頭蓋骨骨折とは
頭蓋骨骨折(ずがいこつこっせつ)とは、脳をとりかこんでいる頭蓋骨を骨折してしまうことをいい、大きく分けて頭蓋円蓋部骨折(ずがいえんがいぶこっせつ)と頭蓋底骨折(ずがいていこっせつ)の2つに分けられます。
頭蓋骨を骨折する場合、脳にまでダメージが及び脳挫傷、外傷性くも膜下出血の傷害も負ってしまうことがあります。
こうした脳外傷を負うことで高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)など重篤な後遺障害を残してしまうこともあります。
このページでは、頭蓋骨骨折の種類や症状、原因や日常生活への影響、後遺障害等について解説しています。
ぜひご参考にされてください。
目次
頭蓋骨骨折とは
頭蓋骨骨折とは、脳を取り囲んでいる頭蓋骨が骨折することをいいます。
頭蓋骨を骨折した場合には、脳挫傷(のうざしょう)、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫(きゅうせいこうまくかけっしゅ)、慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)、びまん性軸索損傷(じくさくそんしょう)などの傷害が発生していることもあり、重篤な後遺障害が残ってしまう可能性があります。
頭蓋骨骨折は、大きく分けて頭蓋円蓋部骨折(ずがいえんがいぶこっせつ)と頭蓋底骨折(ずがいていこっせつ)の2つに分けられます。
頭蓋円蓋部骨折とは、まさに頭の部分の骨折で、前頭骨・側頭骨・頭頂骨・後頭骨を合わせた部分を骨折することをいいます。
頭蓋円蓋部骨折は、さらに線状骨折、陥没骨折、粉砕骨折などに分けられます。
頭蓋底骨折は、脳の底面にある頭蓋骨の底の部分を骨折することです。
種類 | 骨折の内容 | |
---|---|---|
頭蓋円蓋部骨折 | 線状骨折 | 頭蓋骨に線状のひびが入った状態 |
陥没骨折 | 頭蓋骨が内側に凹んでしまった状態 | |
粉砕骨折 | 骨折により骨片がいくつにもわかれた状態 | |
頭蓋底骨折 | 頭蓋骨の底の部分の骨折 |
頭蓋骨骨折の症状と日常生活への影響
頭蓋骨骨折の症状
頭蓋骨の骨折のみでとどまれば、その骨折部分の痛みが生じることになります。
また、骨折部分が陥没した場合には変形してしまう可能性があります。
頭蓋骨の骨折にとどまらず、その下にある血管や脳自体に損傷が及んでいる場合には、体の麻痺、言語障害、けいれん発作、頭痛、嘔吐、意識障害などの症状がでる可能性があります。
頭蓋骨骨折は全治何ヶ月?
頭蓋骨を骨折した場合の治療期間は、骨折の程度によって変わってきます。
線状骨折で脳にダメージがない場合には、骨がくっつけば治癒することになりますので、数ヶ月〜半年程度で回復する可能性が高いでしょう(ケースにより異なります)。
一方で、脳にダメージを負っており、高次脳機能障害や体に麻痺が残るような場合には、1年以上は治療を継続して症状固定(症状が一進一退でそれ以上の治療効果が期待できない状態)に達することになるでしょう。
こうした重度の後遺障害が残った場合には、症状固定後においても医療ケアが必要になることが多いです。
全治2週間が相場?
全治2週間とは、2週間でケガが治癒するということです。
頭蓋骨を骨折した場合に、2週間で治癒するとは考えられず、全治2週間が相場ということはありません。
ただし、警察提出用の診断書の場合、医師が見込みで全治◯週間という記載をします。
警察提出用の診断書の場合、加害者の行政罰(運転免許の点数)や刑罰にも影響してくるため、かなり控えめな期間が記載されます。
したがって、医師によっては頭蓋骨骨折の場合でも、警察提出用の診断書には全治2週間と記載する医師がいるかもしれません。
頭蓋骨骨折の入院期間は何ヶ月?
頭蓋骨骨折に限定したデータでは有りませんが、厚生労働省が発表している「患者調査の概況」によれば、骨折した場合の平均入院日数は38.5日となっています。
頭蓋骨骨折の場合、軽微な骨折であれば、数日の入院ですむでしょうし、骨折の程度が重篤な場合には、植物状態になってしまう可能性もあり、入院期間には大きな幅があるといえます。
頭蓋骨骨折で意識不明となる場合
頭蓋骨骨折する場合には、頭部に強い衝撃を受けています。
この衝撃により意識障害が生じ意識不明になってしまうこともあります。
脳挫傷やびまん性軸索損傷などの傷害があり、事故直後に意識障害が継続しているような場合には、高次脳機能障害が残ってしまう可能性があります。
高次脳機能障害は、一見すると健康そうにみえますが、脳内に障害が残っており、認知障害、行動障害、人格変化などの症状が表れる障害です。
一見健康そうに見えるがゆえに、誤解されてしまうことがあるので、高次脳機能障害が残った場合には、周囲のサポートが必要になります。
頭蓋骨骨折の原因
頭蓋骨の骨折は、交通事故や労災事故などで頭部に強いエネルギーが加わることで発生します。
例えば、歩行中に自動車から衝突され、自動車のフロントガラスで頭部を激しく打ち付けた場合や、現場作業中に転落してしまい頭部を激しく打ち付けたような場合に、頭蓋骨が骨折する可能性があります。
頭蓋骨骨折の後遺障害認定の特徴と注意点
頭蓋骨骨折により、痛みが残った場合には、神経障害の後遺障害に認定される可能性があり、頭蓋骨の一部が欠損した場合には醜状障害が残る可能性があります。
また、頭蓋骨骨折にともなって、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、慢性硬膜下血腫、びまん性軸索損傷などの傷害を負った場合には、高次脳機能障害や視覚、聴覚、嗅覚、味覚の後遺障害が残る可能性があります。
高次脳機能障害は、以下の条件を満たす場合に認定される可能性があります。
- ① 脳挫傷や外傷性くも膜下出血などの頭部外傷があること
- ② 事故後、意識障害があること
- ③ 記憶障害、注意障害、社会的行動傷害、注意障害などの症状が出ていること
頭蓋骨を骨折している場合には、脳挫傷やくも膜下出血などを併発していることがあり、高次脳機能障害が残存することがあります。
高次脳機能障害の認定基準は以下のとおりです。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
別表1 1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
別表1 2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
別表2 3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
別表2 5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
別表2 7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
別表2 9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
高次脳機能障害の具体的な認定方法などについては、以下のページをご覧ください。
頭部には、視覚、聴覚、嗅覚、味覚を司る神経があります。
頭蓋骨を骨折することでこうした神経が損傷し、視覚、聴覚、嗅覚、味覚に異常をきたす可能性があります。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚に関する後遺障害について詳しくは、以下のページをご参照ください。
頭蓋骨を骨折した場合、頭蓋骨の一部が欠損するなどの醜状障害(しゅうじょうしょうがい)が残存することがあります。
頭蓋骨骨折による醜状障害の等級は以下のとおりです。
等級 | 認定基準 |
---|---|
7級12号 | 頭部に手のひら大以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損 |
12級14号 | 頭部に、鶏卵大以上の瘢痕、頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損 |
頭蓋骨骨折により痛みが残った場合の後遺障害等級としては、14級9号と12級13号があります。
等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号の場合、頭に痛みが残っていることを医学的に証明できれば「局部に頑固な神経症状を残すもの」として認定されます。
医学的に証明するには、レントゲン、CT、MRIなどの画像から、骨や骨の状態に異常があることを指摘できることが必須です。
14級9号の場合、頭に痛みが残っていることについて医学的に説明できれば「局部に神経症状を残すもの」として認定されます。
医学的に説明できるかどうかは、以下のような事情を総合考慮して判断されます。
- 事故の規模・態様
- 症状の一貫性・連続性
- 通院期間・頻度
- 治療の内容
- 神経学的検査の結果
- 画像所見の有無 など
頭蓋骨骨折で後遺症が残る確率
頭蓋骨の骨折によって後遺症が残る確率は、頭蓋骨の骨折の程度によって大きく変わります。
頭蓋骨の線状骨折で、脳の内部にまでダメージが及んでいない場合には、特に後遺症が残らない可能性もあります。
しかし、脳にもダメージが加わっているような場合であれば、後遺障害が残存する可能性は、他の傷病と比べて高いといえるでしょう。
頭蓋骨骨折後に痛みが残ると後遺障害が認められる?
上記したとおり、頭蓋骨骨折により痛みが残った場合は、14級9号と12級13号に認定される可能性があります。
頭蓋骨骨折の慰謝料などの賠償金
頭蓋骨骨折による主な賠償項目としては、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益などがあります。
これらの賠償の算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。
以下では、最も高額で適切な弁護士基準を前提に説明します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故による治療のために入院や通院を強いられたことに対する慰謝料です。
計算方法は定式化されており、入院期間と通院期間によって金額が算定されます。
例えば、通院のみの場合には下表の金額になります。
通院期間 | 慰謝料額 |
---|---|
3ヶ月 | 73万円 |
4ヶ月 | 90万円 |
5ヶ月 | 105万円 |
6ヶ月 | 116万円 |
7ヶ月 | 124万円 |
8ヶ月 | 132万円 |
9ヶ月 | 139万円 |
10ヶ月 | 145万円 |
入通院慰謝料の概算を計算したい場合には、下記ページの交通事故賠償金計算シミュレーターをご活用ください。
後遺障害慰謝料
頭蓋骨骨折によって後遺障害に認定された場合には、その等級に応じて、下表の後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
逸失利益
逸失利益は、交通事故によって後遺障害が残り、そのため働きづらくなって収入が減ってしまうことに対する補償です。
逸失利益は、以下の計算方法で算出します。
【 逸失利益の計算式 】
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
具体例として、48歳、会社員、年収480万円の方が、高次脳機能障害により5級2号に認定された場合の逸失利益の具体的計算方法を説明します。
具体例 48歳、会社員、年収480万円の方が、高次脳機能障害により5級2号に認定された場合
この場合、基礎収入は年収の480万円、労働能力喪失率は79%(5級の喪失率)、喪失期間は19年(67歳までの年数)でライプニッツ係数は14.3238となります。480万円 × 79% × 14.3238 = 5431万5849円
上記の計算式のとおり、この場合の逸失利益は5431万5849円となります。
頭蓋骨骨折で適切な賠償金を得る5つのポイント
高次脳機能障害の後遺障害申請は万全を期して申請する
高次脳機能障害は、残存している症状の程度によって後遺障害等級の軽重が決まります。
症状の程度が審査されるにあたっては、被害者側が作成する日常生活状況報告書が参考にされます。
これは、同居されている家族などが、被害者本人の事故前と後の状況について記載して作成するものです。
この記載内容はとても大切です。
事故前と後とで、被害者に具体的にどのような変化が起きたのかを具体的なエピソードを交えて記載する必要があります。
例えば、「事故前においては、きちんと金銭管理ができていたけど、事故後はお金を貸してほしいと言われるようになり、消費者金融にも借金をしている」といった具体的なエピソードを記載します(実際はもっと具体的に書きます)。
日常生活状況報告書が適切な内容になっていないと、適切な後遺障害認定がなされない可能性もあるため、しっかりと作成した上で、後遺障害申請をする必要があります。
作成に不安がある場合には、専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
醜状障害を後遺障害診断書に記載してもらう
頭の変形や傷跡が残ってしまった場合には、必ず医師に後遺障害診断書に記載してもらいましょう。
後遺障害の審査は、後遺障害診断書に記載されていることしか審査されません。
記載漏れに注意してください。
適切な賠償金の金額を算定する
交通事故の賠償基準は、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つの基準がありますが、最も高い水準である弁護士基準が適切な賠償基準です。
以下のページでは、弁護士基準での賠償額の概算が計算できるシミュレーターを掲載していますので、是非ご活用ください。
加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう
加害者側としては、できる限り賠償金の金額を抑えたいのが本音です。
したがって、賠償額の提示にあたっては、弁護士基準ではなく、自賠責基準や任意保険基準での提示をしてきます。
こうした提示で安易に示談するのではなく、提示内容を専門の弁護士に見てもらった上で、示談するようにしましょう。
後遺障害に詳しい弁護士に相談する
後遺障害等級に認定されるかどうかで賠償額は大きく変わります。
後遺障害の申請に不安がある場合や、審査の結果に不満がある場合には、後遺障害に詳しい弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
まとめ
頭蓋骨を骨折した場合には、重篤な後遺障害が残ってしまうことがあります。
そうした場合の適切な賠償額の計算は難しくなり、被害者本人やご家族で対応するのはとても大変です。
後遺障害や賠償の見通しに少しでも不安があれば、専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
当法律事務所の人身障害部は、交通事故に注力した弁護士のみで構成されており、後遺障害に悩む被害者を強力にサポートしています。
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