交通事故で入院した場合の個室代は加害者に請求できる?
入院の際の個室代については、理由が認められれば、加害者に支払ってもらうことが可能です。
被害者の方が「個室がいい」という個人的な理由では、加害者に支払ってもらうことはできず、通常のベッドとの差額は被害者の自己負担となります。
交通事故によって入院を余儀なくされた場合、入院費については、実際に支払う必要のある実費全額が認められることがほとんどです。
もっとも、無制限に認められるわけではありません。
抽象的な表現にはなりますが、必要かつ相当な範囲を超える治療費や入院費については、加害者に請求することができない場合もあります。
この記事では、判例を交えながら、入院した場合の個室代を加害者へ請求できるケース、請求の際の注意すべきポイントを交通事故専門の弁護士が詳しく解説いたします。
個室の使用料について
入院に際しての個室の使用料は、必要かつ相当な範囲の入院費用といえるのか特に問題となる費目です。
交通事故にあわなければ入院することもなかったのだから、個室の費用も加害者に支払ってもらえると思われるかもしれません。
この点について、残念ながら入院に際しての個室の使用料は賠償できる費目として否定されることが多いです。
すなわち、個室でなく、大部屋の入院と個室に入院するのとで、治療については、差がなく、大部屋の入院でも、十分に治療の効果が期待できるため、わざわざ個室を使用する必要がないと判断されることが多いのです。
したがって、単純に「個室がいい」という被害者の意向の問題である場合には、個室の費用は、加害者に補償してもらうことはできません。
個室の利用料の賠償請求が認められる場合
個室を使用せよという医師の指示があった場合や、個室を使用しなければならないほど症状が重篤である場合、個室を利用した方が治療面でより良い効果が期待できる、あるいは、個室を使用しないと症状が悪化してしまうといった特段の事情がある場合であれば、個室の使用料も賠償請求することができる可能性があります。
具体的には、
- 症状が重篤で家族の付添いや、多数の医療機器を設置するスペースが必要である場合
- 外気に触れることで感染症に罹患する恐れがあり医師により個室使用の指示があった場合
- 事故前から解離性障害による通院歴があり、入院中の精神状態等から個室の必要性が認められる場合
などに個室の使用料の賠償請求を認める裁判例があります。
判例 個室が適切であるとされた裁判例
右手関節の機能障害、右股関節の機能障害のある患者が病室内で排せつの必要があり、また「死にたい」など叫ぶことがあった事例
【名古屋地判 H25.4.26】
また、入院した病院の空きベッドの問題で大部屋の空きがなく、個室しか空いていないという場合には、被害者に個室料を負担させるのは不合理であるとされ、病院側の都合によるものとして、加害者に支払ってもらうことができます。
この場合 、診断書などに、空きベッドがないために個室となっているということを病院に記載しておいてもらうことが必要です。
個室の使用料以外の治療費の請求については以下をご覧ください。
将来の入院個室使用が認められた例
既払いの入院個室代以外にも、高次脳機能障害の事案や遷延性意識障害のケースで将来の入院個室使用が認められた事例もあります。
判例 東京地判 H12.9.27
びまん性脳損傷により植物状態の患者について、将来も入院することが見込まれるとして将来の入院個室使用料が認められた事例
判例 大阪地判 H13.9.10
症状固定から5年後と10年後各3日の手術の際に必要となる個室料金が認められた事例
判例 神戸地判 H16.12.20
遷延性意識障害の女性につき、症状固定から口頭弁論終結までの個室使用料と、将来の個室使用料を被害者側の求めに応じて、定期金賠償方式で認めた事例
個室が必要であることを証明する
入院中の個室使用について、医師の指示があったことや症状が重篤であったこと、空室がなかったという特別な事情があったからといって、無条件に個室使用料が損害として認められるわけではありません。
患者である被害者側が、医師の指示があった、症状が重篤であったことや空室がなかったという具体的な事実について主張をし、その裏付けとなる証拠を提出しなければなりません。
証拠としては、診療報酬明細や、診療録(カルテ)など、個室使用の必要性について、具体的な事情や必要な期間が記載された資料が考えられます。
また、主治医の先生の医証や医療照会の結果などを証拠とすることも考えられます。
弁護士が、証拠の収集をする場合には、病院の医療記録の一切を開示してもらい内容を精査するとともに、必要に応じて、医師面談や医療照会を行って証拠を集めます。
集めた証拠から、個室使用の必要性を根拠づける事情をピックアップして、証拠に基づき論理的に主張をまとめることになります。
このような具体的な事情や必要な期間が証明されると、個室等の使用について相当な期間が損害賠償として認められることになります。
まとめ
このように、入院に際しての個室の使用料の賠償請求は認められないことが多いため、個室を使用する場合には、あらかじめ医師の意見を十分に聞いた上で判断することが必要です。
医師の指示が明確でない場合には、個室を使用する必要性があったことを客観的状況に照らして具体的に主張することが必要となります。