3歳の子が飛び出しはねられました。親にも事故の過失があるの?
幼児には、事理弁識能力がないので、過失は認められません。
しかし、幼児が道路に飛び出してしまい交通事故にあった場合には、親の過失(「被害者側の過失」)として過失が認められる可能性があります。
ここでは、幼児が飛び出して交通事故にあった場合の過失について解説いたします。
幼児自身の過失は認められない
過失相殺をするためには、一昔前までは責任能力(自分の行為の結果、自分がどのような責任を追うことになるのか理解できる能力)まで必要と考えられていました。
しかし、最高裁は、責任能力がなくても事理弁識能力が被害者にあれば、過失相殺ができると判示しました(S39.6.24)。
この事理弁識能力が備わる年齢については明確に決まっているわけではありませんが、5、6歳から認められると考えられます。(東京地判S45.7.6の事例では5歳3か月に事理弁識能力を認めた、福岡地判S52.11.15の事例では、5歳9か月に事理弁識能力を認めた)
したがって、3歳の幼児については、たとえ道路に飛び出したとしても幼児自身には過失は認められず、過失相殺することはできません。
民法722条2項の「被害者」について
では、3歳の幼児が道路に飛び出した場合に、一切過失相殺がされないのかというとそういうわけではありません。
過失相殺の条項である民法722条2項は以下のような規定になっています。
「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」
この条項のなかの「被害者」について、最高裁判所は、被害者本人だけでなく被害者と身分上、生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者も含まれると解釈しています(最高裁S42.6.27)。
つまり、被害者本人である幼児自身に過失が認められなくても、事故の発生について「被害者と身分上、生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」に過失が認められる場合には、過失相殺ができると解釈しているのです。
「被害者と身分上、生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」の過失は、被害者側の過失とも呼ばれます。
被害者側の過失とは?
①被害者と身分上一体をなす関係にある者、②被害者と生活関係上一体をなす関係にある者の過失は、被害者側の過失として過失相殺の対象となります。
過失の内容としては、例えば、ちょっと目を離した隙きに幼児が道路に飛び出した要な場合であれば、「ちょっと目を離した」という点を過失として捉えることになります。
①被害者と身分上一体をなす関係にある者、②被害者と生活関係上一体をなす者の例としては、以下のとおりですが、個別事案の事情によって異なることがあります。
①について、具体的な例は以下のとおりです。
具体例 被害者と身分上一体をなす関係にある者の具体例
- 幼児の両親:父親に過失があれば、親権者である母親にも過失ありとされました(大阪高判H42.7.25)。
- 兄弟:3歳に弟が飛び出した事故について、弟に合図を出した7歳の兄の過失が斟酌されました(東京地八王子支S48.6.22)
- 祖母、叔母:身分上一体をなすとみられるような関係にある者として過失が斟酌されました(祖母について千葉地一宮支S53.8.22、叔母について東京高判S37.6.29)。
②について具体的な肯定例、否定例は以下のとおりです。
家事使用人(最判S42.6.27)近所の主婦が2時間ばかり幼児の子守を頼まれたあずかった主婦は否定されました。(札幌地判S44.1.31)
また、保母・小学校の教師・職場の同僚については、身分上、生活関係上一体をなす関係にないと裁判例では否定されています。
まとめ
このように、事理弁識能力のない3歳の幼児には過失が認められず、過失相殺はされませんが、その親や監督者に過失がある場合には、被害者側の過失として過失相殺がなされることになります。
どの程度の過失相殺がなされるかは、個別具体的な事情を踏まえて算出されることになりますが、保険会社からの提案があった場合には、それがどういった根拠に基づいて算出されているのかを十分に吟味すべきです。
何の根拠もなく提示されている場合には、その根拠を具体的に提示してもらったほうがいいでしょう。
過失割合は、損害全体に影響するため、5%違うだけでも大きく金額が変わることがありますので、慎重に交渉しなければなりません。