車両保険を使うと保険料が上がる?事故の相手に請求できる?

執筆者:弁護士 北御門晋作 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)

車両保険を使うと保険料が上がる?事故の相手に請求できる?

加害者へ任意自動車保険の保険料増額分を賠償請求はできません。

被害者の損害賠償できる範囲は交通事故と因果関係のある損害に対してです。

保険料増額分は交通事故と相当因果関係のない損害で賠償請求をすることができません。

 

車両保険とは?

自動車保険には、自分の自動車の修理費をカバーする車両保険があります。

車両保険とは、偶然の事故による保険対象となる被保険自動車の損害に対して、保険金を払うものです。

この車両保険は、交通事故による修理代のうち、自分の過失分の填補がされます。

もちろん車両保険を使わずに自己負担することもできます。

被保険自動車が修理可能な場合は修理費用、修理ができない場合は車両の時価相当額や運搬費用等の諸費用に対し保険金が支払われます。

したがって、事故の過失割合やお互いの修理費により、保険を使用した方がいいのか、自己負担した方がいいのかを判断しなければなりません。

なお、車両保険は保険契約者に過失のない自然災害やいたずらによる被害も補償されます。

 

 

損害賠償請求ができる範囲

交通事故における損害賠償請求できる範囲とは、事故と因果関係のある損害です

損害とは

損害とは、交通事故がないときの被害者の財産状態と交通事故があったときの被害者の財産状態の差額を損害と捉えます。

物損事故で損害となる主なものは、次のとおりです。

  • 車両の修理費用(レッカー費用含む)
  • 代車費用
  • 車両の買換費用
  • 評価損
  • 休車費用
  • その他事故が原因で破損した物など

物損事故で請求できる内容について、くわしくはこちらをご覧ください。

 

因果関係

交通事故に基づく損害賠償の範囲は交通事故と相当因果関係が認められる範囲、民法416条の「通常生ずべき損害」の範囲になります。

 

 

任意自動車保険

車と電卓の写真

任意自動車保険は、交通事故による自分の身体や車両の損害に対する補償、事故の相手方の損害に対する賠償目的として加入するものです。

自賠責保険の加入が強制であるのに対し、自由に加入できる保険です。

 

任意自動車保険の補償内容

任意自動車保険は、事故の相手への賠償を目的とする対人賠償保険、対物賠償保険と自分の身体や車両の損害に対する補償を目的とする車両保険、人身傷害保険、搭乗者傷害保険、無保険車傷害保険、弁護士費用補償特約などがセットで販売されています。

 

任意自動車保険の等級制度

任意自動車保険は、等級による保険料割引率、割増率が決まる等級制度が採用されています。

任意自動車保険に加入すると最初は、基本的に6等級からはじまり、1年間無事故であれば1等級ずつ等級が上がっていきます(最高は20等級)。

保険契約期間中、事故により対人賠償保険、対物賠償保険、車両保険を使った場合次年度の等級は3等級下り、保険料は高くなります(自然災害、盗難、偶然の事故などの理由により車両保険を使った場合は1 等級下がります)。

さらに、等級が下がると、3等級下がった場合には3年間、1等級下がった場合には1年間、事故あり等級が適用されます。

例えば、事故なし14等級の人が事故により保険金を利用したケースでは、次年度は事故あり11等級に下がります。

事故なし等級と事故あり等級とでは、事故あり等級の方が保険料は高く設定されています。

人身傷害保険、無保険車傷害保険、搭乗者傷害保険、弁護士費用補償特約を使用した場合、等級は下がりません。

 

 

保険料の増額は損害?増額分を請求できる?

お金の写真

結論としては、先ほど説明したとおり、保険料の増額は損害にあたりません。

理由は次のとおりです。

保険を利用するか否かは被害者の意思によること

損害が発生した場合、任意自動車保険の保険契約者は、金銭的負担に対し保険を使わない自己負担することを選択できますし、保険料の増額を承知し自己の任意自動車保険を使うことを決定することもできます。

このような被害者の選択によって増加した保険金については、加害者は関知しない事柄であるため、加害者に負担させるべきとは考えられていません。

 

保険料の性質上、被害者の負担とすべきであること

任意自動車保険は、交通事故などによって生じた損害を補填したり、他人に与えた損害を賠償する際の金銭的負担を回避または軽減したりするために加入するものです。

任意自動車保険の保険料は金銭的負担を回避または軽減するための対価として負担するものです。

このような保険料の性質から、保険料の増額のリスクについても被害者(保険加入者)が負担すべきとされています。

裁判例(東京地判平成27年9月29日)においても、加害者に負担させるのは損害の公平な分担の見地から相当であるといい難いとして、保険料の増額分を損害として認めませんでした。

 

 

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