後遺障害14級9号の逸失利益の期間について【弁護士が解説】
後遺障害逸失利益とは
交通事故により後遺障害が認定された場合、後遺障害に対する補償として、後遺障害慰謝料と逸失利益が賠償項目として請求することができます。
逸失利益とは、後遺障害によって働きづらくなり、将来減収してしまうことに対する補償です。
逸失利益の計算方法は、基礎収入に労働能力喪失率及び労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数をかけることで算出します。
逸失利益について詳しい計算方法はこちらをご覧ください。
後遺障害14級9号について
後遺障害14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」に該当する場合に認定がなされます。
「局部に神経症状を残すもの」に該当するか否かは、諸事情が勘案されて判断されます。
例えば、事故規模・態様、治療の経過、治療の内容、症状の連続性・一貫性、画像所見の有無、神経学的検査の結果などが考慮要素となります。
こうした考慮要素を踏まえて、痛みや痺れなどの神経症状が残っていることについて、医学的に説明することが可能であると判断された場合に、「局部に神経症状を残すもの」として14級9号に認定されることになります。
14級9号は、諸事情を総合考慮して認定されることになるため、被害者にとって有利な証拠は余すことなく提出すべきです。
14級9号の逸失利益の期間について
14級9号の神経症状に対する労働能力喪失期間については、多くの裁判例で症状固定から5年程度とするものが目立ちます。
この点について、交通事故賠償実務において参考にされ、裁判所も賠償の目安としている通称「赤い本」には、以下のような記載があります。
「むち打ち症の場合は、12級で10年程度、14級で5年程度に制限する例が多く見られるが、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきである。」
むちうちの場合には、骨折などと違って、軟部組織の損傷であり、一生涯にわたって痛みが継続するとは考え難いという発想から、こういった取扱いがなされています、
もっとも、「後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきである。」とも記載されているとおり、14級の場合に5年というのはあくまでも目安であることが分かります。
したがって、被害者側としては、むちうちであったとしても、症状の程度によっては5年を超える期間を保険会社に主張すべき場合もあると考えます。
ただし、事案によっては、裁判で逆に5年未満に短縮されてしまうこともあるため、訴訟提起するかどうかは、事案の具体的事情を十分に検討する必要があります。
むちうちを原因として14級9号に認定された場合には、上記のとおりの取扱いになりますが、骨折後の痛みについても、14級9号の認定であれば、喪失期間が5年間程度認められないかという問題があります。
この点について、原則的には、骨折後であったとしても14級9号の認定であれば、逸失利益は5年と判断されることが多いです。
もっとも、裁判では、事案に即した判断もなされます。
北九州市の裁判を管轄する福岡地裁小倉支部が、平成27年12月16日に以下のような判決を下しています。
判例 福岡地方裁判所小倉支部 平成27年12月16日判決【事案の概要】
事案は、29歳の会社員がバイクで青信号に従って走行中、反対車線からUターンしてきた自動車に衝突して、第7頚椎棘突起骨折、頚椎捻挫のけがを負って、その後、後遺障害14級9号が認定されたというものです。
【判示の概要】
裁判所は、以下の事情を踏まえて判断しています。
- 被害者は、事故によって第7頚椎棘突起の骨折し、骨折が完全には癒合せず、偽関節が生じていて、それが痛みの原因となっていることが認められること
- 被害者の治療にあたった医師が「項部周辺の痛み、特に隆椎の圧痛、左上肢の知覚低下などの症状は今後も持続するものと考えられる。」と述べていること
上記事情から、被害者の弁護士の主張を認め、労働能力喪失期間を67歳までの37年間としました。
このように、14級9号の神経症状であるからといって必ずしも逸失利益の労働能力喪失期間は5年間に限られるわけではありません。
骨の癒合の状態(綺麗に骨がくっついているかどうか)や、現存している症状などから、事案に応じて5年を超える喪失期間を主張すべきです。
なお、骨の癒合がうまくいっていないことが証明できそうな場合には、12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する可能性についても検討すべきでしょう。
当事務所の弁護士による解決事例でも、5年間以上の喪失期間が補償された事例もあります。
下記事例では、裁判をすることで20年以上の喪失期間を認めてもらうことができました。