高速道路で交通事故。過失割合はどうなる?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

高速道路は、一般道路と違い自動車のみの通行を予定する道路であり、高速で走行することが許容されている道路です。

そのため、最低速度を維持する義務(道路交通法75条の4)、駐停車の原則禁止(道路交通法75条の8)などの一般道路にはない規制が定められています。

過失割合の判断についても、こうした規制を踏まえて判断されるため、一般道路での考え方とは少し異なった考え方をします。

この記事では、高速道路での交通事故の過失割合について具体例を示しながら解説していますので、ご参考にされてください。

※別冊判例タイムズ38民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版(東京地裁民事交通訴訟研究会編)を参考にしています。

 

合流地点における事故

高速道路では、本線に進入しようとする自動車は、本線を走行している自動車の進行を妨害してはならない(道路交通法75条の6第1項本文)ため、合流をしようとする自動車(B車)の過失割合が大きくなります。

基本過失割合

本線走行車(A) 合流車(B)
30% 70%

以下の事情がある場合には、本線走行車(A)の過失が有利に修正されます。

B車が進入路手前から進入下場合 -10%
その他著しい過失・重過失 -10〜20%

「著しい過失」は、以下のような場合を指します。

著しい過失

  • 脇見運転等著しい前方不注視
  • 著しいハンドル・ブレーキ操作不適切
  • 携帯電話の使用
  • 画像を注視しながらの運転
  • 酒気帯運転

「重過失」は、以下のような場合をさします。

重過失

  • 居眠り運転
  • 飲酒運転
  • 無免許運転
  • 過労、病気、薬物などにより正常な運転ができない恐れがある場合

以下の事情がある場合には、本線走行車(A)の過失が不利に修正されます。

Aの速度違反 +10〜20%
Aが急加速した場合 +10〜20%
その他著しい過失・重過失 +10〜20%

「速度違反」については、時速20km以上40km未満の場合は10%、時速40km以上の速度違反の場合は20%を目安に加算されます。

 

 

走行車線から追越車線へ進路変更する場合の事故

進路変更することで、後方から進行してくる車両の邪魔になる恐れがある場合には、進路変更をしてはいけません(道路交通法75条の2の3、26条の2第2項)。

したがって、進路変更した結果、事故が発生した場合は、進路変更した自動車の過失割合が大きくなります。

基本過失割合

直進車(A) 進路変更車(B)
20% 80%

以下の事情がある場合には、直進車(A)の過失が有利に修正されます。

B車が合図なし又は合図遅れ -10%
A車が初心者マーク等 -10%
進路変更禁止区間での進路変更 -10%
B車のその他著しい過失・重過失 -10%

以下の事情がある場合には、直進車(A)の過失が不利に修正されます。

速度違反 +10〜20%
分岐点・出入口付近 +10%
ゼブラゾーン走行 +20%
A車のその他著しい過失・重過失 +10〜20%

 

 

片側3車線以上ある高速道路で進路変更する場合の事故

基本過失割合

直進車(A)  進路変更車(B)
30% 70%

以下の事情がある場合には、直進車(A)の過失が有利に修正されます。

B車が合図なし又は合図遅れ -10%
A車が初心者マーク等 -10%
進路変更禁止区間での進路変更 -10%
B車のその他著しい過失・重過失 -10〜20%

以下の事情がある場合には、直進車(A)の過失が不利に修正されます。

速度違反 +10〜20%
分岐点・出入口付近 +10%
ゼブラゾーン走行 +20%
A車のその他著しい過失・重過失 +10〜20%

 

 

過失によって駐停車した自動車への追突事故

この事故類型は、追突された車に、駐停車したことについて、何らかの落ち度(ガス欠、整備不良、自身の過失による先行事故の発生など)がある場合を想定しています。

基本過失割合

追突車(A) 駐停止車(B)
60% 40%

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が有利に修正されます。

視認不良の場合 -10%
追越車線の場合 -10%
B車の車道の閉塞が大きい場合 -10%
B車のその他著しい過失・重過失 -10〜20%

「視認不良」とは、夜間、降雨のため視界が悪い場合を指します。

もっとも、夜間であっても現場の照明の状況から視認不良とはいえない場合には、修正されません。

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が不利に修正されます。

速度違反 +10〜20%
B車が退避不能かつ停止表示器材を設置 +20%
A車のその他著しい過失・重過失 +10〜20%

 

 

過失なく駐停車したものの、その後の対応に過失がある自動車への追突事故

この事故類型は、何の落ち度もなく駐停車したものの、駐停車した後、自動車を移動させて退避することを怠った場合、退避不能の際に停止表示器材を置くなどの措置を取らなかった場合を想定しています。

基本過失割合

追突車(A) 駐停止車(B)
80% 20%

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が有利に修正されます。

視認不良の場合 -10%
追越車線の場合 -10%
B車の車道の閉塞が大きい場合 -10%
B車のその他著しい過失・重過失 -10〜20%

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が不利に修正されます。

速度違反 +10〜20%
A車のその他著しい過失・重過失 +10〜20%

 

 

過失なく駐停車し、その後の対応にも落ち度がない自動車への追突事故

この事故類型は、何の落ち度もなく駐停車し、駐停車後の対応にも何の落ち度もない場合を想定しています。

この場合、駐停止車には、事故の発生について何の落ち度も認められないため、過失の修正要素はなく、追突車に全ての責任が認められます。

基本過失割合

追突車(A) 駐停止車(B)
100% 0%

 

 

路肩等に駐停車している自動車への追突事故

路肩は、原則として車両の通行が禁止されています。

したがって、あえて路肩を走行して追突事故を起こしたような場合には、追突車は全責任を負うことになります。

基本過失割合

追突車(A) 駐停止車(B)
100% 0%

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が有利に修正されます。

視認不良の場合 -10〜20%
B車がはみ出して駐停車 -20%
B車のその他著しい過失・重過失 -10~20%

この事故類型では、B車が路肩に駐停車することについて、やむを得ない理由(ガス欠、エンジントラブル、チェーン装着など)があることを前提にしています。

したがって、やむを得ない理由なく、路肩に駐停車している場合には、著しい過失として修正されることになります。

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が不利に修正されます。

A車の速度違反 +10〜20%
Bが停止表示器材設置 +10%
A車のその他重過失 +10%

 

 

理由のない急ブレーキをかけたことで発生した追突事故

この事故類型は、前方を走行している車が急ブレーキをかけたことで、後方を走る車に追突された場合を想定しています。前方車に急ブレーキをかけた過失がある一方で、後方車にも十分な車間距離を保つ義務があるため、過失割合は50:50となっています。

基本過失割合

追突車(A) 駐停止車(B)
50% 50%

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が有利に修正されます。

B車のブレーキランプが故障 -20%
追越車線での事故 -10%
B車のその他著しい過失・重過失 -10〜20%

B車が、急ブレーキをかけた理由が、風景や事故を見物するためといった理由で意図的に急ブレーキをかけた場合には、著しい過失・重過失として修正されます。

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が不利に修正されます。

分岐点・出入口付近 +10%
A車の速度違反 +10〜20%
A車のその他著しい過失・重過失 +10〜20%

 

 

落下物によって発生する事故

この事故類型は、自動車が走行中に物を落としてしまい、その落下物が原因で発生した事故を想定しています。

基本過失割合

後続車(A) 先行車(B)
40% 60%

以下の事情がある場合には、後続車(A)の過失が有利に修正されます。

視認不良 -10%
追越車線での事故 -10%
A車が自動二輪車の場合 -10%
Bのその他著しい過失・重過失 -10〜20%

先行車であるB車が油等の発見困難な物を流出させている場合は重過失として修正されることがあります。

以下の事情がある場合には、追突車(A)の過失が不利に修正されます。

A車の速度違反 +10〜20%
A車のその他著しい過失・重過失 +10〜20%

後続車からみて、200m手前から容易に発見できるような場合には、回避することも比較的容易であるため、著しい過失・重過失として修正されます。

 

まとめ

以上のように、高速道路の交通事故では、高速道路の特殊性を踏まえて、過失割合が考えられるので、一般道路とは異なる考え方がされています。

高速道路での事故は、甚大な事故であることも多く、被害者が重傷を負ってしまうことも多いです。

過失割合によって賠償額も大きく上下することになりますので、過失割合でお困りの場合は、弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

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