後遺障害の併合の考え方は?|等級認定と慰謝料への影響
事故によって2つ以上の後遺障害が残ってしまった場合、「併合」して後遺障害認定されることになります。
この記事では、後遺障害の併合のルールについて解説します。
後遺障害の併合の基本ルール
交通事故に遭って2箇所ケガをした結果、その2箇所とも後遺障害に認定されることがあります。
そうした場合には、それぞれの等級が併合して認定されることになります。
併合の基本的なルールは、下表のとおりです。
一番重い等級 | |||||
---|---|---|---|---|---|
1~5級 | 6~8級 | 9~13級 | 14級 | ||
二番目に重い等級 | 1~5級 | 一番重い等級を3級繰り上げ | |||
6~8級 | 一番重い等級を2級繰り上げ | 一番重い等級を2級繰り上げ | |||
9~13級 | 一番重い等級を1級繰り上げ | 一番重い等級を1級繰り上げ | 一番重い等級を1級繰り上げ | ||
14級 | 一番重い等級 | 一番重い等級 | 一番重い等級 | 14級 |
併合例は、下表のとおりです。
併合前の後遺障害等級 | 最終的な認定等級 |
---|---|
4級、5級の認定 | 併合1級 |
7級、5級の認定 | 併合3級 |
9級、12級の認定 | 併合8級 |
14級が2部位に認定 | 併合14級 |
「併合」のその他のルール
後遺障害等級の併合には、上記の原則に加えて、以下のようなルールがあります。
同一系列内の後遺障害から評価する
後遺障害は、末尾の表のとおり、10の部位と35の系列によって細分化されています。
系列が異なる後遺障害が複数ある場合には、まず同一の系列内の後遺障害から評価して、その後、異なる系列の後遺障害等級と併合して、最終的な等級を認定します。
例えば、以下の例で説明します。
具体例 後遺障害等級併合の具体例
- 右肩関節に著しい機能障害(10級10号)
- 右肘関節に機能障害(12級6号)
- 右手関節に機能障害(12級6号)
- 左ひざ関節に機能障害(10級11号)
上記の4つの後遺障害が認められる場合、まず、同一系列の右肩関節の10級10号と右肘関節の12級6号、右手関節12級6号を併合して、9級相当と認定されます。
さらに、この9級相当と左膝関節の10級11号を併合して、併合8級の認定となります。
組み合わせの等級がある場合
後遺障害に該当する部位・系列が異なる場合には、併合して等級を決めることになりますが、後遺障害等級表に組み合わせた等級が定められている場合には、それに従うことになります。
具体例 片方の足を膝関節以上で失った場合
例えば、片方の足を膝関節以上で失った場合には、4級5号に該当します。
両足の足を膝関節以上で失った場合、4級5号が2つ認定され、併合するのではなく、1級5号「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」に認定されることになるのです。
序列を乱す場合は序列に従う
等級を併合することで、後遺障害の序列を乱す場合には、序列に従って等級認定がなされます。
以下の例で説明します。
具体例 序列を乱す場合の具体例
- 右上肢を手関節以上で失った(5級4号)
- 左上肢を肘関節以上で失った(4級4号)
これら2つの等級を併合すると、併合1級になります。
しかし、1級3号には、「両上肢を肘関節以上で失ったもの」という等級があります。
この場合、現実に生じている障害は、左上肢は肘関節以上を失っていますが、右上肢に関しては、手関節以上なので、両上肢を肘関節以上で失った場合の1級3号よりは軽い障害ということになります。
こうした場合に、上記例で併合1級と認定した場合には、序列を乱すことになります。
従って、上記例の場合には、序列に従い、併合2級の認定となります。
併合14級の後遺障害慰謝料、逸失利益
上記した表のとおり、後遺障害14級は、いくつ認定されても併合14級です。
首と腰の痛みについて、14級9号「局部に神経症状を残すもの」が認定されたとしても、併合14級の認定になります。
では、併合14級の後遺障害慰謝料や、逸失利益はどのように考えるのでしょうか。
一般的な感覚からいくと、複数の部位に痛みが残り、複数の14級が認定されているのであれば、1部位について14級が認定されている場合と比べて、何らかの増額があってもいいと考えられます。
しかし、実務上、複数部位に14級が認定され、併合14級との認定を受けた場合でも1部位の14級認定と同じ取り扱いがされています。
痛みや痺れが残った場合に認定される14級9号の場合、後遺障害慰謝料は以下の金額です。※裁判基準(裁判所で用いられている基準)で表示しています。
14級の後遺障害慰謝料 110万円
複数に14級が認定されている併合14級の場合でも、後遺障害慰謝料は110万円です。
また、逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
逸失利益の計算式
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
14級9号の場合、裁判例での多くは、喪失率は5%、労働能力喪失期間は5年とされますが、併合14級の場合も、変わらず同じ数字で計算されています。
このように、14級はいくつあっても14級であり、賠償額も原則として変わらないのが実務上の取扱となっています。
ただし、複数の14級の認定があることで、明らかに労働により支障が出ていると考えられるような場合には、慰謝料や逸失利益で増額するよう請求することも考えられます。
後遺障害系列表
部位 | 器質的障害 | 機能的障害 | 系列区分 | ||
---|---|---|---|---|---|
眼 | 眼球(両眼) | 視力障害 | 1 | ||
調節機能障害 | 2 | ||||
運動障害 | 3 | ||||
視野障害 | 4 | ||||
まぶた | 右 | 欠損障害 | 運動障害 | 5 | |
左 | 同上 | 同上 | 6 | ||
耳 | 内耳等(両耳) | 聴力障害 | 7 | ||
耳かく(耳介) | 右 | 欠損障害 | 8 | ||
左 | 同上 | 9 | |||
鼻 | 欠損及び機能障害 | 10 | |||
口 | そしゃく及び言語機能障害 | 11 | |||
歯牙障害 | 12 | ||||
神経系統の機能又は精神 | 神経系統の機能又は精神の障害 | 13 | |||
頭部、顔面、頚部 | 醜状障害 | 14 | |||
胸腹部臓器(外生殖器を含む) | 胸腹部臓器の障害 | 15 | |||
体幹 | せき柱 | 変形障害 | 運動障害 | 16 | |
その他の体幹骨 | 変形障害(鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨) | 17 | |||
上肢 | 上肢 | 右 | 欠損障害 | 機能障害 | 18 |
変形障害(上腕骨又は前腕骨) | 19 | ||||
醜状障害 | 20 | ||||
左 | 欠損障害 | 機能障害 | 21 | ||
変形障害(上腕骨又は前腕骨) | 22 | ||||
醜状障害 | 23 | ||||
手指 | 右 | 欠損障害 | 機能障害 | 24 | |
左 | 同上 | 同上 | 25 | ||
下肢 | 下肢 | 右 | 欠損障害 | 同上 | 26 |
変形障害(大腿骨又は下腿骨) | 27 | ||||
短縮障害 | 28 | ||||
醜状障害 | 29 | ||||
左 | 欠損障害 | 機能障害 | 30 | ||
変形障害(大腿骨又は下腿骨) | 31 | ||||
短縮障害 | 32 | ||||
醜状障害 | 33 | ||||
足指 | 右 | 欠損障害 | 機能障害 | 34 | |
左 | 同上 | 同上 | 35 |