交通事故被害者が後遺症を苦に自殺。損害賠償しないといけない?
交通事故と被害者の自殺との間に因果関係が認められれば損害賠償責任が発生すると思われます。
もっとも、損害賠償が認められる場合でも、自殺に至ったのは被害者の精神的な気質が関係していたとして素因減額の手法を用いて減額することになります。
素因減額について詳しくはこちらをご覧ください。
問題点
被害者の方が交通事故による受傷や後遺症を苦に自殺することは、実はよくあることです。
被害者が自殺した場合、加害者は自殺死について責任を負うのかという問題があります。
損害賠償の範囲
交通事故の加害者になった場合、責任を負うのは加害行為と被害の間に相当因果関係がある場合です。
そしてその賠償範囲は、①不法行為によって生じる通常の損害と②予見可能な特別な事情から生じる損害(民法416条類推)になります。
事故と自殺の相当因果関係が認められる場合
事故と自殺の相当因果関係認められるのは以下の要件を満たす場合です。
最高裁判例
(1) 最判S50.10.3
被害者が交通事故に遭わなければ死亡することはなかったという関係は肯定しつつも、加害者は、被害者が自殺することを予見するのは不可能であることを理由に相当因果関係を否定し、自殺については慰謝料の算定で考慮するということにとどまりました。
(2) 最判H5.9.9
被害者が交通事故によってうつ病になり、事故から3年6か月後に自殺した事例では、事故の態様、補償交渉が円滑でなかったこと、うつ病に罹患した人の自殺率の高さなどから、交通事故と自殺の相当因果関係を認めました。
その上で、自殺には本人の心因的要因も関係しているとして素因減額を認め、損害の8割を減額しました。
近年の裁判例では、先ほど紹介した最判H5.9.9のように、交通事故による受傷や後遺症と被害者の自殺との間の相当因果関係を認め、損害の公平な分担という不法行為の趣旨制度から、素因減額の手法を取り入れ損害賠償額を減額し、紛争の解決を図る裁判例が増えてきています。
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裁判例に見る減額例
相当因果関係を肯定しつつ減額を認めた事例
(1) 大阪地判 H15.2.5
被害者は、本件事故によって心因性の耳鳴り・頭鳴りが一年以上継続して神経症となり、うつ症状に陥り、自殺を図って死亡したものと認められ、このような機転は、被告らのみならず、通常人においても予見することが可能な事態と言うべきであるとして、本件事故と亡Aの自殺との間には、相当因果関係があると認めました。
その上で、自殺には被害者の心因的要因も関係しているとして、8割の減額を認めました。
(2) 大阪地判 H14.6.7
交通事故により脳挫傷等の傷害を負った被害者が、事故の後遺障害が原因で就職などに適応できずに挫折したことから将来に対する不安・焦燥感をつのらせていき、抑うつ状態に陥ったため自殺したものとして、事故と被害者の自殺との間の相当因果関係を認めました。
その上で、自殺に至ったことには、被害者の心因的要因も寄与していたものとして、損害の公平な分担の見地から、損害額の7割の減額を認めました。
相当因果関係を否定した事例
東京地判 H20.6.30
被害者の傷害及びうつ病の発症については事故との因果関係を認めましたが、被害者の自殺は事故から5年後であることや、事故後に知り合い同居するようになったBの自殺を契機とするものであるなどとして、事故と自殺の因果関係を否定しました。