サンキュー事故とは?【過失割合について弁護士が徹底解説】
サンキュー事故とは、交差点や渋滞中の道路で、右折車に進路を譲った直進車の左側をすり抜けてきた二輪車や自転車と右折車が出合い頭衝突する事故です。
好意で右折車に進路を譲った直進車に、右折車の運転手が「ありがとう」と感謝することから「サンキュー事故」と呼ばれます。
サンキュー事故は、車両の種類(自動車、バイク、自転車)や事故の場所などで過失割合が変わるので注意が必要です。
※本文中の交通事故図は別冊判例タイムズ38民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版(東京地裁民事交通訴訟研究会 編)を参考にしています。
目次
サンキュー事故の過失割合
まず、バイクと自動車の交通事故の過失割合についてご説明いたします。
バイクと自動車の事故
【バイク直進・自動車右折】 | バイク | 自動車 |
① バイク・自動車ともに青信号 | [●]15 | [●]85 |
② バイク黄色・自動車青→黄信号 | [●]60 | [●→●]40 |
③ バイク・自動車ともに黄信号 | [●]30 | [●]70 |
④ バイク・自動車ともに赤信号 | [●]40 | [●]60 |
⑤ バイク赤色・自動車青信号 | [●]80 | [●]20 |
⑥ バイク赤色・自動車黄→赤信号 | [●]60 | [●→●]40 |
⑦ バイク赤色・自動車青矢印信号 | [●]100 | [⇒]0 |
②のケースの「自動車青→黄信号」とは、右折する自動車が交差点の中心の内側で待機していることを想定しています。
⑥のケースの「自動車青→赤信号」とは、交差点への進入が青信号のときで実際に右折を開始したのが赤信号になってからという意味です。
「自動車青→赤」とは、交差点への進入が青信号のときで実際に右折を開始したのが赤信号になってからという意味です。
上記を基本過失として、以下のような事情がある場合には、それぞれのケースに応じて過失割合が修正されます。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- バイクの速度超過
- 自動車既右折
- 道交法50条違反の交差点進入
- バイクのその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 自動車徐行なし
- 自動車直近右折
- 自動車合図なし
- 自動車早回り右折・大回り右折
- 自動車その他の著しい過失・重過失
バイク直進・自動車右折の交通事故で信号機がない交差点の過失割合は、以下のとおり設定されています。
バイク | 自動車 | |
基本過失割合 | 15 | 85 |
信号機のある交差点の交通事故と同じく、以下のような事情がある場合には、過失割合は修正される可能性があります。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- バイクの著しい前方不注視
- 15キロ以上の速度超過
- バイクのその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 自動車の徐行なし
- 自動車の合図なし
- 右折禁止場所
- 直近右折
- 早回り右折など
渋滞中の車両間事故
サンキュー事故は渋滞中の道路をバイクが抜けようと直進しているときにも起こりやすいです。
こうした渋滞道路の場合の交通事故の過失は以下のようになっています。
バイク | 自動車 | |
基本過失割合 | 30 | 70 |
バイクとしても渋滞の間を通って交差点に進入してくる自動車がいるであろうということを予測できるというのがこの過失割合が設定されている根本の考え方になっています。
その上で、以下のような事情がある場合には、過失割合が修正されます。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- バイクの著しい前方不注視
- バイクのその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 交差点でない場合
※交差点でない場合とは、ガソリンスタンドやコンビニへ入るための右折が該当します。
この場合、交差点の場合に比べ、バイクの方に自動車が横切ることを予見するのが難しいと考えられているため、過失が少し少なくなります。
- 交差点でない場合
なお、渋滞がない場合の路外右折車との交通事故は、次で説明いたします。
自動車が道路外へ出るため右折する場合
バイク直進、自動車右折の衝突事故。
道路外へ出るためとは、コンビニやガソリンスタンドなどへ出入りするため車のことです。
こうした交通事故の基本的な過失割合は以下のように設定されています。
バイク | 自動車 | |
基本過失割合 | 10 | 90 |
また、以下のような事情がある場合には、過失割合が修正されます。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- バイクの速度超過
- 自動車既右折
- 道交法50条違反の交差点進入
- バイクのその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 自動車徐行なし
- 自動車直近右折
- 自動車合図なし
- 自動車早回り右折・大回り右折
- 自動車その他の著しい過失・重過失
自転車と自動車・バイクとの事故
同一道路を対向方向から進入した場合
【自転車直進、自動車・バイク右折】 | 自転車 | 自動車・バイク |
① 自転車、自動車・バイクともに青信号 | [●]10 | [●]90 |
② 自転車黄色、自動車・バイク青→黄色信号 | [●]40 | [●→●]60 |
③ 自転車・自動車・バイクともに黄信号 | [●]20 | [●]80 |
④ 自転車、自動車・バイクともに赤信号 | [●]30 | [●]70 |
⑤ 自転車赤色、自動車・バイク青→赤信号 | [●]70 | [●→●]30 |
⑥ 自転車赤色、自動車・バイク黄→赤信号 | [●]50 | [●→●]50 |
⑦ 自転車赤色、自動車・バイク青矢印信号 | [●]80 | [⇒]20 |
②のケースの「自動車・バイク青→黄信号」とは、右折する自動車が青信号で交差点に進入し、黄色信号で右折したことを想定しています。
⑤のケースの「自動車・バイク青→赤信号」とは、右折する自動車が青信号で交差点に進入し、交差点の中心の内側で赤信号に変わるのを待って右折していることを想定しています。
⑥のケースの「自動車・バイク黄→赤信号」とは、右折する自動車が黄信号で交差点に進入し、交差点の中心の内側で赤信号に変わるのを待って右折していることを想定しています。
このように、基本的には交差点に進入したときの信号機の色によって、それぞれ過失が変わってきます。
また、以下のような事情がある場合には、過失割合が修正されます。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- 自動車既右折
- バイク速度違反
- バイクのその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 自動車徐行なし
- 幹線道路
- 自動車合図なし
- 自動車その他の著しい過失・重過失
一方で信号機のない交差点の場合には、自転車と自動車、バイクの交通事故における過失割合は下図のとおりになっています。
自転車 | 自動車・バイク | |
基本過失割合 | 10 | 90 |
この基本の過失割合から、以下のような事情がある場合には、過失割合が修正されます。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- 自動車・バイク既右折
- 自転車のその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 自転車児童・高齢者
- 右折禁止
- 自動車・バイク徐行なし
- 自動車・バイク直近右折
- 自動車・バイク合図なし
- 自動車・バイク早回り右折・大回り右折
- 自動車・バイクの自転車横断帯通行
- 自動車・バイクその他の著しい過失・重過失
自転車とバイク・自動車が、同一道路を同一方向から進入した場合
先ほどの事例では、反対車線を走行している交通事故のときに適用されるものですが、自転車の場合には、同一方向に進行している場合でも自転車が直進、自動車やバイクが右折という形で交通事故が起こることがあります。
その際の過失割合は下図のようになっています。
【自転車直進、自動車・バイク右折】 | 自転車 | 自動車・バイク |
① 自転車、自動車・バイクともに青信号 | [●]15 | [●]85 |
② 自転車黄色、自動車・バイク青→黄色信号 | [●]45 | [●→●]55 |
③ 自転車、自動車・バイクともに黄信号 | [●]35 | [●]65 |
④ 自転車、自動車・バイクともに赤信号 | [●]35 | [●]65 |
⑤ 自転車赤色、自動車・バイク青 または黄信号で進入後、赤信号 |
[●または●→●] 75 |
[●]25 |
⑥ 自転車赤色、自動車・バイク青矢印信号 | [●]85 | [⇒]15 |
②のケースで「自動車・バイク青→黄色信号」とは、右折する自動車・バイクが青で交差点に進入し、黄色で右折した場合を想定しています。
⑤のケースで「自動車・バイク青または黄信号で進入後、赤信号」とは、右折する自動車・バイクが青又は黄色で交差点に進入した後、赤色で右折した場合を想定しています。
この割合を基本として、以下のような事情がある場合には、過失割合が修正されます。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- 自動車・バイク既右折
- 自転車のその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 自転車児童・高齢者
- 右折禁止
- 自動車・バイク徐行なし
- 自動車・バイク直近右折
- 自動車・バイク合図なし
- 自動車・バイク早回り右折・大回り右折
- 自動車・バイクの自転車横断帯通行
- 自動車・バイクその他の著しい過失・重過失
【自転車直進、自動車・バイク右折の交通事故】
信号機がない場所の場合には、このような過失割合が基本となります。
自転車 | 自動車・バイク | |
基本過失割合 | 15 | 85 |
その上で、以下のような事情がある場合には、過失割合が修正されます。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- 自動車・バイク既右折
- 自転車のその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 自転車児童・高齢者
- 自動車・バイク右折禁止
- 自動車・バイク徐行なし
- 自動車・バイク直近右折
- 自動車・バイク合図なし
- 自動車・バイク早回り右折・大回り右折
- 自動車・バイクの自転車横断帯通行
- 自動車・バイクの自転車横断歩道通行
- 自動車・バイクのその他の著しい過失・重過失
自動車・バイクが道路外へ出るため右折する場合
【自転車直進・自動車・バイク右折の事故】
最後に、自転車と自動車、バイクの路外へ出るための右折との間の交通事故はこのように過失が設定されています。
自転車 | 自動車・バイク | |
基本過失割合 | 10 | 90 |
この基本過失が、以下のような事情がある場合には、過失割合が修正されます。
-
バイクの過失に加算される修正要素
- 自動車・バイク既右折
- 自転車のその他の著しい過失・重過失
-
バイクの過失に減算される修正要素
- 自転車児童・高齢者
- 自動車・バイク徐行なし
- 幹線道路
- 自動車・バイク合図なし
- 自動車・バイクのその他の著しい過失・重過失
サンキュー事故の慰謝料
人身事故で怪我を負って入通院をする場合、慰謝料のほか、治療費、休業損害等の損害賠償請求を行うのが通常です。
慰謝料には、被害者の精神的な苦痛を金銭に換算したものですが、交通事故の場合、傷害慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3つがあります。
このうち、傷害慰謝料は入院や通院をしている期間や回数によって増減します。
慰謝料について、くわしくはこちらのページをご覧ください。
サンキュー事故の場合の保険会社の対応
上記のとおり、サンキュー事故で被害を被った場合、加害者に対して慰謝料等の損害賠償請求を行いますが、加害者が任意保険に入っている場合、窓口となるのは通常保険会社です。
保険会社は、裁判を起こしたら得ることができる適切な賠償金額よりも、低額な賠償金を提示する傾向にあります。
保険会社にとって、保険金を支払うことはコストを増大させることであり、自社の利益を少なくすることにつながるからです。
そのため、保険会社の提示額を鵜呑みにするのではなく、適正か否かを慎重に検討すべきです。
サンキュー事故の罰金等
サンキュー事故によって、人身事故が発生した場合、行政処分・民事責任、刑事責任を負います。
刑事責任については、刑事処分が課せられる可能性があります。
下表のとおり、軽傷の場合でも12万円以上の罰金となる可能性があり、3ヶ月以上の重傷事故だと懲役刑となることもあります。
事故の程度 | 刑事責任(目安) |
---|---|
死亡事故 | 懲役刑7年以下又は禁固刑 |
治療期間3月以上の重傷事故 又は特定の後遺障害あり | 懲役刑・禁固刑及び罰金刑50万円 |
治療期間30日以上、3月未満の重傷事故 | 罰金刑 30万〜50万円 |
治療期間15日以上、30日未満の重傷事故 | 罰金刑 15万〜30万円 |
治療期間15日未満の軽傷事故 又は建造物の損壊に係る交通事故 | 罰金刑 12万〜20万円 |
人身事故の場合の刑事処分については、上記が一応の目安となりますが、刑事処分は事故の内容によって異なるため、一概に示すことはできません。
例えば、被害者が軽症の場合で、示談が成立しており、宥恕の意思(加害者に対して寛大な処分を求めていること)があれば、刑事責任を追求されない可能性もあります。
サンキュー事故を防止するポイント
譲る側
サンキュー事故は、「先に行かせてあげよう」という親切心が原因となって発生します。
そこで事故が起こった場合、譲った側には基本的に過失はありません。
そのため、損害賠償義務が発生することはありません。
しかし、親切心であっても、重大な事故につながる可能性があることを意識すべきであり、「むやみに譲らない」という心構えが必要です。
譲られる側
譲ってもらうと、「相手が待ってくれている」という焦りから、つい急いで右折をしてしまいがちです。
焦って右折すると、譲ってくれた車両の影から出てくる車両に気が付かない場合があります。
サンキュー事故はこのようにして発生します。
ドライバーは、このような事故発生の原因を認識し、冷静になって周りをよく見渡し、注意をしながら右折することが重要です。
まとめ
以上、サンキュー事故の概要、過失割合の判断のポイント、被害者の損害賠償請求、刑事責任等について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
サンキュー事故は、加害者を強く責めることができない状況下で発生するため、過失割合の判定や賠償金の計算など、複雑になりやすく、適切に判断するためには高度な専門知識が必要となります。