交通事故の示談書|書き方や効力を解説【雛形(テンプレート)付】
交通事故の示談書は、賠償金の金額や過失割合などを記載するもので、交通事故により発生した問題が解決したことを確認するために作成する書面です。
交渉を保険会社が行っている場合には、保険会社が示談書を作成して被害者に送付してくれます。
保険会社が交渉に関わっていない場合には、当事者で示談書を作成する必要があります。
示談書を作成していない場合には、「言った言わない」になり、約束を破られてしまう危険性もあるため、示談書は作成することをお勧めします。
このページでは示談書の書き方やテンプレートのダウンロード、作成時の注意点などについて弁護士が解説いたします。
交通事故の示談書とは?
交通事故の示談書は、賠償金の金額や支払時期、過失割合などを定める条項を記載するもので、交通事故により発生した問題が解決したことを確認するために作成する書面です。
損害賠償の額や支払い方法等を確定するための合意書であり、極めて重要な法律文書です。
「示談書」という言葉に大きな意味が有るわけではなく、「合意書」や「和解書」といった題名でも変わりありません。
大切なのは、題名ではなく中身です。
最も重要なポイントとしては、賠償金の金額や清算条項(※詳しくは後述します)が入っているかどうかが重要になります。
示談書は自分で作成できる?
示談書は、被害者と加害者で協議した結果を書面にするものなので、被害者・加害者いずれであっても自分で作成することができます。
もっとも、作成した内容が曖昧であったり、重要な条項に漏れがあるような場合には、思わぬ不利益が生じる可能性があるため、作成後は、専門の弁護士に相談された方がいいでしょう。
交通事故の示談書はいつ届く?新規作成
交渉に保険会社が関与していない場合には、自分あるいは加害者にて示談書を作成する必要があります。
もっとも、加害者側の保険会社が交渉を担当している場合には、保険会社が示談書を作成してくれます。
交渉がまとまってから、通常、1週間以内には保険会社から示談書が届きます。
示談書と同じく問題を解決したことを確認するための書面として、免責証書、承諾書といった書面があります。
示談書は、被害者側と加害者側の双方が署名押印するものですが、免責証書や承諾書は被害者側のみが署名押印をします。
人身損害(慰謝料、休業損害など)の場合には、通常、免責証書や承諾書が使用されます。
免責証書や承諾書も示談書と同様に、合意がまとまってから1週間以内には届くことがほとんどです。
示談書の書き方
①タイトル
冒頭のタイトルは、「示談書」に限られるわけではなく、「合意書」や「和解書」などのタイトルでも問題ありません。
②冒頭の文章
冒頭の文章で、誰と誰が何について示談するのかを明らかにします。
示談書の内容が簡明になるように、当事者を甲、乙として表記することを記載しています。
③賠償金の金額の確認
第1条では、加害者が被害者に対して、いくら賠償金を支払う義務があるのかを確認しています。
ここでは、「一切の損害」として記載しています。
交通事故には、人的損害(治療費や慰謝料など)と物的損害(車の修理費用など)があります。
人的損害は金額が確定するまでに時間がかかるので、先に物的損害のみ示談することもあります。
そうした場合には、「物的損害の賠償として」と記載することになります。
この場合には、第3条の清算条項において、人的損害については請求権があることを留保する形式で記載する必要があります。
④支払期限・方法・支払先
第2条では、支払い方法を記載しています。
現金手渡しで賠償金を交付することもありえなくはないですが、渡した渡していないのトラブルを避けるためにも、客観的記録が残る振込みによる方法が望ましいでしょう。
支払期限については、実務的には合意後1ヶ月程度以内で設定することが多いですが、基本的に自由です。
ただし、加害者側としては、支払期限を短期にしすぎると期限内に支払うことができずトラブルになる可能性もあるので、確実に支払うことができる期限を設定すべきでしょう。
なお、振込手数料については、加害者側が負担するのが一般的です。
⑤清算条項
第3条は清算条項です。
清算条項とは、この示談をもって賠償問題について全て解決することを確認する条項です。
つまり、示談後は、お互いに交通事故に関して金銭的な請求をしないことを約束する条項です。
⑥事故の詳細
どの事故について、示談したかが分かるように事故の詳細を記載する必要があります。
事故の詳細は、交通事故証明書に記載されています。
⑦日付・署名
末尾に、加害者、被害者の双方が自署して押印する必要があります。
作成した日付も忘れずに記入しましょう。
その他の条項について
過失割合について
過失割合について、条項として組み入れたい場合には、以下のような条項を加えることになります。
第◯条 甲乙は、本件事故の過失割合について、甲◯◯%、乙◯◯%であることを確認する。
後遺障害部分を留保する条項
原則としては、後遺障害部分の損害についても確定した後に示談するのが一般的です。
しかし、事情により先に後遺障害部分以外について示談する場合など、示談後に後遺障害の問題が生じそうな場合には、後遺障害の損害の賠償を留保する条項を設ける必要があります。
例えば、以下のような条項が考えられます。
第◯条 本示談成立後、本件交通事故を原因とした自動車損害賠償保障法施行令による後遺障害が乙に生じた場合、その後遺障害に関する損害賠償請求権を留保し、甲乙間で別途協議する。
上記は、示談時に後遺障害が認定されていない場合の記載例です。
示談時に、既に後遺障害が認定されている場合の記載例は下記のとおりです。
第◯条 本示談成立後、甲に本件と相当因果関係があり、かつ後遺障害等級●級を超える後遺障害が新たに認定された場合は、それに関する損害賠償請求権を留保し、別途協議する。
遅延損害金の条項
加害者側が支払期限までに支払わなかった場合の遅延損害金の条項を設けることがあります。
例えば、以下のような条項が考えられます。
第◯条 乙が、第◯条の金員の支払いを遅延した場合、乙は甲に対し、支払期日の翌日から支払済みに至るまで、年◯%の割合による遅延損害金を支払うものとする。
遅延損害金の定めがないときには、法定利率(3%)によることになります。
なお、債務不履行による遅延損害金の上限は以下のとおりです。
金 額 | 年 率 |
---|---|
10万円未満 | 年率29.2% |
10万円以上100万円未満 | 年率26.28% |
100万円以上 | 年率21.9% |
分割にする条項
加害者側が一括での支払いができない場合には、分割での支払いで合意することもあります。
そういった場合には、以下のような条項を設けることが考えられます。
以下の例では、賠償金210万円を毎月20万円支払う前提で作成しています。
第◯条 甲は、乙に対し、第◯条の金員を以下のとおり分割して、乙の指定する口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
- ① 2022年6月から2023年3月まで、毎月末日限り、金20万円を支払う
- ② 2023年年4月末日限り、金10万円を支払う
交通事故示談書の雛形(テンプレート)
甲が加害者、乙が被害者であることを前提にしています。
なお、当事務所は、交通事故の示談書をスマホやパソコンで簡単に制作できる自動作成機をウェブ上に掲載しています。
ぜひ、ご活用ください。
交通事故示談書作成の注意点
示談書は適切に作成すれば、法的な根拠がある書面として、とても有益なものとなります。
しかし、不適切な内容のものだと無効となってしまうので注意が必要です。
ここでは、交通事故の示談書を作成する際に注意すべきことを紹介するので、ご参考にされてください。
当事者を確定する
示談は、契約の一種であるため、契約の相手方を確定しなければなりません。
当事者の確定は、基本的には被害者及び加害者の氏名や住所で行います。
したがって、示談書には氏名や住所を記載するようにしましょう。
日時、場所等で事案を特定する
示談の対象となった事案をできるだけ特定しましょう。
交通事故の場合、通常、事故が発生した日時及び場所で特定します。
日時や場所が不明な場合、交通事故証明書を見ると確認できます。
日付や署名を失念しない
示談書には、和解契約の年月日がわかるように、日付を入れるようにしましょう。
また、当事者の合意の存在を示すために、必ず署名するようにしましょう。
被害者側
賠償額が適切か注意する
一度示談してしまうと、原則として追加の請求をすることができなくなります。
したがって、示談しようとしている賠償額が適切な金額であるか、示談する前に専門の弁護士に相談されることをお勧めします。
金額やその支払い方法を明示する
示談で合意した金額を明記します。
また、その名目についても、できるだけ記載しましょう。名目としては、「慰謝料」「損害賠償」「解決金」などが考えられます。
交通事故の場合、慰謝料以外の損害も含まれる場合が多いため、上記のうち、「損害賠償」を選択されると良いでしょう。
金額に関しては、支払い方法も重要となります。
すなわち、いつ、どのようにして支払うか、という問題です。
一括払いか分割払いか
交通事故の場合、通常、一括払いが基本となります。
しかし、加害者が保険に入っていないなど、保険金が使えない事案の場合で、相手の支払能力が乏しい場合、分割払いとなるケースもあります。
支払期限の設定を忘れない
支払期限の設定を忘れると、ズルズルと加害者に支払ってもらうことができなくなる可能性があります。
加害者が、きちんと支払うか不安な場合には遅延損害金の規定を入れるなどして、支払いについてプレッシャーをかけることも検討すべきでしょう。
加害者側
清算条項を失念しない
加害者側として、絶対に忘れてはいけないのは清算条項を入れることです。
清算条項を入れ忘れると、思わぬ追加の請求を受ける可能性があります。
示談書は、通常、権利義務を確定させて、紛争を解決するために作成するものです。
例えば、交通事故の事案で、100万円で示談したとします。
加害者としては、100万円を支払うことで決着がついたと考えるでしょう。
ところが、示談成立後、被害者が追加で100万円を支払えと請求してくることがあります。
このとき、効力を発揮するのが清算条項と呼ばれるものです。
第◯条 甲と乙との間には、本件に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
清算条項というのは上記の例ように、示談書に記載されている以外のことについては、合意後は一切請求できなくなるということを確認する条項です。
示談書のポイント
法的に有効な示談書を作成できたとしても、それがあなたにとってベストなものとは限りません。
ここでは、より良い示談を行うために、ポイントとなる点をご紹介いたします。
交通事故の専門家にチェックしてもらう
交通事故の示談書は、被害者と加害者の権利義務を確定する重要な法律文書です。
また、法的に有効な示談書を作成すると、後から取り消したいと思っても、基本的には取り消すことはできません。
そのため、示談書は慎重に作成すべきです。
上記でご紹介した交通事故の示談書のテンプレートは一例に過ぎず、示談書に記載すべき文言は、具体的な状況によって異なります。
そのため、上記のテンプレートは参考程度にとどめて、交通事故専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
交通事故に精通した弁護士であれば、具体的な状況を前提として、適切な示談書を提案してくれるでしょう。
まとめ
- 示談書は、事故の当事者が自分で作成することもできるが、思わぬ不利益が生じないように専門の弁護士に内容を相談したほうが良い。
- 一度示談すると追加での請求は原則できなくなるので、被害者は適切な賠償額であるかを十分に確認する必要がある。
- 清算条項を入れ忘れると、追加で請求される可能性があるので、加害者としては必ず清算条項を入れる必要がある。