原因で、既に保険金などを受け取っていた場合、その部分は損害賠償金から控除される可能性があります。
交通事故専門の弁護士が、損害賠償金から差し引かれる受取金と差し引かれない受取金の具体例を紹介します。
損益相殺の対象となるもの
損益相殺の対象となる具体例としては、以下のようなものがあります。
任意保険会社から賠償金を受領するのに先立ち、被害者が自ら自賠責保険に被害者請求している場合には、自賠責保険から受領した金額分は損益相殺されることになります。
政府保障事業とは、加害者が自賠責保険に加入していなかった場合や、ひき逃げ事故で加害者が分からないような場合に被害者を救済するための制度です。
補償される損害の範囲や限度額は自賠責保険と同じです。
例えば、健康保険により支給される傷病手当金は、損益相殺の対象となります。
傷病手当金について、詳しくはこちらをご覧ください。
労災保険を使用して、治療費、休業損害、障害年金などを受領した場合には、損益相殺の対象となります。
遺族年金について、最高裁判所は、支給が確定した遺族年金の限度額で、加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものである(最判H5.3.24)と判断しました。
人身傷害保険は、被害者自身が加入している保険です。
自動車の運行に起因する事故により死傷した場合に、あらかじめ保険会社が定めている保険金額が自分の加入している保険会社によって支払われる保険です。
交通事故賠償実務では、よく利用される保険です。
損益相殺の対象とならないもの
支払った保険料の対価として給付されるため損益相殺の対象となりません(京都地判S56.3.18)。
搭乗者傷害保険について最高裁判所は、「保険会社が被保険者に保険金を支払った場合でも、第三者(加害者)へ損害賠償請求権を代位取得する定めがなく、被保険者が被った損害を填補する性質のものではない」として損益相殺を認めていません(最判H7.1.30)。
生命保険の給付金は支払った保険料の対価であり、交通事故とは関係なく支払われるものであることから、損益相殺の対象となりません(最判S39.9.25)。
労災保険上の特別支給金は、第三者(加害者)へ損害賠償請求権を代位取得する定めがなく、損益相殺の対象となりません。
損益相殺の対象とならない特別支給金は以下のようなものがあります。
①休業特別支給金
②障害特別支給金
③障害特別年金
④傷病特別年金
⑤遺族特別年金
⑥遺族特別一時金
⑦遺族特別支給金
⑧就学等援護費
⑨福祉施設給付金
⑩労災援護給付金
失業者の生活の安定を目的とする社会保険制度であり、損害の補てんを目的としていないため損益相殺の対象となりません(東京地判S47.8.28)。
最高裁判決(S45.7.24)によって「損害額の算定時、税金額を差し引かない」とされました。
所得税法9条1項17号は、逸失利益、休業損害を非課税としています。
交通事故の賠償金と課税については、こちらをご覧ください。
判例
岡山地判平成9年11月25日
企業の業務災害特別支給規定に基づき事故の被害者に支給した1万円の見舞金、50万円の傷害見舞金は損益相殺されていません。
大阪地判平成5年2月22日
但し、30万円の香典について損益相殺を認めた裁判例があります。