無職者の後遺障害による逸失利益とは?計算方法を弁護士が解説
交通事故により後遺障害が残った場合、無職の場合でも、年齢、職歴、就労能力、就労意欲等から就労の蓋然性が高ければ、「逸失利益」について損害賠償を受けることができる可能性があります。
逸失利益は、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」という計算式で計算します。
この記事では、判例をもとに無職者とフリーターの逸失利益について交通事故専門の弁護士が、詳しく解説いたします。
逸失利益とは
交通事故による後遺障害が原因で、本来得ることができた利益が得られなかった場合、その得られなかった利益を後遺障害による逸失利益といいます。
算定にあたっては、労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行います。
無職でも逸失利益が認められる場合
失業者で死亡時に収入がなかったとしても、年齢、職歴、就労能力、就労意欲等から就労の蓋然性が高い場合には、逸失利益が認められる可能性があります。
この場合、原則として失業前の収入が基礎収入とされます(東京地判H1.3.23)。
失業前の収入が平均賃金以下だったら?
- 平均賃金が得られる蓋然性がある場合
- 就労可能性が認められる場合
男女別の賃金センサスによって基礎収入が算定されることになります。
株式からの配当や不動産は基礎収入?
株式からの配当や不動産から所得は労働対価ではないので基礎収入とはしません。
無職者の後遺障害による逸失利益に関する裁判例
判例
【被害者】
男性、無職、症状固定時の年齢28歳、びまん性脳損傷などにより後遺障害等級3級相当
【判決内容】
- 大検に合格していたこと
- 件事故前に正社員として勤務していて、退職後も複数のアルバイトに従事し、一定の収入を得ていたという実績があること
- 介護士になるという希望があり、介護福祉専門学校への進学も決まっていたこと
などの事情から、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があると認定され、賃金センサス男性学歴計全年齢平均賃金を基礎収入としました。
【被害者】
女性、無職、症状固定時の年齢71歳、下肢短縮により後遺障害等級13級9号相当
【判決内容】
- 正看護師の資格を有していたこと
- 事故当時、再就職活動をしていたこと
- 事故当日、新たな職場から採用通知を受けていたこと
などの事情から、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があると認定され、本件事故前年の給与所得額を基礎収入としました。
無職で逸失利益が認められない場合
以下の場合は、就労可能性が認められないため逸失利益にはなりません。
- 病気等により長期間就労していなかった場合
- 定年退職後全く求職していなかった場合
労働能力喪失率
労働能力喪失率ですが、後遺障害で認定される等級により異なります。
基本的には、国が定めた下記の労働能力喪失率表に基づいて算定されます。
労働能力喪失率表
第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
100% | 100% | 100% | 92% | 79% | 67% | 56% |
第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
45% | 35% | 27% | 20% | 14% | 9% | 5% |
参照:別表Ⅰ 労働能力喪失率表|労働省労働基準局長通達(昭和32年7月2日基発第551号)
労働能力喪失期間
- 始期:症状固定日の年齢
- 終期:原則として就労可能年数 67歳まで障害の内容、部位、年齢、職業、地位、健康状態などによって異なる期間で算定されることがあります。
ただしむちうち損傷による後遺障害の場合は
- 12級の場合 ⇒ 労働能力喪失期間を5年から10年
- 14級の場合 ⇒ 労働能力喪失期間は5年以下
労働能力喪失期間は短くなります。
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数を乗じるのは、中間利息を控除するためです。
民法改正の影響で、令和2年3月31日までの事故と、令和2年4月1日以降の事故では、用いるライプニッツ係数が異なります。
無職者の逸失利益の計算例
(計算例)23歳の無職者(男性)が交通事故で後遺障害が残り、第12級10号に認定された場合
年齢 | 23歳無職者(男性) |
---|---|
後遺障害 | 第12級10号 |
基礎収入 | 前年の収入なし 年齢、職歴、就労能力、就労意欲等から就労の蓋然性が高く平均賃金が得られる蓋然性があるため、平均賃金479万6000円を基礎収入とします。 |
12級の労働能力喪失率 | 14% |
就業可能年数 | 67歳 – 23歳 = 44年 |
ライプニッツ係数 | 令和2年3月31日までに発生した事故の場合・・・17.663 令和2年4月1日以降に発生した事故の場合・・・24.254 |
以上より
・令和2年3月31日までに発生した事故の場合
558万4500円 × 0.14 × 17.663 = 1380万9463円
・令和2年4月1日以降に発生した事故の場合
558万4500円 × 0.14 × 24.254 = 1896万2504円
が逸失利益になります。