交通事故の弁護士費用を相手に請求できる?費用倒れとは?
交通事故の弁護士費用は、示談交渉の段階では、弁護士費用を相手に請求できません。
ただし、裁判をした場合には、裁判で認定された総損害額から既払金を控除した金額の10%が弁護士費用として認められます。
弁護士費用の請求方法、相手に請求できる額、費用倒れについて弁護士が解説します。
交通事故の弁護士費用を相手に請求できる場合
示談交渉では、弁護士費用の支払いは受けられない
示談交渉は、紛争を早期に解決できるというメリットがあります。
また、被害者としては、交通事故が原因で支出する費用は全て相手方に請求したいと考えるのが心情だと思います。
しかし、保険会社と示談交渉で解決する場合には、相手方から弁護士費用を補償してもらえることはありません。
また、紛争処理センターなどのADRを利用した場合も弁護士費用の支払いを受けることはできません。
弁護士に依頼するかどうかは、被害者の意向次第であり、弁護士に依頼しなくても自分で交渉して解決することもできます。
したがって、あえて弁護士に依頼して交渉してもらうのであれば、その費用は加害者に負担させるのではなく、被害者が負担すべきものだと考えられているのです。
ところが、示談交渉やADRではなく、裁判に至った場合には、弁護士に依頼する必要性が高くなります。
裁判は非常に専門性が高いものですので、訴訟のために弁護士を依頼するというのが一般的でもあるため、交通事故の損害賠償の根拠である不法行為責任を定めた民法709条に基づく請求については、「弁護士費用」を損害として認められているのです。
弁護士費用の全額を相手に請求できる?
弁護士費用として認められる範囲は、裁判で支払いが認められる金額(治療費や交通費、休業損害、慰謝料などの損害額の合計からすでに支払われている費用を控除した額)の10%程度です。
つまり、裁判所で認定された賠償額の10%以上の弁護士費用がかかっていたとしても、10%の範囲までしか支払いを受けることはできません。
例えば、裁判所が、被害者に300万円の賠償請求権を認めた場合には、その10%である30万円が弁護士費用として認められることになります。
弁護士費用はどうやって請求する?
裁判で弁護士費用を相手に請求する場合には、「訴状」に請求することを記載しなくてはいけません。
通常の場合、各損害項目の金額とその合計額及び既払額(すでに保険会社から支払われた額)を記載し、その差額を明示して、別途「弁護士費用」という項目の中で差額の10%を請求するといった内容になります。
記載例としては以下のようになります。
訴状
【中略】
4 損害 115万円
(1)治療費 30万円
【詳細略】
(2)休業損害 15万
【詳細略】
(3)傷害慰謝料 70万円
【詳細略】
(4)小計 115万円
5 既払金 45万円
【詳細略】
6 賠償額 70万円
7 弁護士費用 7万0556円
原告は、被告が弁償しないことから、訴訟提起を余儀なくされており、前記賠償額の1割である金7万円は、弁護士費用として本件事故と相当因果関係のある費用といえる。
裁判をすれば必ず弁護士費用を支払ってもらえる?
裁判の終結方法としては、「和解」あるいは「判決」があります(「訴えの取下げ」でも終結しますが、弁護士費用を獲得することはできないので、ここでは省略します)。
和解での終結
和解とは、裁判の中で双方譲歩して合意の上、裁判を終結させる方法です。
被害者側と加害者側で主張と立証を尽くした後に、裁判所から和解案が示されます。
その和解案で合意した場合には、和解で裁判は終結することになるのです。
和解の提示の方法は、裁判官によって少しずつ異なる部分もありますが、多くの場合、「調整金」という名目で弁護士費用も加味した金額を提示されることが多いです。
「調整金」という言葉を使わず、弁護士費用も加味した金額であることが分かるように提示されることもあります。
つまり、和解の場合、弁護士費用も加味して和解金の提示がなされるので一定額の弁護士費用は支払ってもらえることになります。
ただし、その金額が賠償額の10%とは限らず、それよりも低い割合のこともあります。
判決での終結
裁判所の提案した和解案で合意できない場合には、判決が出されることになります。
判決となった場合には、賠償額の10%程度が弁護士費用として認められます。
判決となった場合には、弁護士費用特約との関係で注意が必要です。
判決では、「弁護士費用」として明確に金額が出ます。
したがって、弁護士費用特約に加入している保険会社から、その金額分を差し引いた金額の弁護士費用しか出せないと言われることがあります。
つまり、弁護士費用が総額100万円の場合において、裁判で30万円の弁護士費用が認められたケースでは、70万円分しか弁護士費用特約では賄えないということです。
それなら、和解すればよかった、とならないように事前に保険会社に確認されたほうがいいでしょう。
費用倒れについて
費用倒れとは
上記のとおり、裁判をした場合であれば、弁護士費用を請求することができますが、示談交渉の段階では、相手に請求することができません。
したがって、ケースによっては、弁護士費用を支払うことで、逆に手元に残るお金が少なくなってしまうこともあります。
こういった場合を費用倒れといいます。
例えば、弁護士に依頼せずに60万円の賠償を受け取れる状況下で、30万円の弁護士費用を支払って交渉を依頼したとします。
結果、賠償額90万円を超える金額で合意できれば経済的な利益はありますが、仮に85万円までしか賠償額が上がらなかった場合には、費用倒れとなってしまうのです。
弁護士費用特約を利用して費用倒れを防ぐ
被害者が自分の自動車保険に弁護士費用特約を付けている場合には、弁護士費用特約を利用しましょう。
弁護士費用特約とは、弁護士に依頼した場合の弁護士費用を保険会社が支払ってくれる特約です。
この特約を利用すれば、費用倒れを防ぐことができます。
弁護士費用特約の適用範囲は広く、被害者自身が加入していなくても同居の家族等が加入していれば使用できる可能性が高いため、交通事故に遭った場合には、家族の自動車保険に弁護士費用特約がついていないか確認しましょう。
なお、弁護士費用特約には上限額があります。
多くの保険会社の上限額は300万円です。
この300万円を超える弁護士費用がかかる場合には、自己負担となりますが、多くの事件で弁護士費用は300万円以内でおさまるでしょう。
弁護士費用特約を利用する場合、LAC基準という基準に沿って弁護士費用が計算されます(一部保険会社は別基準です)。
依頼する弁護士によっては、LAC基準ではなく、独自の基準で計算される場合があります。
独自の基準で計算した結果、LAC基準での弁護士費用額を超える場合には、被害者が負担することになる場合もあります。
弁護士に依頼するにあたっては、LAC基準で依頼を受けてくれるかどうか念のため確認されたほうがいいでしょう。
裁判をする場合には遅延損害金を相手に請求できる
法律的には、加害者の損害賠償責任は交通事故が発生した時点で発生しており、この時点で加害者は被害者に生じた損害金を支払う義務を負っているのです。
つまり、加害者は、事故発生時点から賠償金の支払いを遅滞していることになります。
したがって、被害者は、賠償金が全て支払わられるまでの間に生じた遅延損害金を相手に請求することができるのです。
遅延損害金も弁護士費用と同様、裁判をすれば相手方に請求することができます。
請求できる利率は法定利率によります。
法定利率は、2020年3月31日以前は年5%でしたが、民法改正により2020年4月1日以降については、年3%に引き下げられました。
事故発生日が2020年4月1日より前か後かで利率が変わることになります。
まとめ
以上のとおり、弁護士費用は、裁判をしなければ支払ってもらうことはできません。
裁判をした場合、相手に請求できる範囲は、総損害額から既払金を控除した金額の10%です。
もし、弁護士費用特約が使用できるのであれば、費用倒れを防ぐためにも積極的に利用することをお勧めします。