多重事故の場合の法律関係―共同不法行為
突然ですが、交差点で出会い頭で衝突した自動車同士の交通事故に歩道を歩いていた歩行者が巻き込まれた場合、被害者である歩行者は、誰に対して賠償請求することができるでしょうか?
この設例のような法律関係を共同不法行為といいますが、この問題を考えるに当たって、自動車を運転していた方をAさん、Bさんとし、AさんとBさんの過失割合は、A : B = 8 : 2とします。
一つの考え方は、被害者の方がAさん、Bさんの過失割合に従って、80%をAさんに、20%をBさんに請求することができるというものです。
この考え方は、一見するとわかりやすいですが、被害者である歩行者が、AさんとBさんの過失割合に影響を受けるということに問題はないでしょうか?
すなわち、この考え方だとAさんとBさんが過失相殺でもめている場合、AさんとBさんの過失が決まらないので、被害者は誰にどれだけ請求できるか一向にわからないことになり、いつまでたっても(裁判で双方の過失が確定するまで)補償を受けることができないことになります。
そこで、法律上は、被害者の方は、Aさん、Bさんの過失割合に関係なくどちらに対しても、自分が被った損害の全額を補償してもらうよう請求することができます。
AさんとBさんの有する損害賠償債務のことを不真正連帯債務といいます。
なお、実際に共同不法行為が成立する交通事故が発生した場合には、具体的な数字は決まっていなくても、過失が大きくなると見込まれる側の保険会社が治療費などの一括対応をするケースがほとんどです。
そして、被害者の方との示談が成立した段階で、もう一人の加害者側に自己の過失割合を超えた部分の支払額を回収(求償)するという形をとります。
仮に、Aさんが任意保険に入っておらず、Bさんが任意保険に加入している場合には、被害者の方は、過失の小さいBさんに治療費の立替えを請求することを考える必要性が出てきます。
この請求ができるのも、先ほど説明した不真正連帯債務という債務の特徴からくるものです。
また、共同不法行為が成立する場合、補償の対象となる自賠責保険が2つになるという点も注意が必要です。
すなわち、通常自賠責保険は、傷害の賠償金の上限が120万円ですが、これが2つ使用できる場合には、120万円 × 2 = 240万円が上限となります。
したがって、場合によっては、裁判基準での賠償額に比べて、自賠責保険の基準での賠償額の方が高くなるというケースも起こり得るのです。
このように、多重事故の場合には、法律関係が複雑になる上、通常の交通事故と違った観点からの検討も必要になるため、専門家である弁護士に相談する必要性が高い事案の一つといえます。