新車でもらい事故。新車価格での賠償請求はできる?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

 

もらい事故の場合でも、新車価格での賠償を受けるのは難しいでしょう。

 

もらい事故とは

交通事故被害者の方で「もらい事故に遭った」と言われることがありますが、「もらい事故」とはどのような事故でしょうか。

法律上の定義として決まっているわけではありませんが、一般に「もらい事故」は、被害者側に過失が全く無い場合に使われています。

例えば、以下のような事故では被害者に過失はなく、「もらい事故」といえるでしょう。

もらい事故といえる場合の例

 

 

もらい事故の示談交渉

もらい事故では、被害者の過失が0%なので、被害者側の保険会社は動けません。

弁護士法73条では、弁護士以外の者が報酬を得る目的でなどの法律事務を行うことを禁止しています。

被害者に少しでも過失がある場合には、その過失分について保険会社が賠償義務を負う可能性があるので、保険会社は自らの業務として示談交渉をすることができるのですが、被害者に全く過失がない場合には、賠償義務を負うことはないので、示談交渉をすることができないのです。

つまり、もらい事故の場合には、被害者自身で相手保険会社と交渉する必要があるのです。

交通事故の交渉を日頃から行っている保険会社の担当者と交渉するのは、被害者にとって大きな負担になると思います。

交渉にあたって不安なことがあれば、弁護士に相談するか、あるいは、依頼して交渉を全て弁護士に任せられることをお勧めします。

弁護士費用特約がついている場合には、加入している保険会社に弁護士費用を支払ってもらうことができるので、活用されてください。

 

 

もらい事故で新車が破損したときの賠償

自動車の賠償について

自動車が交通事故で壊れたときの賠償は、原則として修理費用の賠償となります。

しかし、以下の場合には全損と判断され、買替差額が賠償額となります。

全損と判断される場合

① 車両の修理が物理的に不可能な場合(物理的全損)

② 修理費用が車両時価額を上回る場合(経済的全損)

「買換差額」とは以下の計算方法で計算されます。

買替差額の計算式

買替差額 = 事故直前の車両時価額 - 事故車両の下取価額

ただ、実務上、買替差額での賠償となった場合には、下取価額について話し合うことなく、保険会社から時価額分の賠償を受けて終了することが多いです。(事故車両については保険会社が引き上げることになります。)

買替差額に加えて買替諸費用(新たに車両を購入するためにかかる費用)も請求できます

買替諸費用には、登録、車庫証明、廃車の法定手数料相当分、ディーラーへ支払う手数料、自動車取得税、車両本体価格に対する消費税相当額などが認められます。

 

もらい事故で新車価格の賠償請求ができるか

車の画像納車から間もない新車が事故に遭った場合も、原則として修理費用の賠償となり、修理費用が時価額を上回る場合には、買替差額の賠償となります。

買替差額は、「事故直前の車両時価額 - 事故車両の下取り価額」で計算することになるので、必然的に賠償額の限度額は、「事故直前の車両時価額」ということになります。

とすると、新車価格での賠償を相手方に認めさせるには、「事故直前の車両時価額」が新車価格と同額であることを主張立証しなければならないことになります。

しかし、一般的に、自動車は自動車登録した時点でナンバーが付き、その時点で中古車になるため自動車の時価額も下がってしまうのです。

したがって、「事故直前の車両時価額」が新車価格と同額であるという主張自体が困難であるため、新車価格での賠償は難しいと考えられます。

判例 新車の買替えを否定した裁判例

新車の引き渡し20分後追突された事例で「既に、一般の車両と同様に公道において通常の運転利用に供されている状態であった以上、新車の買替えを肯認すべき特段の事情とまではいえない」として新車の買替えを否定

【東京地判 H12.3.29】

裁判例の中には、新車への買替差額を認めたものもあります。

判例 新車への買替差額を認めた裁判例

新車購入6日後に事故に遭い全損となった車両について、新車価格に、自動車取得税や自賠責保険料など諸費用を加算した価格から下取り価格を差引いた金額を損害として認めました。

【札幌高判 S60.2.13】

このような裁判例もありますが、交通事故賠償実務としては新車価格での賠償は認められない傾向にあり、理屈の上でも、新車価格での賠償請求は困難と考えられます。

 

もらい事故で新車を傷つけられた慰謝料は?

納車間もない新車をもらい事故で傷つけられると、心の底から腹が立つと思います。

精神的に傷つけられたので慰謝料を請求したい!と思われるのも自然な感情です。

しかし、物損に対する慰謝料は基本的に認められていません。

物損の場合、車が傷つけられたとしても、傷が修理されれば、精神的苦痛も慰謝されると考えられるからです。

したがって、たとえ新車をもらい事故で傷つけられたとしても、慰謝料を請求することは難しいでしょう。

 

 

もらい事故での人身の補償

もらい事故にあって、には必ず病院に行くべきです。

被害者の方の中には、痛みを我慢される方もいらっしゃいます。

しかし、賠償実務では、通院していなければ傷害慰謝料は発生しません

傷害慰謝料は入通院の日数、治療期間で算定されるため、病院に行っていない場合には、傷害慰謝料は0円ということになります。

痛みを我慢していて大変な思いをしていても慰謝料は発生しないのです。

また、痛みを我慢していたところ、痛みに耐えられなくなって、相当期間経過して病院に行ったという場合、保険会社から治療費の支払いを受けることができない可能性があります。

交通事故から時間が開いて病院に行っていることから、その原因となる痛みは交通事故が原因ではないのではないか?と考えられるためです。

したがって、もらい事故に遭って、体に痛みがある場合には、速やかに病院に行かれることをお勧めします。

 

 

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