実況見分とは?注意点・実況見分調書について詳しく弁護士が解説
目次
実況見分とは
交通事故における実況見分とは、警察官が、事故現場において、事故の被害者・加害者・目撃者等の立ち会いのもと、事故の状況を調べることをいいます。
実況見分と現場検証の違い
実況見分は、警察官が任意捜査として、事故の状況を調べます(刑事訴訟法197条1項本文)。
実況見分と似たものとして、現場検証(法律用語として、正しくは、単に「検証」といいます。)というものがあります。
現場検証は、警察官が、裁判官が発布して令状に基づき、強制捜査として事故の状況を調べるものになります(刑事訴訟法218条1項)。
実況見分と現場検証は、行う内容は共通していますが、任意捜査か強制捜査かの違いがあります。
実況見分は何を行うのか・流れ
実況見分は、事故状況等(詳細については、下記で解説している「実況見分調書の内容」に記載されている事項です)について、警察が調査します。
実況見分の一般的な流れは、以下のとおりです。
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- 1
- 所轄の警察署において、人身事故扱いにしてもらう。
(警察署に診断書を提出)
-
- 2
- 警察から被害者への方へ呼び出しの連絡があり、日程調整が行われる。
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- 3
- 事故現場で警察官の質問に受け答えをする。写真撮影も行われる。
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- 4
- 実況見分調書が作成される。
なお、物損のみの事故の場合は、基本的に実況見分は行われません。
そのため、実況見分調書も作成されません。
もっとも、実況見分調書の代わりに、「物件事故報告書」というものが作成されるのが一般的です。
実況見分は過失割合に影響する?
実況見分の内容は、過失割合に影響を与える場合があります。
過失割合で争いになる場合、最終的には、客観的証拠の有無やその内容で結論を出します。
客観的証拠とは、例えば、
- ① ドライブレコーダー
- ② 物損資料(車両写真等)
- ③ 実況見分調書
などです。
このうち、③実況見分調書は、実況見分の内容が記載されているものになりますので、実況見分の内容も過失割合に関わってくるといえます(実況見分調書については、下記で詳細を解説)。
交通事故の過失割合の決め方等について、詳しくはこちらをご覧ください。
実況見分調書について
実況見分調書とは
実況見分調書とは、実況見分を行って判明した事実等を記載した書面のことです。
誰が書く?記載内容は?
実況見分調書は、実況見分を担当した警察官等が記載します。
検察官も作成することはできますが、多くのケースでは警察官が作成しているのが現状です。
実況見分調書では、以下の内容が記載されます。
- 見分日時
- 見分場所
- 立会人
- 路面状況(舗装の有無、乾燥具合等)
- 交通規制(最高速度、信号の有無、道路標識の有無等)
- 道路条件(市街地なのか・閑散とした場所なのか、勾配状況、被害者および加害者からの見とおし等)
- 被害者、加害者の車両に関する情報(車種、車両ナンバー、長さ、幅、高さ等)
- 車両の損傷部位・程度
- その他
実況見分調書には、上記に加え、図や写真も添付されることがあります。
なお、双方の言い分が異なる場合は、実況見分調書は2通以上作成されることもあります。
証拠能力はあるか
証拠能力とは、訴訟において事実認定のために証拠として使用することのできる法的資格のことをいいます。
実況見分調書は、民事裁判において、基本的に問題なく証拠能力は認められます。
他方、刑事裁判においては、刑事訴訟法321条3項の要件を満たす場合は、証拠能力が認められると考えられています。
③ 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
取り寄せ方法
実況見分調書の取り寄せ方法については、以下のとおり、取り寄せる段階によって異なります。
取り寄せ方法 | |
---|---|
捜査中 | 取り寄せ不可(捜査中は、捜査に支障を来すため) |
不起訴 |
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刑事裁判中 | 被害者、遺族、代理人弁護士が裁判所に対して開示請求(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第3条) |
判決確定後 | 被害者、遺族、代理人弁護士が所轄の検察庁へ開示請求 |
※不起訴の場合において、被害者が、ご自身で検察庁へ開示請求する場合の流れ
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- 1
- 交通事故証明書を取得する。
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- 2
- 交通事故証明書の内容を所轄の警察署に伝え、
送致先の検察庁や送検番号等の情報を聞き出す。
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- 3
- 送致先の検察庁へ、加害者の情報や送検番号等の情報を伝え、
閲覧や謄写の依頼をする。
交通事故証明書の取得方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
実況見分は行かないといけない?
実況見分は、あくまで任意捜査なので、立ち会いを拒否することもできます。
もっとも、被害者の方が実況見分に立ち会わないと、加害者の言い分のみで実況見分調書が作成されます。
過失割合等に争いがある事案では、実況見分調書の記載内容が決め手になるケースもありますので、できるだけ立ち会い、被害者の言い分も実況見分調書に反映させてもらう方が無難です。
実況見分に立ち会う場合の注意点
実況見分に立ち会った場合、警察官に事故の状況等を正確に伝えることが重要です。
実況見分をもとに作成される実況見分調書は、刑事裁判や民事裁判(民事の示談交渉も含む)において、重要視される証拠の一つです。
曖昧な事実などについては、警察官から「〜ではなかったか?」というような誘導に乗っかって良いかどうか慎重に検討してください。
安易な妥協は、後々の示談交渉等において不利に扱われる可能性がありますので、十分注意してください。
また、事故直後などは、精神的に不安定になることも多いことから、まずはできるだけ冷静な状態で供述するようにしてください。
実況見分に立ち会えなかった場合の注意点
事故当日に救急車で運ばれたり、実況見分の日時に用事があったり等の事情で、実況見分に立ち会えないことがあります。
その際は、被害者の立会いの下、再度実況見分を行うこともあるので、警察に確認してみましょう。
また、加害者の供述のみで作成された実況見分調書は、加害者に有利に作成されている可能性が非常に高いので、その実況見分調書を警察官から見せられながら別途供述調書を作成する場合等は、安易に供述調書に署名・押印しないように注意してください。
実況見分の内容に納得いかない場合の対処法
実況見分は、原則的に何度も行われません。
そのため、実況見分の内容に納得がいかない場合は、その場で警察官に事実と異なる旨を申し入れてください。
実況見分調書や供述調書についても、署名・押印をする前なら基本的に訂正に応じてくれますので、内容をしっかり確認し、認識と異なるものはすぐに訂正してもらってください。
交通事故の被害者でも実況見分で呼び出されることはある?
上記で解説してきたとおり、交通事故の被害者でも、実況見分で呼び出されることはあります。
特に、所轄の警察署において人身事故扱いにしてもらった場合は、後日、警察から実況見分の呼び出しがあるのが通常です。
なお、実況見分にあたっては、
- ドライブレコーダー
- ご自身で記載した事故状況等についてのメモ
などの資料を持参して、事実についてできる限り正確に警察官に伝えられるような対策を講じるのが良いかと思います。
まとめ
- 実況見分及び実況見分調書は、交通事故の民事の過失割合に影響を与えることがあります。
- 実況見分調書は、被害者自身でも取り寄せることができますが、代理人弁護士が取り寄せることもできます。
- 実況見分には被害者が立ち会って実施することがあります。
実況見分は、交通事故において、刑事上の問題だけでなく、民事上の過失割合等でも重要になるものです。
交通事故の実況見分や過失割合でお困りの方は、交通事故に精通している弁護士にぜひご相談ください。