交通事故で、軽度外傷性脳損傷(MTBI)と診断。MTBIとは?
MTBIによる高次脳機能障害が認定された場合には、症状の程度に応じて後遺障害に認定されます。
MTBIによる高次脳機能障害の後遺障害等級
MTBIによる高次脳機能障害と認定された場合には、その症状の程度に応じて、後遺障害等級が認定されます。
具体的には、後遺障害等級別表Ⅰの
1級1号、2級1号、別表Ⅱの3級3号、5級2号、7級4号、9級10号に該当する可能性があります。
(症状の程度が軽微である場合には、12級13号、14級9号に認定されることがあります。)
一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
1~9級の認定について詳しくはこちらをご覧ください。
軽度外傷性脳損傷(MTBI)とは
MTBIとは、Mild Traumatic Brain Injuryの略称です。
軽度とありますが、受傷時の意識障害の程度やその持続期間が軽度であったという意味合いで、その後の症状が軽度という意味合いではありません。
MTBIは以下のような症状が現れます。
- 注意・集中力の低下
- 課題遂行力の低下
- 記憶障害
- 頭痛、めまい、疲労感、易刺激性、不安、不眠
高次脳機能障害に認定されるには、原則として、頭部外傷(びまん性軸索損傷やくも膜下出血など)の所見があり、さらに、意識障害が一定期間継続していることが前提となります。
MTBIの場合には、明確な画像所見もなく、また、意識障害はないか、あるいは、ほとんどないことから、上記の高次脳機能障害の条件には当てはまりません。
しかし、厚生労働省において、画像所見が認められない症例であって、受傷時に意識障害が軽度である場合にも高次脳機能障害を残す可能性について考慮する必要があるとの通達が出されています。
また、裁判例にも、意識障害がなく頭部外傷の画像所見も乏しい事案で高次脳機能障害を認めた裁判例がある(東京高裁平成22年9月9日判決、大阪高裁平成28年3月24日)ので、その判断については慎重にならなければなりません。
東京高裁平成22年9月9日判決では、以下のような判断がされています。(被害者をXとしています。)
判例 意識障害がなく頭部外傷の画像所見も乏しい事案で高次脳機能障害を認めた裁判例
- 本件事故直後には強い意識障害はなかったこと
- また、XにはCT検査やMRI検査の画像所見において異常所見が認められなかったこと
- さらには、X車の同乗者には後遺障害が生じていなかったこと
上記のような事情があったとしても、軽度外傷性脳損傷においては事故後すぐに症状が現れるとは限らず遅発性に現れることもあり、また、軽度外傷性脳損傷の場合には必ず画像所見に異常が見られるということでもないというのであるから、上記1~3の事実をもって、本件事故により脳幹部に損傷を来した(脳細胞の軸索が損傷した)事実を否定することはできないものというべきである。
【東京高裁平成22年9月9日判決】
以上のように判断して、被害者に高次脳機能障害が発症していることを認めました。
さらに、自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会によると平成30年5月31日の報告書)、頭部外傷の画像所見がない場合でも、中程度以上の意識障害があり、頭部外傷後に症状が発現し、軽快しつつも症状が残存し、神経心理学的検査等に異常所見が認められる場合には、脳外傷による高次脳機能障害と判断されることがあると言及しています。
以上のように、軽度外傷性脳損傷(MTBI)においても、高次脳機能障害の発症が認められ、後遺障害として認定されることもあります。
しかし、裁判例の多数は、高次脳機能障害の認定にあたり、頭部外傷の画像所見と一定の意識障害の持続を要求しており、上記の裁判例は極めて少数派の判決と言わざるを得ないのが現状です。
後遺障害の申請にあたって
MTBIの案件においても、あくまで脳外傷による高次脳機能障害であるということを示す必要があります。
MRIなどで出血痕などの所見があれば当然提出すべきですが、それがないとしても、脳出血が起こりうる事故の規模・態様であったことを具体的に主張し、それを裏付ける証拠を添付しなければなりません。
例えば、事故車両の写真や、衝突の態様から予測される被害者の頭部への衝撃など具体的に主張する必要があります。
さらに、受傷直後の意識障害(気を失っているか)、健忘(記憶障害)の有無などについても立証する必要があります。
こうした立証は、緊急搬送の記録やカルテ、同乗者の証言や本人の供述などが証拠となり得ます。
これらに加えて、高次脳機能障害の症状が発症していることを主治医の所見や家族の日常生活報告書などによって証明しなければなりません。
MTBIとして後遺障害の認定を受けるには、少なくとも上記のような証拠を収集した上で、後遺障害の申請をする必要があります。
MTBIの賠償に関する争点
ですから、そもそも、事故が原因で発症しているのかという点が争いになることがあります。
因果関係が争われた場合には、事故以前の健康状態が良好であり、日常生活も支障なく過ごしていて、事故以外に原因が考えられないということを主張立証していくことになります。
MTBIは脳外傷の存在を十分に証明しきることは困難なので、加害者側から被害者の性質に起因して発症していると主張され素因減額が問題となることがあるのです。
上記の東京高裁平成22年9月9日判決では、損害額の30%が素因減額されています。
被害者側としては、事故前の被害者の性格などについて立証し、事故のみが原因で症状が発症していることを積極的に主張立証していくことが大切です。