歩行者の過失が10割の交通事故?〜裁判例を弁護士が解説

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)

過失割合歩行者は一般的に交通弱者とされています。

したがって、歩行者と自動車やバイクとの交通事故においては、自動車やバイクの方が過失が大きくなるケースが多いです。

しかしながら、歩行者が交通ルールを違反し、その程度があまりに大きい場合には、歩行者の方の過失が大きくなります。

典型的には、歩行者が信号無視をした場合です。

この場合には、別冊判例タイムズ38によれば、歩行者:自動車=7:3が基本の過失割合となっています。

今回、新潟地裁長岡支部で出された判決(平成29年12月27日判決)では、歩行者の過失が10割と判断され、自動車を運転していたドライバーは自賠法3条の運行供用者責任も民法709条の不法行為責任も負わないとされました。

事案の概要

車のイメージ画像問題となった交通事故は夜間の国道で起こりました。

歩行者の51歳の女性は、片側3車線で道路幅が約30メートルある国道の中央分離帯から反対側へ渡ろうとして、右から左に横断していました

その横断中に、直進をしてきた自動車と衝突しました。

片側3車線もの道路で直進車と衝突しているので、歩行者の女性は、外傷性くも膜下出血、外傷性胸部大動脈解離、左脛骨開放骨折等の大けがを負い、115日入院を含む約2年間治療を行いました。

その後、自動車の任意保険会社を通じた後遺障害の事前認定により、併合8級の認定を受けました。

当初、後遺障害の事前認定の結果を踏まえて、自動車の任意保険会社は示談交渉を行いました。

つまり、この時点では保険会社は過失の主張はしていたと予想されますが、責任が全くないという主張はしていなかったものと思われます。

実際、歩行者は保険会社から治療費等も含めて1434万6228円の支払を受けていました。

ところが、保険会社の示談交渉で提示された賠償額に納得のいかなかった歩行者とその家族が裁判を提起したというのが今回の裁判です。

裁判になったことで、自動車のドライバーの側にも弁護士がつくことになり、ドライバー側は、本件事故を回避することは不可能であったと主張しました。

すなわち、歩行者が中央分離帯を超えて横断してくることを予測するのはこんなんであり、衝突した地点も車道に出てから5.8メートルと短く、歩行者は走って横断していたと考えられることから、ドライバーが歩行者を車道上で発見後、衝突を回避することは不可能であったというのです。

裁判所の判断

新潟地裁長岡支部は、以下のように判断して、ドライバーの責任を全て否定しました。

・事故現場付近の中央分離帯には高さが1.5ないし3.8メートルの樹木が立っており、樹木と樹木の間に人が立っていても夜間であるため、人と認識するのは相当困難であったといえる。

衝突付近には照明灯がなく、対向車線の道路側のガソリンスタンドの明かりで逆光のような状態になってしまう。

そもそも片側3車線の広い幹線道路の中央分離帯に横断をしようとする歩行者がいると予測することは困難である。

 

 

弁護士の補足

今回の判決は、ドライバーの過失を全く認めなかったということで非常に珍しい裁判例ですが、歩行者=交通弱者だからといって、交通ルールを守らない横断は大幅な過失を取られる原因になるということはしっかり覚えておいた方がよいでしょう。

今回の事案は、歩行者の側からすれば、結果的に示談をしておいた方がよかったことになるでしょう。

なぜなら、ドライバーの責任が全くないと判断されたことで、賠償金が1円も得られないばかりでなく、法律上は保険会社が事前に支払っていた1434万6228円もの大金も返還しなければならなくなるからです。

示談で解決するか裁判をするかという選択は、証拠の内容や過去の裁判例の分析をした上で、見通しをしっかり予測しなければなりませんので、非常に高度な専門性を要します。

したがって、交通事故にあった場合には、交通事故を専門とする弁護士に早い段階で相談しましょう。

 

 

裁判


 
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