交通事故の「著しい過失」と「重過失」の違いは?【弁護士解説】
「著しい過失」と「重過失」はともに過失割合を修正する要素とされています。
交通事故においては、事故類型に応じて基本的な過失割合が設定されていますが、そこで想定されている事情を超えて、事故に対する責任があると考えられる場合に過失割合は修正されます。
そのために設けられているのが、「著しい過失」と「重過失」というものです。
ここでは、交通事故に注力する弁護士が具体的なケースを想定しながら、「著しい過失」と「重過失」の違いについて解説していきます。
ぜひ参考になさってください。
「著しい過失」とは
交通事故が発生している以上、事故当事者には何らかの落ち度があったと考えられます。
こうした通常考えられる過失については、基本の過失割合を決めるにあたってすでに考慮されています。
そのため、事故態様ごとに通常想定されている程度を超える過失を著しい過失といいます。
具体的にどのようなものが著しい過失とされるかについてですが、一般的には以下のものが考えられます。
- 脇見運転等の著しい前方不注意
- ハンドル・ブレーキの操作が著しく不適切であった
- 携帯電話の使用、画面を見ながらの運転
- ナビの操作、画面を見ながらの運転
- 15キロ以上 30キロ未満の速度違反(一般道)
- 酒気帯び運転
このうち、ハンドル・ブレーキ操作が著しく不適切であったという点は、具体的な評価が伴うため、個別の事故ごとに検討をせざるを得ません。
また、携帯電話やナビを使用しながらの運転についても、「使用していた」、「使用していない」とそもそもの事実認定が争いとなることもあります。
普及が進んでいるドライブレコーダーは、こうした事実認定に重要な証拠となってきますので、事故が起こった場合には、きちんと保存しておくことが必要です。
バイクの交通事故の場合
バイクの交通事故の場合、以下の事情が著しい過失として想定されています。
- ヘルメットを装着していない(一般道)
バイクに乗るにあたって、ヘルメットの装着は基本的な義務ですので、これを怠っている場合には著しい過失として取り扱われます。
自転車の交通事故の場合
近年増えている自転車での交通事故の場合には、以下のものが著しい過失となると考えられています。
- 二人乗り
- 無灯火での運転
- 傘さし運転
いずれも危険な運転で、事故の危険が高いですので、こうした事情があれば、自転車に著しい過失が認められることになります。
「重過失」とは
重過失とは、著しい過失よりも大きな過失です。
すなわち、故意と同視し得る程度の過失をいいます。
故意と同視し得る程度の過失ですので、通常の交通事故ではなかなか適用されるケースは多くないといえます。
具体的には、以下の事情が重過失に当たると考えられています。
- 酒酔い運転
- 居眠り運転
- 無免許運転
- 30キロ以上の速度違反(一般道)
- 薬物を使用しての運転
いずれも非常に危険な運転です。
酒酔い運転については、単純な飲酒運転を超えて酒に酔った状態で車両を運転することをいいます。
したがって、危険運転致死傷罪の適用が問題になる程度と考えられます。
また、バイク事故の場合には、以下のものが重過失に挙げられています。
- ヘルメットを装着していない(高速道路)
一般道に比べ、高速道路は走行速度も速くなるため、ヘルメットを装着していないというのが一般道以上に危険といえるため、重過失と設定されています。
著しい過失、重過失がある場合の過失割合
これまで説明した著しい過失や重過失が認められる交通事故の場合、事故態様に応じて設定されている基本の過失割合から修正をしていくことになります。
具体的な修正割合ですが、著しい過失の場合は10%、重過失の場合は20%の修正が原則となっています。
例えば、車同士の車線変更の交通事故の過失割合は、基本的に30:70ですが、車線変更をした自動車に著しい過失がある場合には、10%修正され、20:80に、重過失の場合には、20%修正され、10:90になることになります。
著しい過失、重過失のポイント
このように、著しい過失、重過失という事情は、過失割合に影響を及ぼす重要な要素になります。
そのため、著しい過失、重過失が問題になるケースでは、以下のポイントを押さえておくことが必要です。
具体的な修正の要件を押さえる
交通事故の過失割合は、個別具体的に決定するというのが大原則ではありますが、他方で、事故の類型に応じて一定の目安があるというのも事実です。
したがって、こうした目安を無視するわけにはいきません。
交通事故にあった場合には、自分の事故の状況に近い類型の過失割合がどうなっているかをチェックし、その上で具体的な修正要素として何が挙げられているかを押さえることが保険会社との示談交渉に当たっては重要になってきます。
具体的な事故で、どういった事実が著しい過失になりうるのか、重過失になりうるのかを把握するということです。
著しい過失、重過失は法的な評価を伴うもので、一般の方には理解が難しい点があるのは事実です。
そのために、専門家である弁護士に相談して、自分の事故に対する過失割合の見通しを聞いてみるということも方法の一つです。
修正要素に沿う事実を具体的に主張する
上記の修正要素を押さえた上で、事実を具体的に主張しなければなりません。
ただ単に、「過失割合に納得がいかない」と言っているだけでは、示談交渉は進みません。
保険会社が修正を受け入れざるを得ないと考えてもらえるようにするために何を伝えるべきかを実際に話す前に自分の中で整理してから、やり取りをするように心がけることもポイントです。
また、スピード違反があった、なかったのような水かけ論になってしまうと、示談交渉は難航してしまいます。
事実を認めてもらうためには、証拠も必要になってきます。
ドライブレコーダーや防犯ビデオの映像、警察が作成する実況見分調書といった証拠の収集も過失割合が問題になるケースでは、示談交渉と並行して進めていかなければなりません。