後遺障害14級の金額は75万円?増額する方法を弁護士が解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

症状固定後についての質問です。

後遺障害14級で保険会社から「後遺障害部分 75万円」と提示がありました。

これは適正な金額なのでしょうか?増額することできますか?

「後遺障害部分 75万円」には何が含まれる?

交通事故の賠償内容を、大きく分けると傷害部分と後遺障害部分に分けることができます。

傷害部分の主な損害項目としては、治療費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料、付添費用などがあります。

後遺障害部分は、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益があります。

つまり、「後遺障害部分 75万円」は、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を合計した提示といえます。

 

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて金額が決まっています。

具体的な金額は、自賠責保険基準と裁判基準で異なります。

自賠責保険基準とは、自賠責保険に賠償請求した場合に用いられる基準です。

裁判基準とは、裁判をした場合に用いられる基準です。

ただし、弁護士が示談交渉を受任して交渉する場合には、交渉段階から裁判基準を用いて交渉します。

 

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって、働きづらくなり減収してしまうことに対する補償です。

被害者の年収や年齢、後遺障害等級の軽重によって金額は変わってきます。

このように、「後遺障害部分 75万円」には、後遺障害慰謝料と後遺障害部分が含まれています。

しかし、75万円は、後遺障害14級の自賠責保険の支払限度額にとどまっており、適正な賠償額とはいえません。

 

 

後遺障害14級の場合、いくらが適正な金額?

自賠責基準の場合

後遺障害慰謝料

自賠責保険基準は、賠償の基準の中で最も低い水準の賠償基準です。

自賠責保険基準での後遺障害14級の後遺障害慰謝料は32万円です。

 

後遺障害逸失利益

自賠責保険基準での逸失利益の計算式は、以下のとおりです。

計算式  基礎収入 ✕ 労働能力喪失率 ✕ 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

以下で説明する裁判基準と同じ計算式です。

もっとも、自賠責保険基準の場合、「基礎収入」に賃金センサス(平均賃金)の年収額を用いることができるなど裁判基準よりも有利な計算方法となっています。

ただし、自賠責保険には、上限額があるので、結局のところ、後遺障害部分の賠償基準のなかで最も低い基準となります。

 

自賠責保険基準には限度額がある

自賠責保険から支払われる賠償額には限度額が設けられています。

後遺障害14級の限度額は75万円です。

つまり、後遺障害慰謝料32万円に後遺障害逸失利益を加えた金額が100万円であろうが、1000万円であろうが、75万円までしか自賠責保険からは支払いを受けることはできないのです。

ちなみに、14級以外の自賠責保険の賠償額の限度額は以下のとおりとなっています。

等級 限度額
第1級 3000万円(4000万円)
第2級 2590万円(3000万円)
第3級 2219万円
第4級 1889万円
第5級 1574万円
第6級 1296万円
第7級 1051万円
第8級 819万円
第9級 616万円
第10級 461万円
第11級 331万円
第12級 224万円
第13級 139万円
第14級 75万円

※第1級と2級の()は介護を要する場合の金額です。

引用元:後遺障害等級表|国土交通省

 

裁判基準の場合

後遺障害慰謝料

裁判基準においても、後遺障害慰謝料の金額は等級に応じて決まっています。

後遺障害14級の後遺障害慰謝料は110万円です。

つまり、裁判基準では、後遺障害慰謝料のみで自賠責保険の限度額を超えることになります。

 

後遺障害逸失利益

裁判基準での後遺障害逸失利益の計算式は、自賠責保険基準での計算式と同じで以下の計算式で計算します。

計算式  基礎収入 ✕ 労働能力喪失率 ✕ 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

例えば、会社員の方が後遺障害14級9号、年収480万円のケースで計算すると以下のようになります。

480万円 ✕ 5% ✕ 4.5797 = 109万9128円

したがって、この場合であれば、後遺障害部分の適正額は、後遺障害慰謝料110万円と後遺障害逸失利益109万9128円を合計した219万9128円が適正額ということになります。

自賠責保険限度額の約3倍程度高い金額です。

 

 

任意保険会社が「後遺障害部分 75万円」で提示してくる理由

任意保険会社は、被害者に賠償金を支払った後、自賠責保険基準に従った賠償額を自賠責保険に請求することができます。

つまり、14級の場合、後遺障害部分に関して被害者への賠償金を75万円に抑えることができれば、任意保険会社としては、後遺障害部分の賠償金の支出は実質ないことになります。

こうした理由から、任意保険会社は、自賠責保険の範囲内で示談するよう勧めてくるのです。

ちなみに傷害部分(治療費、休業損害、傷害慰謝料など)の自賠責保険の限度額は120万円です。

 

 

「後遺障害部分 75万円」の提示の増額交渉

これまで説明したとおり、後遺障害部分の75万円は適正な金額とは言えません。

弁護士が示談交渉をする場合には、裁判基準を前提に交渉しますので、後遺障害部分の賠償額を増額することが期待できます。

また、被害者が、弁護士費用特約に加入している場合には、弁護士費用(上限300万円)を負担せずに依頼することができます(事案により異なる場合があります)。

まとめ

保険会社も会社として利益をあげるために、できる限り賠償金を抑えるよう交渉してきます。

安易に示談するのではなく、賠償の提示がなされたら、一度弁護士に内容を確認してもらうことをお勧めします。

 

 

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