交通事故の過失割合に納得いかない。変更のための交渉方法まとめ
交通事故の過失割合に納得いかない場合、被害者側の言い分を証拠に基づいて交渉すれば、保険会社から提示された過失割合を変更することができる可能性があります。
保険会社からの提示を鵜呑みにしてはいけません。
※本文中の交通事故図は別冊判例タイムズ38民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版(東京地裁民事交通訴訟研究会 編)を参考にしています。
過失割合の決定方法
保険会社と交渉するにあたって、過失割合は以下の流れで確定することになります。
例えば、事故態様が、交差点で直進車と右折車が衝突した事故(両方とも青信号)の場合、基本過失割合と修正要素は、以下のように設定されています。
直進車 | 右折車 | |
基本過失割合 | 20% | 80% |
■直進車に不利になる修正要素
事情 | 過失割合の修正要素 |
---|---|
右折車が既右折 | +10% |
直進車が法50条違反の交差点進入 | +10% |
直進車が15km以上の速度違反 | +10% |
直進車が30km以上の速度違反 | +20% |
直進車にその他著しい過失 | +10% |
直進車にその他の重過失 | +20% |
■直進車に有利になる修正要素
事情 | 過失割合の修正要素 |
---|---|
右折車が徐行していない | -10% |
B車が直近右折 | -10% |
B車が早回り右折 | -5% |
B車が大回り右折 | -5% |
B車が合図を出していない | -10% |
B車にその他著しい過失・重過失 | -10% |
上記のとおり、この類型の事故の場合、基本過失割合は直進車80%、右折車20%です。
この過失割合を前提に、過失割合の修正要素に当てはまる事情がないか検討することになります。
該当する修正要素があれば、その過失分を修正することになります。
例えば、直進車が15km以上の速度違反がある場合には、直進車に10%の過失割合が加算され、直進車30%、右折車70%の過失割合になるのです。
過失割合は争いになりやすい
上記の流れで過失割合は決まるため、次のような理由で争いになることが多いです。
事故態様の言い分が食い違っている
交通事故は突発的に発生することもあり、被害者、加害者との間で事故態様の認識が異なることが多々あります。
ドライブレコーダーや防犯カメラなどの客観的な証拠があればよいのですが、無い場合には事故態様を確定させるのにも時間を要することがあります。
どの事故類型に該当するか主張が食い違う
事故態様が確定できたとしても、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」のどの事故類型に該当するか争いになることがあります。
この書籍には多くの事故類型が掲載されていますが、全てを網羅できているわけではありません。
したがって、その類型を参考にするのか争いになることがあるのです。
修正要素の適用の可否で主張が食い違う
事故類型まで確定したとしても、修正要素に該当するかどうかで争いになることもあります。
例えば、上記の例の修正要素に「直近右折」という修正要素があります。
これは、直進車が間近に迫っている段階で右折した場合に適用される修正要素ですが、間近に迫っていたと言えるかどうか、争いになることがあるのです。
このように、過失割合を確定するにあたっては、様々な問題があり争いになることが多いのです。
保険会社提示の過失割合は変更できる?
過失割合の交渉では多くの場合、保険会社の方から、◯%:◯%となりますといった提示がなされます。
被害者の中には、保険会社がそう言うならそんなものかと考え、合意してしまう方もいらっしゃいますが、この提示を鵜呑みにしてはいけません。
過失割合の決定方法は上記したとおりですが、保険会社の提示は、あくまで加害者側の立場に立って事故態様を確定し、事故類型に当てはめ、修正要素を検討し、過失割合を主張してくるのです。
したがって、被害者側の言い分を証拠に基づいて交渉すれば、保険会社から提示された過失割合を変更することができる可能性があります。
過失割合の交渉方法
証拠の収集が重要
過失割合の交渉にあたって重要なのは証拠です。
何の証拠もなしに主張しても保険会社は受けあってくれません。
証拠としては、以下のようなものが考えられます。
ドライブレコーダー
ドライブレコーダーは、事故態様を確定させるにあたって最も参考になる証拠です。
自分の車にドライブレコーダーがついている場合には、動画を必ず保存するようにしてください。
保存しないまま、走行していると事故動画が上書きされて消えてしまう可能性があるので、事故後、速やかに保存しましょう。
防犯カメラ
事故が発生した現場が写り込んでいる防犯カメラがあれば、事故態様を明らかにできる可能性があります。
防犯カメラの映像は、基本的に警察にしか開示されないことが多いため、事故後、速やかに警察に防犯カメラの存在を伝え、保存するよう依頼された方がいいでしょう。
事故車両の写真
事故車両の写真は、どの部分にどのように衝突したかが分かる証拠です。
自分の主張に沿った破損の状況があれば、主張を裏付ける証拠となります。
また、相手方の主張と矛盾するような破損状況であれば、それを主張して相手の言い分に反論することができます。
刑事記録
交通事故加害者は、刑事罰が科される可能性があります。
刑事罰を科すかどうか決めるにあたって、警察が捜査する際に作成されるのが刑事記録です。
事故の内容によってどこまでの刑事記録が作成されるかはまちまちですが、人身事故の場合には、少なくとも実況見分調書は作成されています。
実況見分調書は、事故後に警察が当事者の話を聴取して、事故状況を調書としてまとめたものなので、過失割合を交渉するにあたって重要な証拠となります。
目撃者の証言
事故状況を目撃した第三者がいる場合には、その人の証言が重要な証拠となる場合があります。
事故現場に目撃者がいた場合には、氏名と連絡先を聞いておかれたほうがいいでしょう。
証拠に基づいて自分の主張を保険会社に伝える
証拠を揃えた後は、その証拠に基づいて、保険会社に自分の考える過失割合を主張することになります。
その主張にあたっては、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」に掲載されているどの事故類型に該当するのか、修正要素はあるのかといったことを具体的な理由とともに説明する必要があります。
「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」を踏まえずに主張しても、保険会社は取り合ってくれないでしょう。
証拠に基づいて保険会社の言い分に反論し、証拠の裏付けのある自分の主張を保険会社に伝えれば、保険会社の提示した過失割合を変更することができるでしょう。
誰が過失割合を交渉する?
被害者自身で交渉する
被害者自身で交渉することも可能です。
ただし、交渉にあたっては、上記したとおり、証拠の収集と、その証拠に基づいた主張を組み立てることは容易なことではありません。
被害者の保険会社の担当者に交渉してもらう
被害者にも多少なりとも過失割合がある場合には、対物保険が使用でき、示談代行サービスを利用して、被害者が加入している保険会社に過失割合を交渉してもらうことができます。
ただし、保険会社ができることにも限界があり、どこまで親身になって交渉してくれるかは、保険会社の担当者次第でしょう。
なお、被害者の過失割合が0%の場合には、被害者は保険を使用する必要がないので、保険会社に交渉を依頼することはできません。
弁護士による過失割合の交渉
過失相殺の判断は、専門的な知見が必要となりますので、弁護士に依頼することも検討されたほうがいいでしょう。
弁護士は、過失割合の交渉にあたって、まず、被害者の事故態様に関する認識を詳細に聞き取りして、加害者側の事故態様の認識も確認します。
その後、実況見分調書やドライブレコーダーなどの証拠を取り寄せて、被害者の言い分の裏付けとなる箇所をピックアップします。
実況見分調書やドライブレコーダーを見ただけでは、判断が難しい場合には、事故の発生原因について、専門業者に鑑定してもらうこともあります。
このように、被害者側の言い分を裏付ける証拠を固めて、保険会社に具体的に説明することになります。
また、弁護士に依頼した場合には、過失割合の交渉だけでなく、賠償金の交渉もしてもらえます。
さらに、弁護士が交渉の窓口となるため、保険会社の担当者とのやり取りをする必要もなくなります。
過失割合について困ったことがあれば、1度弁護士に相談されたほうがいいでしょう。
当事務所の過失割合に関する解決事例
事案の概要
被害者が、片側1車線の道路を走行していました。
カーブに差しかかったところで、対向車線の前方から加害車両がセンターラインをはみ出して走行してきたため、被害者は、衝突を避けるためにハンドルを左に切りました。
その結果、加害車両との衝突は避けることができましたが、被害車両は、左側のガードレールに接触し破損してしまいました。
こうした事故態様だったのですが、加害者側は、50:50という主張で譲らなかったため、当事務所の弁護士が交渉の依頼を受けることになりました。
弁護士の活動と結果
本件では、被害車両と加害車両にドライブレコーダーが付いていました。
弁護士が、ドライブレターの内容を確認したところ、確かに、加害車両がセンターラインをオーバーして走行しており、それを避けるために被害者がハンドルを切っていることがわかる内容でした。
そこで、弁護士は、ドライブレコーダーを踏まえて、事故の発生の原因は加害者側にあることを書面にて具体的に主張しました。
しかし、加害者側は、明確にセンターラインをオーバーしていたとは言えないといった主張をして、頑なに50:50の過失割合を譲りませんでした。
そのため、交渉は決裂し裁判になりました。
弁護士は、被害者側の言い分の裏付けをより説得的なものにするために、本件事故の発生原因について、業者に鑑定を依頼し鑑定報告書を作成してもらいました。
裁判においては、鑑定報告書も証拠で提出し被害者の言い分を主張した結果、被害者10%、加害者90%の過失割合で解決することができました。
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