追突されたのに損害賠償が認められない?裁判例を弁護士が解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故のうち、追突事故については、前方の車両の急ブレーキや高速道路上での追突事故といった特殊な場合を除き、被害者の過失はない、いわゆる0:10の事故として取り扱われるのが通常です。

したがって、そもそも追突した側の保険会社が全く賠償をしないということは通常はありません。

しかしながら、追突事故にもかかわらず、追突したとされる加害者側が全ての支払を拒否したため、被害者側が裁判を起こしたケースがあります。

福岡地判平成29年6月21日

問題となった交通事故はアスファルト舗装された平坦な道路で見通しの良い道路で起こりました。

車のイメージ画像被害者である原告は前方に横断歩道上を横断する歩行者を発見したため、減速したところ被告が追突したと主張し、他方で被告は、事故の直後から「ぶつかっていない」と主張し、双方の主張が真っ向から対立していた状況でした。

事故の際、警察に通報して現場で実況見分が行われていますが、このときの確認では、追突したとされる被告側には「損傷見当たらず」と記録されており、他方で、追突を受けた原告側には、「後部バンパー凹損等」と残っていました。

裁判所の判断

こうした事実関係のもとで福岡地方裁判所は以下のように判断して、最終的には追突されたと主張する原告の損害を全て棄却しました。

原告車両の後部バンパーと被告車両の前部バンパーが接触したとは断定し難いこと

裁判所は、警察の書類に記録されていた原告車両の「後部バンパー凹損等」については、「微かな」ものであり、点状の擦過痕も車両の写真をよく見てもなかなかわかりにくく、判別が容易でないものであり、被告車両の前部の擦過痕も原告の塗料と評価するには疑問の余地があると判断しています。

原告車両のバックドアパネルの損傷に対応する突出部や損傷が被告車両にないこと

車の点検この理由が否定する理由として大きかったと思われます。

すなわち、追突事故であれば、追突した加害者の側の車に追突に対応する傷が残るはずであり、それも一番出っ張っている部分には少なくとも傷が付くはずです。

しかしながら、今回の事案では、被告車両前部のエンブレムの損傷が確認されておらず、追突されたと主張する原告車両にもこのエンブレムに対応する傷が見当たらないと裁判所が指摘しています。

原告車両の経年劣化が考えられること

原告の車両が事故の時点で9年ほど経過した車であり、走行距離が9万9256キロメートルに及んでいたことや依然に修復歴や追突された後部以外の場所にも複数の損傷があったということから、後部バンパーの傷も今回の事故以外でできた可能性が否定できないと裁判所は判断しています。

以上の理由から、原告の請求していたけがの損害250万円と車の修理代25万円についてはいずれも認めませんでした。

最終的にこの事案は、原告が控訴したのちに高等裁判所で和解に至っているようです。

第1審の判断からすれば、おそらく和解額も数十万円にも満たない額だと推測されます。

 

 

まとめ

この事案は、特殊な事案といえるでしょうが、追突事故だから加害者に絶対に賠償義務が生じるというわけではありません。

したがって、追突事故でも損傷が軽微な事案などでは、この裁判例のように治療費や慰謝料といったけがの賠償を否定されるケースもあり得ます。

交通事故にあうことは避けられませんが、ドライブレコーダーを搭載しておいたり、車の損傷写真をその場で撮影しておくなどの証拠保全をしておく必要があるでしょう。

 

 

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