もらい事故とは?慰謝料・修理代の請求の流れや注意点を解説
もらい事故とは、自分は過失がゼロなのに被害に遭ってしまった事故のことです。
もらい事故となるものには、相手方の赤信号無視、追突、センターラインオーバーなどがあります。
もらい事故の場合、被害者は過失相殺を受けることなく、損害額全額の賠償を加害者に請求することができます。
また、加害者側が事故で損害を受けていたとしても、被害者側が損害賠償をする必要はありません。
ただ、もらい事故では任意保険会社の示談代行サービスを使えないなど、注意すべき点もあります。
今回は、もらい事故について解説し、もらい事故に遭った場合にするべきこと、加害者に請求できる損害賠償の内容、計算方法、被害者が利用できる保険、もらい事故の場合の注意点などについてご紹介します。
目次
もらい事故とは?
もらい事故とは、被害者に全く過失がない交通事故のことをいいます。
もらい事故となる事故類型には、次のようなものがあります。
- 赤信号で停車中に追突された事故
- 青信号で進行していたら、赤信号を無視して走行してきた車にぶつかられた事故
- 対向車がセンターラインオーバーをしたため衝突した事故
もらい事故となるケースについては、以下のページでも解説しています。
被害者に全く過失がない場合、加害者にどのような損害が生じていたとしても、被害者が賠償する義務は全くありません。
一方、もらい事故の被害者が被った損害については、過失相殺を受けることなく、加害者に全額賠償させることができます。
過失相殺については、以下のページをご覧ください。
もらい事故に遭ったらどうすればいい?
もらい事故に遭った場合、まずは次のように対応します。
車両の停止・安全確保・救護
交通事故が発生した場合、まずは車両を安全なところに停止させ、必要に応じて発煙筒、三角停止板などを用いて周囲の安全を確保します。
負傷者がいる場合は、救護措置をとり、救急車を呼ぶなどします。
警察への通報
現場の安全を確保でき、救護措置をとったら、警察に事故が発生したことを通報します。
加害者の連絡先、任意保険会社の確認
事故が起きた場合、加害者に、連絡先と加入している任意保険会社について聞いておきましょう。
特に任意保険会社については、加害者から聞いていないと、後日保険会社から連絡がこない場合に、弁護士に依頼して弁護士会照会をする必要があるなど面倒なことになります。
加害者が加入している任意保険会社については、なるべく事故直後に聞いておくようにしましょう。
証拠の確保
事故に関する証拠を確保することも重要です。
証拠確保の方法としては、次のようなことが考えられます。
- 現場の状況やお互いの車の破損状況が分かる写真の撮影
- 目撃者の氏名、住所、連絡先(LINEなどでも可)を聞いておく(可能であれば)
- ドライブレコーダーがついている場合は、画像を確認、保存する
- 現場周辺の監視カメラを確認し、警察に伝えて画像を確保してもらう
警察への対応
現場に警察官が到着したら、実況見分などが行われ、事故の状況などについて説明を求められます。
この時に、相手方や警察官の言うことに流され、「もしかしたら相手の言うとおりだったかも・・・」などと言ってしまうと、相手の言い分をベースに操作が進められてしまうおそれがあります。
そうなると、本来はもらい事故であったにもかかわらず、被害者にも過失があった、ということにされかねません。
警察官に事故について話をする際には、必ず、自分の主張をはっきりと伝えましょう。
ショックを受けているなどして記憶があいまいであったり、上手く話せないという場合には、「すぐには上手く説明できないので、後日改めて説明する」などと言うようにし、警察官や相手方の言うことに流されないようにしましょう。
自分が加入している任意保険会社に連絡
事故現場での対応が終わったら、自分が加入している任意保険会社に、事故が起きたことを連絡しておきましょう。
もらい事故の場合、被害者は賠償金を支払う義務はないので、任意保険会社から相手方に賠償金を支払ってもらうことはありませんし、後にご説明するとおり、示談代行サービスも利用できません。
しかし、任意保険で人身傷害保険、車両保険、弁護士費用特約などに加入していれば、これらの保険を使う可能性があります。
また、示談交渉をしている間に相手方からの主張でこちらにも過失があったこととされ、任意保険を使って損害賠償を支払うことになる可能性もあります。
そのようにして任意保険を使う必要が生じた場合のため、もらい事故であっても、自分が加入している保険会社に連絡はしておくようにしましょう。
病院を受診し、検査を受ける
交通事故に遭った場合は、ケガはない又は軽いと思える場合も、念のため病院を受診し、一通りの検査を受けるようにしましょう。
事故後早い時期に診察・検査を受けていないと、しばらく経ってからケガが見つかっても、「事故後に別の原因で生じたケガかもしれない」と疑われ、示談交渉が難航したり、適切な損害賠償を受けられなくなったりするおそれがあります。
もらい事故で相手に請求できる内容とは?
もらい事故に遭った場合に加害者に請求できる損害賠償の内容(費目)には、以下のようなものがあります。
慰謝料
慰謝料は、交通事故によってケガをした、後遺障害を負った、死亡したといった場合に、それにより生じた精神的苦痛を償うために支払われる金銭です。
慰謝料には、死亡慰謝料、後遺障害慰謝料、入通院慰謝料(傷害慰謝料)があります。
なお、物損のみの事故の場合には、原則的には慰謝料は発生しません。
逸失利益
逸失利益とは、交通事故による後遺障害の発生や死亡がなければ得られていたはずの収入のことです。
逸失利益には、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益があります。
逸失利益については、以下のページで詳しく解説しています。
休業損害
休業損害は、交通事故によるケガの治療、療養のために仕事を休んだ場合に、それにより得られなくなった収入のことをいいます。
休業損害は、有給休暇を利用した場合にも発生します。
治療費等の積極損害
交通事故により支出することが必要になった費用のことを、積極損害といいます。
積極損害には、主に次のようなものがあります。
- 治療費
- 入院雑費
- 付添費用
- 通院交通費
- 装具代
- 葬祭費
- 弁護士費用
車両の損害(修理代等)
事故により壊れた車両の修理費用(経済的全損の場合は買替差額・買替諸費用)などを、損害賠償として請求することができます。
もらい事故でいくら請求できる?
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ここからは、もらい事故で請求できる損害賠償額の計算方法について簡単に解説していきます。
ただ、損害賠償額を計算する際には、
- 実務で広く用いられている算定基準(自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準)について調べる
- 被害者の職業や社会的立場によって異なる逸失利益、休業損害の算定方法を調べる
- 労働能力喪失率、ライプニッツ係数などについて確認する
といった様々な手間がかかります。
そこで、当事務所では、どなたでも無料で簡単に損害賠償額の目安をご覧いただくことができる交通事故賠償金計算シミュレーターをご用意しました。
このシミュレーターでは、事故前の年収、年齢、職業等、入通院日数、後遺障害等級などを入力するだけで、簡単に損害賠償額(逸失利益、休業損害、慰謝料に限る)を計算し、損害賠償の目安額をその場ですぐ確認することができます。
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もらい事故の慰謝料の計算方法
慰謝料は、被害結果、被害者の家族内での立場、後遺障害等級、入通院日数などに応じた算定基準がありますので、それに従って算定します。
具体的には、被害者に最も有利な弁護士基準によると、
死亡慰謝料は、2000万円 ~ 2800万円程度
後遺障害慰謝料は、110万円 ~ 2800万円程度
入通院慰謝料は、
- むちうちで2か月通院した場合36万円
- 骨折で1か月入院し、2か月通院した場合98万円
などとなっています。
もらい事故の場合は、過失相殺によって損害賠償額が減らされることがありませんので、上記の金額全額を請求することができます。
もらい事故の慰謝料の相場に関する詳細は、以下のページをご覧ください。
もらい事故の逸失利益の計算方法
逸失利益は、以下の計算式で算出します。
後遺障害逸失利益の場合
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
死亡逸失利益の場合
基礎収入 ×(1 ― 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
もらい事故の場合、被害者の過失はゼロですので、慰謝料と同様、逸失利益も満額受け取ることができます。
逸失利益を計算する際には、基礎収入が重要になります。
基礎収入の算定方法は、被害者の職業によって異なります。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
労働能力喪失期間、就労可能年数は、原則として、67歳まで働くことができたものとして計算します。
労働能力喪失期間・就労可能年数に関する詳細、労働能力喪失率、ライプニッツ係数(中間利息の控除のために使います)、生活費控除率については、こちらのページをご覧ください。
もらい事故の休業損害の計算方法
休業損害は、
により算定します。
会社員の場合、休業損害は、会社に作成してもらう休業損害証明書を基に算定します。
休業損害、休業損害証明書に関する解説は、以下のページをご覧ください。
合わせて読みたい
積極損害の計算方法
積極損害は、治療費、通院交通費などの各費目の金額を合計して算出します。
積極損害の費目、計算する際の注意点については、以下のページをご覧ください。
修理代等の計算方法
車が破損した場合、相当な額の修理代を損害賠償として請求することができます。
ただし、修理代が車の時価額と買替諸費用の合計額よりも高額になった場合は、経済的全損となります。
この場合、時価額と買替諸費用の合計額までしか損害賠償を請求することができません。
修理費用、経済的全損などについては、以下のページで詳しく解説しています。
なお、車が事故によって破損して走行できなくなった場合は、相当な額の代車使用料を損害賠償として請求することができます。
代車使用料のほか、車両に関して請求できる損害賠償については、以下のページをご覧ください。
もらい事故の損害賠償の流れ
もらい事故の損害賠償を請求する流れは、以下のようになります。
事故後はまず、治療を行います。
治療によってケガが治癒した、これ以上治療をしても症状が良くならない状態(症状固定)となった、残念ながら死亡した、という状態になると、損害額が確定するので、損害賠償の請求を開始します。
後遺障害が残った場合は、損害賠償の請求の前に、後遺障害等級認定の申請を行います。
損害賠償を請求する方法としては、示談交渉、訴訟提起などがあります。
損害賠償を請求する際の流れについては、以下のページもご参照ください。
なお、物的損害に関しては、壊れた積荷の写真撮影などの証拠確保、修理費・時価額などに関する資料(修理費の見積もり、中古車オークションサイトの確認等)の収集などを行った後、示談交渉・訴訟提起などを行います。
物的損害に関する損害賠償の請求については、以下のページもご参照ください。
もらい事故で被害者が利用できる保険の種類は?
もらい事故の場合に被害者が利用できる保険には、次のようなものがあります。
加害者が加入している自賠責保険
まずは、加害者が加入している自賠責保険を利用することが考えられます。
自賠責保険の保険金は、加害者側が被害者に損害賠償を支払った後、その補填のために加害者側が請求することが多いのですが、被害者側が直接自賠責に請求することもできます(被害者請求)。
ただし、自賠責保険は、人身事故の場合にしか使えませんし、人身事故の場合でも、車両の破損等の物的損害については支払いを受けることができませんので、ご注意ください
被害者や家族が加入している任意保険
被害者は、以下の保障を付けている場合には、自分の任意保険も利用できます。
- 人身傷害保険
- 車両保険・車両保険無過失事故特約
- 弁護士費用特約
人身傷害保険は、交通事故の原因、過失の有無・割合に関係なく、交通事故によって保険加入者が傷害などを負った場合に、治療費、休業損害、慰謝料などを保険金から受け取ることができるというものです。
家族が加入している人身傷害保険を利用できる場合もあります。
車両保険は、交通事故によって車両が損傷した場合に、修理代等を保険金から支払ってもらえるというものです。
車両保険を使うと、原則的に、翌年から自動車保険の等級が下がり、保険料が上がってしまいますが、車両保険無過失事故特約を付けていれば、もらい事故(無過失事故)で車両保険を使っても、等級が上がらずに済みます。
弁護士費用特約は、交通事故についての示談交渉や裁判等を弁護士に依頼する際の費用を補償するという内容の特約です。
弁護士費用特約に加入していれば、もらい事故に遭った場合も、自己負担なく弁護士に依頼することができます。
弁護士費用特約は、自分の保険だけでなく、家族の保険で加入している場合にも利用できます。
弁護士費用特約についての詳細は、以下のページをご覧ください。
もらい事故の7つの注意点
事故後はすぐに病院を受診する
上でもご説明しましたが、交通事故に遭った場合、なるべく早く病院を受診し、一通り検査を受けましょう。
そうしておかないと、後日ケガが見つかったとしても、交通事故によるケガであるかが明らかでなくなってしまい、十分な損害賠償を受けられなくなってしまうおそれがあります。
治療費が打ち切られても、必要であれば治療を続ける
交通事故でのケガの治療期間が長くなってくると、加害者側の保険会社から、治療費の支払い(一括対応)を打ち切ると言われてしまうことがあります。
そのような場合でも、まだ治療により症状が良くなりそうであれば、十分に体を治すためにも、できるだけ通院を続けることをお勧めします。
ただし、その場合の治療費については、加害者側に事後的に請求できる場合もありますが、「治療により良くなる状態ではなく、治療の必要性はなかった」として自腹での負担になる可能性もあることは、お知りおきください。
安心して通院するためには、弁護士に依頼し、治療費の支払いを再開してもらえるよう交渉してもらうことをお勧めします。
後遺障害等級認定の申請を検討する
ケガをして治療を続けても、痛みや体の動きにくさ(可動域制限)が残ってしまうことがあります。
そのような場合には、後遺障害等級認定の申請をすることを考えましょう。
後遺障害等級認定を受けることができれば、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益を請求することができ、損害賠償額を増額させることができます。
任意保険会社の示談代行サービスが使えない
もらい事故(自分の過失がゼロ)の場合、被害者は、任意保険会社の示談代行サービスを利用することができません。
保険会社は、「自社も保険金を支払わなければならないので、その保険金支払いを少なくするために示談交渉に携わる」という立場で示談代行サービスを行っていますので、加入者がもらい事故の被害者で保険金の支払いが必要ない場合には、示談代行サービスを行うことができないのです。
一方、加害者側は、自分が加入している任意保険の示談代行サービスを使うことが多いので、被害者の交渉相手は保険会社の社員となることが多いです。
しかし、交通事故に詳しくない被害者では、経験豊富な保険会社の社員を相手に満足な交渉ができず、損害額などについて不利な内容で合意するよう迫られるおそれがあります。
自ら示談交渉を行うことが難しそうだと感じたら、なるべく早く、交通事故に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。
相手方から過失を主張されることがある
こちらとしては「もらい事故だ」と思っていても、相手方から、「そちらにも過失がある」と主張されることは、決して少なくありません。
しかも、相手方が保険会社の示談代行サービスを使っている場合は、交通事故の交渉に慣れた保険会社の会社員が、一見もっともらしい理由を付けて、こちら側に過失があることを主張してくることがあります。
そうなると、一般の方では、簡単には太刀打ちすることができません。
「もらい事故のはずなのに、相手方から過失を主張されて困った」という場合には、一度、交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
なお、相手方から過失を主張され、損害賠償を支払うよう求められた場合は、示談代行サービスを使う余地がありますので、ご自身の任意保険会社にも相談することができる場合があります。
もらい事故のケースの弁護士費用特約
もらい事故の場合も、弁護士費用特約を活用することができます。
弁護士費用特約が使えれば、弁護士費用を保険でまかなうことができるので、自己負担なしで弁護士に相談・依頼することができます。
なお、保険会社が負担してくれる弁護士費用は300万円が上限であることが多いのですが、弁護士費用が300万円を超えるのは重症案件に限られますので、多くのケースでは保険で弁護士費用全額を賄うことができます。
ただし、法律事務所によっては、弁護士費用特約の対象とならない費用がかかる場合がありますので、事前に、弁護士に確認しておきましょう。
交通事故にくわしい弁護士に相談する
もらい事故に遭った場合は、保険会社の示談交渉サービスなしに加害者側の保険会社と交渉しなければなりませんので、早めに交通事故にくわしい弁護士に相談しましょう。
交通事故に詳しい弁護士に相談・依頼すれば、
といったメリットがあります。
交通事故について弁護士に相談・依頼することのメリットについては、以下のページもご参照ください。
まとめ
今回はもらい事故について解説しました。
もらい事故に遭った場合、保険会社の示談代行サービスを使うことができませんので、被害者の方が対応に苦慮されることもあります。
もらい事故への対応でお困りの場合には、なるべく早いうちに、交通事故に注力する弁護士に相談してみましょう。
当事務所でも、多数の交通事故事件を扱い豊富な経験を積んだ交通事故チームの弁護士たちが、もらい事故でお困りの方を強力にサポートしております。
電話・オンラインによる全国からのご相談もお受けしております。
もらい事故の被害に遭われた方はぜひ一度、当事務所までお気軽にご相談ください。